隠家
伊達の実家のある大阪は南河内。
その近くに流れる大和川の土手に立って東を見れば県境の山々が見える。
視界の端から端まで続くこの山脈は隣の奈良県と繋がっており、一山越えれば奈良県になる。
奈良県の中でも都心部から離れた山間部では、離農した農家の家が月の家賃一万円で借り手を探していた。
ほとぼりを冷ますのに3週間、実家でゴロゴロしていた伊達は久しぶりに大阪を出ると奈良に向かう。
条件は周りに民間が無く、過疎地であること。
ネットで予約した時間に現地に向かうと平屋の一戸建ての家の前に人が待っていた。
この家のオーナーで農家の家主から説明を受ける。
電気、ガス、水道は通じているので使った分を翌月請求、家の中も外も自由に使って良い、住みやすい様に工事するのも自由。
3年契約すると言って36万円を30万に負けて貰う、契約書の写しと鍵を渡すとオーナーは帰って行った。
家の中を確認すると冷蔵庫、洗濯機などは買わないと無い様だ、近くの町の家電量販店に入ると冷蔵庫を物色する。
海外メーカーの自動製氷機の無いタイプを選ぶ、40リッターで8万円、中が広く使い勝手が良さそうだ。
冷凍ストッカーも3万円で買う、肉や魚、氷など大量にストック出来そうだ。
洗濯機は乾燥機無しの安いタイプを選ぶと掃除機やテレビなどもついでに買う。
明日付けに来ると言うので掃除機だけ持ち帰る、家中掃除して必要な物を揃えなければ。
ゴリは相棒と共に殺された老人の借用書を調べていた。
その中に気になる名前を見つける、市会議員の若手で今年当選したその議員の名前に見覚えがあった。
「なあ…この議員って確か…銃所持のリストに入って無かったか?」
日本では銃の所持は警察の許可がいる、銃砲店で銃を買うと警察に申請、何ヶ月もかけて調べられてからやっと許可が出るのだ。
調べて見ると議員は確かに銃を所持していた、しかし議員に立候補する時に返納している。
「年寄りの中には銃アレルギーの人が多いから」
そう言って返納していたと担当の署員に聞くと、ゴリは相棒と共に議員の身辺を洗った。
結果、かなりの銃好きで海外にも撃ちに行っていた事。
議員になる時に地盤も鞄も無く苦労していた事が判明した。
「選挙資金を被害者に借りてたんだな」
しかし担保は?、住んでる家はローン返済中で土地も担保にならない、元は会社員で資産もそんなに無い。
「家宅捜査出来れば良いんだが」
令状を取れる根拠が無い、そんな時に朗報が飛び込んで来た。
「選挙違反?議員がですか?」
何でも選挙活動中に金品の受け渡しがあったと密告があったと言う。
タイミングが良すぎるが家宅捜査の時に同行する許可を貰った。
家宅捜査は日の出と共に始まる、日が出ていないと執行は出来ない。
議員の自宅に踏み込むとゴリは相棒と共にガンロッカーに向かう。
ガンロッカーとは自宅に銃専門のロッカーを設置する事で、移動出来ない様に設置すること、鍵が掛かる事を警察立ち会いの元で確認する。
当時の記録を見てガンロッカーに真っ直ぐ向かったゴリは議員に開ける様に促す。
青い顔をした議員は顔に汗を大量にかきながら、震える手でロッカーを開けると中にはガンケースが入っていた。
白手袋をしたゴリがガンケースを開けるとリボルバーが収まっている、色はシルバー。
「聞きたい事が増えましたな、署までご同行願います」
時間を読み上げて議員に手錠をかけると。
「銃刀法違反で緊急逮捕します、誰かパトカーに乗せて護送しろ」
その後、議員宅は徹底的に捜索された。
一方、豊和興業の事務所では、若頭が電話に出ていた。
「例の議員…タレ込みで家宅捜査が入ったそうです」
入院中の豊和興業の組長からの電話に対応している若頭の顔は渋かった。
「俺の方が終わるまで、警察にはそっちの方を向いて貰った方が良いからな」
組長は若頭にそう言うと
「娘は?」
そう問う組長に若頭が。
「金庫室に入れてます、24時間若いのが張り付いてますから」
「もうすぐだ、コッチの準備が出来たら連れて来い」
そう言って切れた電話を眺めながら。
「組長には逆えんとは言え…後味が悪いな」
そう言うとそっと電話を下ろした。