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〜夜会での出会い〜

____本物のフローレンスがいて焦ったけど、一件落着ってとこかな。


そう呑気に構えていた私の所にある人がやってきた。


「これが噂の天才婚約者さんですか?」


兄の背からピョコン、と現れたのは、サファイアの様に艶やかに輝く水色の髪。真珠の様なくりっとした丸い目。私よりも低い背など、少し可愛らしい印象を受ける少年だった。また、頭から猫耳が生えている様に見える。目の錯覚だろうか。


彼は、カイル・ホワイト。アルバートの弟で王子だ。

とても素直な性格だが、それゆえに攻略の難易度は高かった。

また、どうでもいいが、前世のスカーレットの一番の推しだった人物である。


____間近で見ると、やっぱりかわいいな………


「そうだ。彼女が『天才』令嬢、フローレンス・クロフォードだ。」


アルバートが笑顔で言うが、その笑顔の奥に、何か黒いものが光った気がした。


____え、ちょ、ちょっと、私が天才じゃない事話したのに……アルバート、腹黒か……? あの乙女ゲーム、腹黒キャラいたな、って思ったけど、それはアルバートだったか。


私はそんな、とても重要な事を忘れていた様だ。

すると、少年は、私を見て、


「噂通り綺麗な方ですね〜」


と言う。屈託のない笑顔で。


____いえいえ、それほどでも〜


「でも、なんか普通っぽいですねー」


それを聞いて一瞬で私の表情が引きつる。

少年が言った事は正確だ。私は天才令嬢などではない。実際は庶民という身分を隠す凡人(もしくはそれ以下)だ。


____え、えぇぇぇぇ! ど、どうしよう。


私の額からだらだらと冷や汗が流れるのが分かる。

宝石のちりばめられた、周りより一際豪華なドレスのスカートを汗で濡らしながら汚く握ってしまう。

すると、腹黒王子、アルバートが私を庇って、


「私の婚約者に失礼だぞ。カイル。

フローレンスは天才だ。だが、天才のオーラを隠しているのだ。」


と言った。


「そうですか。流石ですねっ、お兄様の婚約者は。」


カイルの淀みのない笑顔は崩れてはいない。どうやら彼は私の事を天才だと思ってくれたらしい。


だが、それで一件落着とはいかなかった。

何故なら、


「アルバート、彼女が例の婚約者か。なかなかに綺麗な方だな。お前とラブラブにならないうちに奪っちゃおうかなっ。」


所々跳ねた黒髪。あえて白い歯を見せる笑い方。とても整った顔立ちではあるが、要するにチャラい。


彼は、ルーク・フィリップス。見て分かるように、チャラ男である。確か目が合っただけで大抵の女の子は惚れてしまうという。だが、私は惚れなさそうだった。何故なら、主人公に、「他の女はチョロいよ。」なんて言う様な人だという事を知っているから。

すると、


「ふざけるな。」


アルバートは、ピリピリとして、敵意をあらわにした視線をルークに向ける。


____ち、ちょっとぉ、どうしましたか? 怖いですよ、王子様。


「じ、冗談冗談。そんな本気にすんなって。」


「冗談でもだ。」


____ルークが完全に引いてるからやめてあげなさいよ。王子様。


「そ、それより、フローレンスさん、皆と会ったことないよね。」


そう、話をそらす様に焦って言って、ルークは男女2名を連れてきた。


「ごきげんよう。フローレンスさん。」


さらさらと靡かせた長い黒髪。とても大きいが、主張しすぎない上品な目。高く、筋の通った鼻。潤いのある真っ赤な唇。先にもふもふの付いたベージュの扇がとても似合っている。第一印象は、非の打ち所のない完璧令嬢。


彼女はカトリーヌ・ワトソン。令嬢の鑑と称された侯爵令嬢である。だが、乙女ゲーム内ではなかなか厄介なキャラであった。彼女は成績優秀で、学校内でも一目置かれる存在だが、カイルが好きだった為、ヒロインがカイルを攻略するのをことごとく邪魔してきた。

要するに厄介なライバルキャラだ。

だが、今はそんな人には見えない。


____乙女ゲーム内ではカトリーヌを皆が褒め称えて、すごくムカついていたけど、こう見ると、褒め称えたくなる気持ちが分かるなぁ。流石、令嬢の鑑!


すると、彼女はカイルの方を見て微笑む。


「カイル様は今日もお元気そうで何よりですわ。」


「そ、そうだね。」


カイルが苦笑いする。


____カ、カイル…顔に「この人苦手です。」って書いてあるよ……

そういえば、乙女ゲームの中ではカトリーヌはカイルが大好きだったけど、それが重すぎて、カイルは引いてたんだよね……ところで、カトリーヌはその事に気付いているのかな……気づいていなかったらカイルが可哀想だけど……


そう思い、カトリーヌの表情をうかがうも、特に表情は変わっていない。やはり、自分が重い事には気づいていないようだ。

すると、


「ほら、アレンも。」


そう言ってルークは奥に引っ込んでいた一人の少年を無理やり引っ張ってきた。


「は、初めまして。」


彼は少し嫌々でそう言って、ルークに「助けて」と目で訴えるが、ルークは気づかないふりをするだけだった。


さらさらとした黒髪。少し垂れ目がかった大きな目。

細く筋の通った鼻。見惚れそうなほど整った顔立ちをしているが、どこか暗い雰囲気を纏っていた。


彼はアレン・ハワード。

幼少期の多くを一人で過ごし、いつしか人と話すのが苦手になってしまった。だが、そこに明るいヒロインがやってきて、心の傷を癒され、結果恋に落ちた。

彼が今笑わず、こわばってしまっているのは、やはり初対面の人が苦手だからなのだろう。


____アレンの生い立ちは結構可哀想なんだよね……

ゲームの中の話なのに泣きそうになったっけ。

もともとアレンは人と話すのが苦手で、両親はいつも、活発でニコニコとしている弟を愛して、暗いアレンの事は嫌ったんだよね。

だからアレンはいつも部屋に引きこもって読書に読書を重ねたんだ。

親に叱られたり、周りの子にからかわれたりしても、慰めてくれるのは幼なじみのルークだけ。

あぁ、とっても辛い経験をしてきたんだね。

辛かったね、辛かった……

余計なお世話かもしれないけど、これをやらないと気が済まないよ。


そう思って私はアレンの頭に手を伸ばし、ぽんぽん、と二回なでた。

すると、アレンが驚きを隠さずに目を見開いて、無言でこちらを見つめてきた。

アルバートやルークもやはり驚いているようだ。


____え…あ……ちょっと流石に変だったかな。女の子だったらハグとかしちゃうけど、男の子だから、と思って頭をなでるだけだったけど、それでもやっぱり、だめだよね……何お母さんぶってるんだ。あぁ、なんて事をしてしまったんだ私はぁ! 


私は後悔と恥ずかしさで目を泳がせていた。

すると、


「アレン羨ましいな。俺にもそれやって。」


焦っていた私のところに助け船が出てきた。ルークだった。

そんなルークをアルバートが恐ろしい形相で見ていたが、私は嬉しかった。


____ルークありがとう。恥さらしな私の行動を「羨ましい」と言うことで、肯定してくれたんだ。

なんていい人なんだぁ。やっぱり、チャラくても根はいいんだね。


そんな訳で、一件落着(?)したのだった。


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