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魔法と神話の境界線  作者: 銀舞Luna
2/4

敗北

2話目です。

……まだプロローグから抜け出せてないような?

「ん…………」

 生暖かい。

 だけど、寒い。

 自分は今どうなっているのか?

 目を開くが視界がぼやけてよく見えない。

 しかし、僅かに残った色彩感覚と形で辛うじて得た情報が三つある。


 一つは自分が今まさに死にかけていること。

 寒いのは血が出すぎているから。

 生暖かさは血による温もりであり、寒さは体温が奪われていることからなる感覚のようだ。

 

 二つ目は、その場には白い制服を着た大勢の人間が、まるでバラ撒かれた藁のように、あちこちで倒れていると言うこと。

 生きているかどうかまでは、確かめようもないし、知ったことではない。

 だが、今の自分ほど酷い有り様ではないし、恐らくは生きているだろう。


 問題は三つ目。


 ピリッ、と頬の皮膚が破ける痛みが意識を少しだけ現実へと引き戻す。

 痛みの正体はすぐに分かった。

 頬のすぐ横には槍の穂先が突きつけられている。

 つまり自分は今、殺される寸前なのだと。


「しぶといですね。敵におはようと言ってやる習慣はないのですが?」


 自分とあまり歳の離れていなそうな声。

 引き寄せられるように声の主の顔を見ると、少しだけ目を見開いてしまう。

 青白い月明かりだけが照らす暗い広間の中で、ただ冷徹にこちらを見下ろしている人物。

 その顔は確かに、思わず目が覚めてしまうような面立ちをしている。

 静かな湖を思い起こすような碧眼。

 そして暗闇の中だというのに、きらびやかに輝き、まるで光を象徴するような金色の髪。後ろ髪は上品に後ろにまとめあげられ、顔の両脇から垂れ下がった横髪はややウェーブがかかり、凛とした立ち姿の中にも年相応の少女らしさが浮き出ていた。

 白い制服もあいまって、正義だとか、希望だとか、そんなものを振りかざしていても似合いそうなほど眩しい。

 だが、そんな彼女の姿にも一点だけ汚れた箇所がある。

 少女の肩。正確には少女の首から肩にかけての部分。

 唯一この部分だけが、紅色に染まり彼女の頼もしい姿を綻ばせていた。


 あぁ、思いだしかけてきた。

 彼女の首に怪我を追わせたのは自分だ。

 そして周りに倒れている大勢の人間をやったのも。

 他の人物はどのように倒したのかは覚えている。

 けれど目の前の少女だけはどのような手段を使って首に傷をつけるに至ったのかをよく覚えていない。

 事実として覚えているのは、首に短剣による一撃を入れた瞬間の光景と手応えのみ。

 彼女は可憐にも思えるほどの見た目に反して、自分が明確に勝てないと思い知らされるほどに他人よりも飛び抜けた力を持っている。

 そして、自分は負けたのだ。

 本来の魔法使いに届くであろう力を持った、魔法使い見習いに。


「…………あれからどのくらい時間が経つ?」

 緊張感の欠片もない事を尋ねてみる。

 それに対して返ってきたのは、こちらを嘲笑するのを堪えたような音と、

「今さっきの事でさえ分からないのであれば、さっさと楽になればよろしいのでは?」

 直後に溜息を挟んでからのこちらを見下した飽きれ声。

 少女の言い方から察するに、夢だと思っていた光景は、走馬灯の類いだったらしい。


 あぁ、ついてない。

 自分を殺すであろう魔法使いが、よりにもよって一番嫌いなタイプの思考だとは。

 相手の胸の辺りを見てみると何かが書いてある。恐らく名前だろう。

 お世辞にも真面とは言い難い、あまりにも拙い語学力に頼りながら、その名前を解読する。


 セイラ――セイラ・アムリスク。

 多分だが、そう読むのだろう。

「やたら高慢な性格かと思ったら……あぁ、かのアムリスクのご令嬢って訳かよ」

「貴方のような下衆でも、名前くらいは聞いたことがあるでしょう?

 であるなら、出会った直後に逃げるべきでしたね。

 それとも、討ち取って名を上げようとでもしたのですか?

 アムリスクの力を知らずに」

「いいや? そこそこ知ってるさ」

「貴方のような何の階級も持たない人間が何を知っていると?」

 恐らく知らない者はいない。

 それどころか、魔法使いを目指すのであれば、どんなに幼い子供だろうと代表例として必ず名前を挙げるだろう。

 アムリスクは光属性を主体とする魔法の名門。

 そして、

「魔法使い至上主義で差別的、それでいて魔法の発展を目指しておきながら、頂点には立てない半端な血族だろ」


 瞬間、視界が一瞬赤く反転し、火花が散る。

 気がつけば、冷たい床の上に寝転ぶような体勢で倒れていた。

 ズキズキとした感覚がある割には、痛みのようなものがない。

 麻痺したのか、あるいは死にかけてる影響で痛みすら余計な情報として遮断されているのか。

「っ…………容赦、ないな……」

「下々の戯れ言だとしても、見過ごせないものはありますよ?」

 見るとセイラは、さっきまでの余裕のある顔ではなく、まるで不倶戴天の敵を前にしたような相手を怯ませるような剣幕でこちらを見下ろしていた。

 手に持った槍は粒子を纏い、煌々と炎のように揺らめきながら、見たものの目を潰しかねないほどの輝きを放っている。

 ――触れたものを蒸発させてしまいそうな程に。


 あぁ、これは死んだ。

 恐怖を忘れてしまった感情の代わりに、体が勝手に身震いしてしまっている。

 回避は出来ない。

 それが出来るなら今頃逃げ出しているから。

 ゆっくりと目を瞑る。

 別に諦めたいわけじゃなかった。

 けれど、どうしようもない。

 荒れ狂う光の魔力の粒子が余波となって頭を揺さぶる。

 まだ攻撃されたわけでもないと言うのに、それだけで意識が飛びそうになる。


 ――もう少しだけ、死に方を選びたかったな。

 そんな場違いで、贅沢な事を思ってしまう。

 意識を手放す直前、脳裏に幼い少年少女達の姿が写し出される。

 皆、決して綺麗な格好ではなく、生活の貧しさを象徴するような格好だ。

 それでも自分のよく知る家族の姿に、少し心に安らぎが灯る。

 今まさに死ぬ瞬間だと言うのに。


「最後です。後悔しながら死になさい」

 セイラは無慈悲に槍を持つ手を振り上げる。

 投擲の動作と共に魔力が爆発したように、極光が部屋を覆う。


 その輝きに塗りつぶされるように、自分の意識は、そこで完全に閉ざされた。

早く本編に入らなくては!

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