[第5話:すれちがい]
「さよならー!」
正門にいる先生などにあいさつし、学校をでる。藍璃は少し速く歩く。藍璃はいつも夏実と帰っている。でも夏実とは部活がちがうのでどちらかがどちらかを待ち、そして2人で帰っていた。でも今は・・・咲斗のことで少し気まづくなってしまっている。だから。今日は一人で帰ることにした。なんとなくさみしいが、だからといって2人で帰ろうとは思わなかった。
・・・空は少し青くて、暗い。月がもう見えはじめている。藍璃は連を思い出す。ピアノ。流れる、完璧な音に引き込まれる。力強い・・・やっぱり好きになってしまった。ピアノもそうだけど・・・それよりも、連を。好きになってしまった。
咲斗は言った。
『明日、来てくんない?』
昼休み?連は?音楽室で約束したんだよ。
音楽室で待ってるって言ったのはあたし。その約束を自分から破るなんて、できない。でも、咲斗に呼ばれた。多分、あたしが咲斗のことを好きだって知って、その返事をするためだと思う。でも、なんで音楽室なの?連が、来るのに。
・・・でも、行くしかない。悪いけど、もう好きじゃないんだ、と伝えなければならない。それと。連には、明日音楽室には来ないで、と言わなければいけない。聞かれたくない。あたしが咲斗のことを好きだった、なんて。連にだけは、聞かれたくない・・・。
藍璃は唇を噛み締め、空を見上げた。空はさっきよりも少し暗くなっていて、月もハッキリと見えるくらいになっていた。
藍璃は・・・咲斗のことが好きなのか・・・?
連はずっとそのことを考えていた。部活のときも、今も。なぜこんなにも藍璃のことで悩むのか、自分でも分からなかった。今まで、こんな強い感情を持ったことはなかった。どうすればいいのか分からない。藍璃のことを考えていると、胸が苦しくなって、叫びたくなって、泣きたくなった。自分を抑えきれなかった。もう、何が何なのか分からなくて、ただ・・・ただ、苦しくなるだけだった。何なんだよ・・・
連はハッとした。
「オレ、藍璃のことがスキなんだ・・・!」
好き。これが、この感情が、好きってことだったんだ。やっと、気づいた・・・でも。だから、何だというのか。好きだからなんだ?どうしたいのか分からない。この気持ちを、伝える?でも伝えてどうするのか?だって藍璃は連のことが好きなんだから、どうしようもない。・・・でも、でも。咲斗にとられるなんて、イヤだ。絶対に。
でも。でも・・・
オレには何もできない。
この気持ちを伝えることも、藍璃を振り向かせることもできない。
連も、唇を噛み締めた。
_伝えたい。伝えられない。伝わらない。苦しい。_
2人とも、どうすればいいのか分からなくなっていた。想いを伝えたい、だけど伝えられない。本当に苦しんでいた。
「どうして、うまくいかないの・・・?」