[第4話:2人と待ち合わせ]
授業が終わり、清掃時間になった。みんなが席を立ち、ざわめきだす。連は動かずただ席に座ったままうつむいていた。藍璃が連の席の後ろにある掃除用具入れに向かって来る。藍璃は、連に何も話しかけずに通りすぎていった。連は、唇をかみ締めた。
『藍璃の好きな人は・・・咲斗』
咲斗。藍璃がスキなのは咲斗。だから・・・
「なんでだよ・・・」
連はうつむく。頭には、藍璃が浮かんだ。
『音楽室で、待ってる。』
その言葉どおり、音楽室で待ってくれていた。・・・待っていてくれた。クラスで何も目立たないオレは、藍璃と話すことなんて一度もなかった。話しかける勇気がなかった。でも勇気がなかったオレは、ピアノのおかげで・・・音楽室のおかげで、藍璃と話すことができた。すごく・・・うれしかった。言葉に表せないほどに。
でも藍璃にはスキな人がいた。それを知ったとき、オレは・・・何もできずにただ、こうしている事しかできなかった。悔しい。苦しい。どうすればいいのか分からない。
「連、大丈夫かよ?ってかもう掃除始まってんぞ!」
急に声をかけられた連は驚く。声をかけてきたのは、準矢だった。
「・・・何ビックリしてんだよ?いいからほら、早くしろよ!」
そう言って箒を差し出され、連は。
「ありがとう・・・」
と小さく言って受け取る。そんな連に準矢は。
「お前・・・いつも思うんだけど、本っ当に元気ねーなァ!少しは元気出せよ!・・・もっと自分に自身を持つっつーかさァ・・・」
・・・自分に自身を、持つ?
「頭もイイんだしさ、お前。また5番以内なんだろ?テストの順位。すげーよな。」
準矢はそれだけ言って去っていった。連は立ち上がり、箒で床を掃く。他のみんなは遊んでいて、掃除などしているのは連ぐらいしかいなかった。連は注意しようと思ったが、言っても聞いてくれないだろうと思って何も言わなかった。
_オレが言っても、何も変わらない。オレは、何も変えられない。_
「どうしよう・・・」
藍璃はやはりまだ悩んでいた。どうすればいいのか。・・・やはり咲斗に何か言った方がいいのか?でも、その何かが、分からない・・・!・・・その瞬間、誰かに肩を叩かれた。
「藍璃・・・」
この、声は。
「え・・・」
声をかけてきたのは。咲斗だった。藍璃は後ずさり・・・ただ咲斗を呆然と見つめる。
「あの、さ・・・オレ、鈴から聞いたんだけど・・・」
鈴から、聞いた?あたしが咲斗のことをスキってこと?やっぱり聞いたんだ?
咲斗は藍璃から少し視線をそらし、
「・・・あのさ。もし、そのことがウソじゃないなら・・・明日の昼休み、音楽室の前に来てくんないか?」
と小声で言った。
「え・・・?」
・・・え?・・・ちょっとまってよ。どうして。何で音楽室の前なの?連と約束した音楽室。
「ちょっとまって・・・音楽室は・・・」
藍璃が困ったように言うと。
「お願いだ・・・!明日音楽室に、来てくれ!・・・オレ、待ってるから。」
咲斗は藍璃の言葉を聞かずにそれだけ言って去っていった。『待ってるから。』
「え・・・どうしよう・・・」
連も、来るのに。音楽室へ。明日は断っておかないと・・・!連に。
「清掃終了時刻になりました。掃除用具を片付けて、教室に戻ってください。」
そして。清掃終了時刻の放送がながれた。