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[第2話:2人の昼休み]

(れん)!」

ピアノの音が聞こえる音楽室のドアを開けたとたん、この声がした。

「遅いじゃん!」

遅い?連は微笑む。遅いって言っても、まだ昼休みになって1、2分程しかたってない。よくこんなに早くこの音楽室にこれたな、と連は思った。

「連!楽譜、持ってきた??」

藍璃(あいり)の輝いた瞳。それを見て連は少し嬉しくなった。連は手に持っていた楽譜を渡そうと思い、藍璃に近づいた。藍璃も連に近づいてきた。連が藍璃に楽譜を渡そうと腕を伸ばす。でも藍璃はその楽譜を受け取ろうとはせずに、連の後ろに回った。

「藍璃?」

驚いている連の背中を藍璃は押した。連は急に押され、少しよろけながら前へ進む。そのまま押されて、ピアノの前まで来る。そしてピアノのイスにドサッと座った。「?」と連が、立っている藍璃を見上げる。すると藍璃は笑って

「連、また弾いてよ!月光の第3楽章!!」

と言った。連はそんな嬉しそうに笑っている藍璃を見て、今までにない感情を持っているのに気づいた。どんな感情なのかは分からないが・・・胸の鼓動がはやくなった。

「・・・分かった。」

藍璃から少し目をそらし、ピアノに向き合って座る。連は鍵盤へ指を置く前に、深呼吸をする。そして広がる連のピアノの世界。すごい、すごい。連の音だ・・・。あたしには出せない、透き通った音。・・・途中で音が止まった。

「ここまでが1ページ。藍璃、練習してみて。」

連はそれだけ言うとピアノから離れた。

「・・・分かったー。やってみるね!」

藍璃も連と同じく、鍵盤へ指を置く前に深呼吸をした。楽譜を見ながらゆっくりと引き始める藍璃。でも、なかなか上手く弾けない。藍璃は少し弾いて鍵盤から手を放した。そしてしばらく楽譜を見つめる。

「・・・連〜やっぱりむずかしぃーよぉー!!」

藍璃がそう言って口をとがらせる。その瞬間。・・・連が藍璃の後ろに来た。

「れ・・・連?!」

連は藍璃の後ろに来たかと思うと、藍璃の手に自分の手を重ねた。手を、重ねた・・・!?藍璃は驚ろく。驚ろいて・・・ドキドキした。ドキドキ、ドキドキ、胸の鼓動がはやまる。連に、この胸の鼓動が聞こえていないか心配になった。

「いきなり弾けるワケないじゃん。ちょっとオレが弾いてみるから・・・」

藍璃はドキッとして自分の手をあわてて引っ込め、ひざに置いた。すると連の腕が藍璃の顔の横から伸びる。そして連はピアノを弾きだした。やはり一音の狂いなく。藍璃は連の奏でる音を聞いて、さらにドキドキした。連の力強い手。やっぱり上手いピアノの音。全部が藍璃をドキドキさせた。

「その音は(シャープ)にしないと・・・指番号、気をつけて・・・」

連の声。胸の鼓動。流れるように動く指。だんだんと弾けるようになる。すごい、すごい・・・ッ!弾ける!

「連!弾けるよ、あたし・・・ありがとッ!!」

連はすこしピクリとする。そして藍璃の手から自分の手をはなす。連は藍璃を見つめていた。真っすぐに、藍璃を。

藍璃のピアノの音が揺れた。音が、消える。

「うぅー・・・できないよー!やっぱりむずかしぃ!!」

藍璃が鍵盤から指をはなした。その時。

「あ・・・予鈴だ・・・」

5時間目の授業の予鈴がなった。藍璃は残念そうにピアノを閉め、楽譜を持って連に近づく。連は楽譜を受け取り、

「急ごう。」

それだけ言って藍璃の前を歩き出す。それに続いて藍璃も歩く。

「ってか歩いてたら間にあわないよッ!走ろう!!」

と藍璃が連を追い抜く。連はハッとして走り、藍璃の横に並んだ。二人はそのまま走り続ける・・・勢いよく角を曲がって・・・




「・・・藍璃??」

勢いよく席に着き、息を切らしている藍璃を見て夏実は驚く。

「どこ行ってたの??もう授業始まるよ??・・・ってか大丈夫?」

藍璃はまだ息を整えている途中だ。

「だ・・・いじょうぶ・・・」

そして授業開始のチャイムが鳴り、先生が入ってくる。

「あのさ、藍璃・・・あとで話があるんだけど・・・」

夏実は早口でそう言った。藍璃は「え?」としか反応できず、戸惑っていると。

「起立!礼!」

授業が始まった。


『話があるんだけど・・・』

何の事か全く分からなかった。だが。藍璃はそんなに重要なことではないだろうと思い、そのことをあまり気にせずに授業を受ける。

・・・夏実は・・・目を伏せた。


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