1日目 職業、ホスト。
現役ホストの育児奮闘記!ここに爆誕。
大阪、ミナミ。
夜になると動き出す街。
居酒屋、バー、スカウト、ホスト。
何歳かもよく分からない女の子たち。
とりあえずヤれる子を探してウロウロする
若めのリーマン。
こんな時代でも喧嘩の理由は肩がぶつかったとかぶつかってないとか。
(毎日毎日ようもこんなしょうもないことに時間がさけるわ。)
毎日この街にいながらどこか冷めた目で俯瞰している自分がいる。この街にいるヤツの多くはここにいながらここに染まりたくないと思っている。自分より下の人間を見て安心する、みたいな。かく言う自分もそうだ。この街の住人たちをどこか上から見て安心して、そんな自分をさらに外から見て気持ち悪くなる。同族嫌悪ってやつ。こっちに出てきて一年半。よくない方の意味で変わった気もするし変わってない気もする。よくない方の意味で。
「おい」
「はい」
ボーッとそんなことを考えながら歩いていたから突発的に返事を返していた。
「はい。ちゃうわ!あれ!」
となりにいたスーツ姿の男があごでクイッと僕の視線を動かす。そこにはノースリーブの隙間から日焼けあとがチラチラ見える女の子2人組がいる。今の時間が夜中の3時だからクラブにでも行っていて出てきたはいいけどお金もないし始発までの時間を潰してるってとこか。それくらいはパッと見て分かるようになった。50m先にクラブあるし。
「若いけどクラブ帰りやから身分証もあるし初回ならいけるやろ」
「今日は予定あるし出勤までゆっくりしよ思ってたのに」
小声で本音が飛び出す。
「アホ。今日この一本取り損ねることが明日の自分の首絞めんねん」
やり手の営業マンか!って内心突っ込んでおく。
「心の中で言うとけ!」
出てたみたい。
「そんなんええから行くで」
ハァ。と一息ついて顔をあげると営業用の顔になる。パパッとシャツの襟を正して軽く身だしなみを整えたら臨戦体制。
「こんばんは〜ここの風紀を取り締まってるんやけど君ら若いよなー?10代?年確するからちょっと身分証見せてもらっていい?」
女の子2人が半笑いで顔を見合わせる。ここでスルーが7割。
「お兄さんホストやん」
これで3割。この時点で女の子は暇つぶしにでも喋っといたろ的な感じ。
「ホスト?!見える?こんなスーツビシッと着てるのに?!」
「やからやろ」
テンポのいい僕のツッコミに女の子がケラケラ笑う。つかみは十分。
「2人はクラブ帰り?」
ホストのいわゆるキャッチでは短時間で相手の情報を引き出すことが重要になってくる。1人が茶化しつつ1人は冷静に情報を集める。
「そうやで〜中暑かったし涼んでんねん」
一人の子が顔を手で仰ぎながら返事を返す。もう一人はチラチラ相槌を打ちながら携帯ピコピコ。
「え、めっちゃ奇遇。おれらも暑いから涼しいとこ行こか言うててん」
「どこー?」
もうここまできたら分かってるくせに!って感じ。少なくともこの子はホスト遊びする子だ。
「ユグドラシルって言うとこー知ってる?」
「自分の店やろー?なんか名前は聞いたことあるかも〜レイちゃん知ってるー?」
ナイスアシスト。
「んー聞いたことあるかも。リョウ君おるとこちゃう?」
「あ、神崎涼ー?」
会ったことないのに君だし呼び捨てだし友達か!って内心つっこむ。
「そうそう!そのリョウくんのとこ!そこミナミ一涼しいねん」
「絶対嘘〜けどうちらお金ないでー?」
これ、くる人が言う決まり文句。
「大丈夫!大丈夫!うち初回タダやし、一本ついてくるで!」
ここからはラストスパート。安心すると取り逃がすから気をつけろ!
「シャンパン?」
レイちゃんが顔をあげて聞く。
「いや、ゴリゴリ君」
「いらねーてか逆に欲しいかも」
アハハっと歯を見せて笑う。ここからはどうする?行く?やめとく?みたいなやり取りを形上2.3回キャッチボールしてから押しに負けてご案内。はい、いらっしゃいませー!
「レイちゃんと何ちゃん?」
「ナナ!そっちは?」
「こっちの面白い顔がエイリくん。こっちのイケメンがリョウくん」
誰がおもろい顔や!っていういつものやつ。
「リョウって–」
ナナちゃんが不思議そうな顔でこちらを覗き込む。
「ん?初めまして。代表の神崎涼です」
ここで営業スマイルドーーン。
そう。これが僕の仕事。
クラブ ユグドラシル代表
神崎涼。
ただのホストだ。