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【SFアクション中編・完結作品】トゥルー・アイズ  作者: 来栖らいか
第2章 スリーピングエッグ
4/13

〔2〕

「ならば仕方ない、力ずくでいただこう!」

 ベア・マンの腕が、アリシアの車椅子に延びた。

 カレンは素早く右足を蹴り上げ、その腕を上に払うと入れ替えに上げた左の膝でベア・マンの股間を突き上げた。

「ご……ふうっ!」

 身体をくの字に折り曲げながらベア・マンは、手を挙げ攻撃の合図を送る。すると交渉を見守っていたウルフ・マンが、嬉々とした表情で間合いを詰めはじめた。

 背中に冷たいものを感じながら、カレンは銃を抜くと威嚇のために一発目を外して撃った。

 その銃声が合図となり、牙を剥いたウルフ・マンがカレンに飛びかかる。

 次は躊躇いなく狙いを定め、カレンはウルフ・マンに銃口を向けた。だが強靱な皮膚と毛皮に守られているウルフ・マンの動きを、カレンの使用する『H&K P7M13』で止めることは出来ない。

 一人のウルフ・マンがメアリーに襲いかかり、床に押し倒すと喉を食いちぎった。もう一人のウルフ・マンは、狂ったように悲鳴を上げるアリシアを車椅子から引き剥がそうとしている。

 助けに行こうと焦るカレンの前に、再びベア・マンが立ち塞がった。

「忠告は聞いておけば良かったな、お嬢さん」

 ベア・マンが、剛毛に覆われた巨大な手を頭上に振りかざす。黒く長い爪が、ラウンジの照明を反射し鋭い光を放った。

 諦めず反撃の手段を考えるカレンは、一方で、なぜアリシアが『ビースト』に狙われたのか疑問だった。

 事件を解明できずに、死ぬわけにはいかない。

 絶望と死、目の前の状況から逃れる術は無いのか。

 空を裂き、ベア・マンの腕がカレンの頸目掛けて振り下ろされた。

 殺される……! 

 悔しさに歯噛みしながら目を閉じ、衝撃に備えて意識を凍結する。

「僕としたことが、遅れを取った。この失態は、かなり痛いな」

 ところが覚悟した衝撃の代わりに、爽やかな声がカレンの意識を蘇らせた。

 恐る恐る目を開くと、亜麻色の髪の少年が苦もない表情でベア・マンの腕を捻り上げているではないか。

「ストレイカー……!」

『T・アイズ』のストレイカーは、ベア・マンの腕を放すと上着を翻して腰のホルスターから黒いグリップを引き抜いた。長さは三〇センチほどだろうか、その形態は銃でもなく、『ビースト』と戦う有効な武器にも思えない代物だ。

 自由になったベア・マンがストレイカーに覆い被さると、その胴体が突如、一条の光線に分断された。

 倒れ込むベア・マンの重量が、床を揺るがす。見れば外傷はなく、白目を剥いて失神しているようだ。

「いったい何が?」

 カレンはそこに、緋色の剣を手にしたストレイカーを見た。ホルスターから抜いたグリップは、剣の柄だったのだ。

「ちょっと変わった形態のスタンガンですよ、衝撃を与え動きを止める道具で死にはしません。ビーストは動きが速いから、銃や体術だと追いつかない」

 魅力的な微笑みを浮かべ少年が剣を振るうと、アリシアに貼り付いていたウルフ・マンが瞬時に崩れ落ちる。切り返してメアリーを押さえ込んでいたウルフ・マンを倒した少年は、噴水のように血が吹き出す喉元に素早く左手をかざした。

 すると信じられないことに、流血がピタリと止まった。

「……良かった、まだ助かる」

 一瞬、安堵の表情になったストレイカーは、再び油断無くラウンジに視線を巡らせた。

 リーダー格のベア・マンと二人の仲間が倒されても、残り四人はアリシアを諦めるつもりが無いらしい。

 獲物を狙う野獣さながらに、鼻に皺を寄せ唸りを上げながらにじり寄ってきた。

 カレンは事態の急変に驚きながらも車椅子に駆け寄り、痙攣したように震えるアリシアを抱きしめた。

 恐怖にショック症状を起こしているのかもしれない。一刻も早く安全な場所に避難し、診察を受ける必要がある。

 ストレイカーも同じ判断をしたのだろう、緋色の剣を構えると人間とは思えない身の軽さで四人のウルフ・マンめがけ跳躍した。

 軌跡だけを残す緋色の閃光、ストレイカーの動きは目に留まらない。

 ようやくカレンがストレイカーの姿を捉えたとき、全ての『ビースト』がラウンジの床で意識を失っていた。ストレイカーの手には、光を失った黒いグリップが握られているだけだ。

「彼等は『T・アイズ』が拘束します、異論はないですね?」

 これだけの事態にかかわらず、余裕あるストレイカーの言い方にカレンは呆気にとられた。

 当然異論はあったが、今はそれどころではない。

「『ビースト』は任せるわ……私はとにかく、アリシアを専門医のところに連れて行くから」

 アリシアの車椅子を押しエレベーターに向かうカレンの腕を、すれ違いざまストレイカーが掴んだ。

「コール刑事、申し訳ありませんがアリシア・オッドマンは『T・アイズ』が保護することになりました」

 予測していた言葉だ。

 『ハイパー』に襲われた家族の生き残りであり、『ビースト』に狙われる存在。

 アリシアは、おそらく……。 

 カレンは大きく息を吸い込むと、ストレイカーを睨め上げる。

「あなたの責任において、全面協力するんじゃなかったの? 『ビースト』からの事情聴取は専門家である『T・アイズ』に頼むしかないけど、アリシアまで渡せないわ。この子は警察が保護します、『T・アイズ』には事件関係者を拘束する権限はないはずよ?」

「それは関係者が、一般市民の場合です」

「何を……言ってるの? 当たり前じゃない、アリシアは……」

「アリシアは、『スリーピング・エッグ』です。その確認を取るのが遅れて、『ビースト』の襲撃に出遅れました。僕の失態で恐ろしい体験をさせましたね、申し訳ない」

 下手な演技でとぼけても、無駄なことくらい解っていた。

 大きく溜息を吐いて力なく微笑んだカレンの肩を、ストレイカーが優しく叩いた。






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