#7
「以上で試験は終了だ!気をつけて帰れ!」
最終科目の英語を終え、軽い神崎先生からの終礼も済ませ、僕は逃げるようにして教室を出ようとした。一旦は仲が治ったとはいえ、ミカさんの一件があった以上はエミィに会いたいとは思えなかった。
「そ、空くん!」
背後から声がかかる。
ここで振り返らず、そのまま無視して帰ったのなら、エミィに会う確率は限りなくゼロにできていただろう。
しかし、その声を無視するような、これ以上傷付けるような真似は到底できなかった。僕は振り返る。
「どした」
やはりそこには自分よりも背が低くて、綺麗に撫で付けられたショートカットの女の子が居る。
照れ臭そうに彼女は言った。
「えと、この後暇ですか?」
「時間はあるよ」
隈も相当に薄くなっている彼女が、目前でぴょんと跳ねた。そういえばこころさんは、テスト中ずっと寝ていた気がする。
「やった!……じゃ、じゃあファミリーレストランでお疲れ会でもしませんか!」
こころさんは小さくガッツポーズをしてきらきらと目を輝かせている。
全く予想だにしていないお誘いだった。
今日までの勉強づけの日々、昨日の心労も相まって、気が抜けた現状に思わず笑ってしまう。
「いいね、行こう」
思わずして、僕の声も弾んでいた。
「……エミィも誘って良い?」
目の前で喜び続ける彼女に、僕は恐る恐る口を開いた。
昨日のことも、今日のことも、二人に許されたとはいえ、それで終わりという訳ではない。お疲れ会ならば、彼女も一緒にいるべきだと僕は感じた。
こころさんは目の前で、不思議そうに首を傾げた。
「元からそのつもりで、もう誘ってあります!」
「さすがだね」
まっすぐな言葉と態度の裏で、どこまでこころさんに思惑が働いているかはわからないが、思う所は似通っているのだろうと思う。
CiIを使って嫌な思いを無理にさせた僕にも、CiIと僕に操られてたとはいえ自身を傷つけたエミィにも、こころさんは平等に笑顔を向けてくれる。
今日はその笑顔に、何度救われただろうか。
「ん。お待たせ」
背後から声がかかって、その綺麗な響きにはもう棘がないように感じた。
こころさんのおかげで、やっと僕たちは本当に仲直りができそうな予感がした。