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橘フレンズ!  作者: 橘める
クッキー編 A Legendary Man
7/8

ゴキブリは砕けない

 作者:カッツォ武士


 あらすじ

 VRMMOにて雑談部屋の門戸を叩いたプレイヤー:玉葱。

どこか周囲を見下すようなきらいはあったが、フットワークが軽いこともあってか橘めるの信頼も得て、ついには雑談部屋のdiscord支部の管理を任されるまでになった。


 しかし、彼は虎の尾を踏んでしまった。橘めるという虎の尾を_____


 これはそんな彼がネット社会でも零落していくまでの物語である。



 

 日高は激怒した。

 必ず、かの邪智暴虐の橘を凝らしめねばならぬと決意した。日高には自分の欠点がわからぬ。日高は、車の工場勤めである。


 リアルでチー牛を極め、ネットでは女を漁って暮して来た。けれども個人情報に対しては、人一倍に敏感であった。

 きょう未明日高は自分の本名がネットで出回っていると知った。日高には父はいるが、母は最悪である。彼女もいない。ネット上で、一ヶ月ごとにカキタレが変わるほど美人なあむりんという女に執着し、日高の妄想の中では彼女との結婚式も間近なのである。それゆえ、彼は僅かに浮かれた気持ちで雑談部屋に入り浸り、キッズを馬鹿にして楽しんだりグループ内の女子にセクハラ的言動を繰り返したりしていた。


 ともかく、なんやかんやあって日高は自分の本名を晒した犯人は橘だと考えた。本人に問い詰めてみれば、橘は自分はやっていないとシラを切る。証拠はないし、何より日高は過去に三人以上いる通話で自ら『日高だ』と本名を口走った経緯がある。

 しかしそれ以上に、橘と過去に揉めたキチガイたちが揃って個人情報を晒されて雑談部屋から追放されている事実が、奴を犯人たらしめる何よりの証拠だ。日高は焦りのあまり、橘を犯人と決めつけることしかできなかった。


「この一件無実を証明したければケツの穴引き締めてこいよ」


 日高が言い放つと、橘はついに鼻白んで言い返すのをやめた。グループ内のフォスという女も日高と同じ考えを持っていたため、しまいには彼女の賛同も得て橘が犯人だという話に落ち着いたのである。


 次の日、橘は楽しげにこう言った。


「これから祭りを始めるよ」


 ひまりという男が炎上して消えてからは平和な日々が続いていたので、久々の祭りは楽しみである。

 しかし日高は次第に、皆の様子を怪しく思い始めた。何やら自分を見てにやついている。


 ここに入れ、と招待されて入った雑談部屋で何人かが雑談をしている。してその場で共有されているチャットでは、なんと日高の顔写真と実名が晒されていた。


「うわ、何だこの写真。何で顎出してるの?」

「チー牛だな」

「老け顔ですね」


 皆は日高の顔写真を見ながら、本人が目の前にいるにも関わらず好き勝手なことを言っている。

 しかも晒しているのは橘だ。それを見て、日高は激怒した。


「お前の顔写真もばらまいてやるからな!」


 親指の爪を噛み、スマホを固く握りしめながら、憎悪の眼差しで橘たちのやり取りを見守る。特にさかなうろこという女は日高についての愚痴を延々と語っており、心底腹立たしい。


「そもそも集合場所に1時間も遅れてくる時点でありえないし、顔パンパンでマジチー牛だったわ。あいつが泊まりたいっていうからできる限り家片付けたのに、後から汚かったとかシャンプーが髪に合わないとか文句言われて本当に最悪。イケメンならまだしもあの顔でそれ言う? って感じ」


 つい先日のクリスマスに、日高はさかなうろこ宅で泊まりのオフ会をした。しかしオフ会が終わって以降から互いにめっきり会話が減っている。その理由は色々あるが、何よりも互いに顔面が気に入らなかったという点がもっとも大きい。


「うろこの野郎、好き放題言いやがって。人がせっかく遊びに行ってやったのに、全くもって真心ってのが足りない女だな」


 両者とも本人のいない場所でオフ会の愚痴ばかり言っていたので、何度も聞かされてうんざりしていた周囲からは『底辺オフ』と称されている。


 日高はチャットには何も書き込まず、ブツブツと間隙無く呪詛のようなものをつぶやき続けた。


 怒りのあまり彼は周りの状況がまるで見えていなかった。頭の中では、橘が顔写メを晒されて悔しがる顔を想像するので精一杯だった。なぜこんなことになったのか彼は考えもしなかったし、まさか「つまらない」という理由で自分が晒されたなどとは知る由もない。


「おのれ日高大輔(※仮名)、絶対に許さん! みんな、どうすれば奴を潰せると思う?」

「ゴキブリは砕けない」

「既に顔面が砕けてるんだから許してやれよ」


 先程から過激な発言をしてイキっているベルが、ついにこちらに向かって煽り文句を飛ばしてきた。


「おい、日高大輔。黙って見てんじゃねえぞ、このゴキブリ野郎!」


「ゴキブリなんて呼び方面白くないぞ?」


 日高は咄嗟にベルに言い返し、それから怒りのボルテージを加速させて他の奴らにも精一杯反論する。


「それとカッツォ武士、人の顔面が潰れたとか言っているがお前はどうなんだ? お前こそ潰れているんじゃないのか? 他人の顔をどうこう言うならまず自分の顔を晒してから言え」


 次に矛先を向けられたカッツォ武士はドン引きして無視をした。橘めるに名前がダサいだの童貞臭いだの煽られてきたので煽り耐性はあるが、大して関わりのない日高にいきなりぶちギレられるのはさすがに怖い。

 すると無視された日高は今度はさかなうろこへと矛先を向けた。


「お前もだうろこ。デブのくせに蟇蛙みたいな顔しやがって、そんなだから27にもなって恋人がいないんだぞ」


 繰り返し愚痴を言っていたさかなうろこもまた、目の前で罵倒してくる日高のことは無視。すると年上の女性が馬鹿にされたことで今度はベルの怒りに火がついた。


「チー牛が何言っても負け惜しみにしか聞こえねぇんだよ!」


 お得意の3倍速の早口で貶してくるベルに日高も負けじと言い返そうとしたが、そこへ橘めるがくすりと笑う声が聞こえた。

 日高が最も憎むべき相手、この騒ぎの元凶である女橘めるが楽しげに笑っている。日高は腸が煮え繰り返る思いをしながら、冷静に振る舞おうと努めた。


「おい橘。なぜこんなしょうもないことをする? さては君、僕のやる気を削ぎたかっただけか?」


「いや、どうなるか見てみたかっただけ。個人情報の管理ガバガバのくせにやたら神経質なようだから、晒されたらさぞかし発狂するんだろうなって思ったら好奇心が抑えられなくて」


 「ほーん、じゃあその目論見が果たせなくて残念だったね。僕は怒るどころか呆れてものも言えないよ。祭りだとか言うからどんな面白いことをしてくるのかと思えば、こんなショボイことしかできないなんて拍子抜け」


 「その通りだね。大して面白くもなくて残念だった。ごめんね日高くん?」


 と言いつつ橘めるは心底楽しげに薄ら笑い、まるで人を玩具としか見てないような目で日高を見る。そんな糞女に同調してベルは日高を煽りに煽り、憂さ晴らしらしい憂さ晴らしをする。彼は日高の顔写真を加工し、口に排泄物をくわえさせたコラ画像を何枚も作ってグループチャットに投下した。


 日高はとうとうスマホを壁に投げつけた。あまりの怒りに、顔は茹で蛸のように赤く染まっている。

 しかし決して怒りの感情を表に出してはならない、出せばネット民のおもちゃになるだけである。


 彼らの詳しい状況は逐一太公望によって伝えられていた。


 「橘くんはまだ何かしようと意気込んでいるが、現状これ以上の手札は持ってないようだね。他の情報は何も与えてないんだろう? 鴨葱くん」


 「あぁ、まぁな。このくだらん顔いじりもどうせみんなすぐ飽きるだろ」


 他にも太公望は、皆は影でこんなことを言ってるよ、と色々なことを伝えてくれる。この二重スパイめ、と内心罵りながらも、しかし日高は太公望から状況を聞かずにはいられなかった。彼の味方は味方とは呼べないが、太公望しかいなかったのだ。内心自分に味方がいないことに勘付きながらも、彼はその事実に目をつぶった。己をごまかす術だけは一流の男であった。


 それに日高は、この状況になってもまだ、橘に一矢報いる方法が残っていると信じている。彼は自分が良い男であると信じて疑わない性格故に、肝心なことには何も気づいていなかった。


 to be continued……


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