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転生ですか?ではどうぞ、ネズミの国へ  作者: 芭蕉桜の助
second year 秋前
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焼刃

・ジョーは走った。ギルドアンバーとの合流を図り、アルケミスの独裁国家の風穴を開け、シード大陸に帰還するために。

長年恐れていた相手に背中を任せる事は、状況的にも精神的にも決して楽ではなかったが、未知の迷宮をやみくもに一人で駆け回るよりも、幾分か近道に思えた。


「ーで、あいつは何だよ?」


零矢が先程真っ二つに惨殺した筈のステインは、異形の姿に変貌して二人の前に立ち塞がっていた。


「帝国の新技術だな。人体侵食と自己再生プログラム……奴の肉体ももはや、ただのガワだ」


「厄介なモンが……!!」


ギルドアンバーと合流し、国王軍ないしは背後に控えるデッドナイトの戦力とぶつかる可能性が先に控えている今、少しでも体力を温存しておきたかった。


「ウォアァア!!!」


もはやプログラムの傀儡となった肉体を出たらめに振り回しながら、先程とは比べ物にならないパワーとスピードで詰め寄ってくる。


「どいつだァ……??国王陛下に仇なす不届きモンはア……!!」


「話し合いじゃあ突破できそうにねェな!!」


『アポロ』は完全に陽光の差さない地下では、完全なポテンシャルを発揮できない。

片や『スノーク』は速さ・軽さ・鋭さを兼ね備えた零矢のマジックアイテムといえど、地下の狭い戦場においては躱すにも限界がある。


「おい!!アンタのマジックアイテム、斬る以外に何か出来ねえのか!」


「出来るが使い時は今じゃない……温存したいのは俺もお前も同じ、人もマジックアイテムも同じだ」


舌打ちをするジョーだが、実際零矢のマジックアイテムの本領を知らない今、ここで酷使する事も愚策と言えばそうだった。

ステインを攻略しなければ、先にも進めず玉座の間にも到達できない。


「こいつを止めれば近道か?」


「少なくとも今一番の障壁ではある」


逆に言えば、こいつを突破することが帝国攻略への近道。

ステインを下して革命の火を灯し、兵力差を埋める機会へとつなげれば、あるいは現状過酷なギルドアンバーの勝率を上げる事ができる。


「レイヤアアアァァ!!!俺を謀りやがってぇェェア!!」


「じゃあ不本意ながら、引き受けた!」


決戦までの短い時間、シャルルから学んだこと、ミリオンから聞きかじった知識を元手に、この状況における最適解を叩き出す。


ー居合。


皮肉にも、『前』の世界で零矢からイヤと云うほどに喰らい続けた技法だった。

自らの腕での実践はまだだったが、彼ら二人への信頼と体幹との相性から分かった。


アポロによる居合切りは、他のそれと一線を画す程には『痛い』。

これはジョー自身の直観に過ぎなかったが、実際間違っていない。


自然界で発生する『炎』のそれに加え、撓り、畝り、彼の手のまま自在に変形し武器となる。

彼の内に秘めたる『熱』を、そのままこの世に顕現させる。


「打開策は?」


「無ェ様で……ある」


「上出来」


「ムウゥウゥウゥウゥウウダアアアダアアアアアアアア!!」


如何に自己再生プログラムが作動しているとはいえ、ステインは最早一般兵にも知性は劣る。

プログラムと人智の壁にも、必ず穴がある。


「核」を斬り落とす。ただその一点にのみ、意識を注ぎ込む。


「ハァー--・・・」


ステインの膨張に膨張を重ねた筋肉は鉄のように硬直し、関節はゴムのように伸びて身体をハンマーのように振りかぶる。

当たれば命はなく、避ければスノークに魔力をためている零矢がタダでは済まない。

もっとも、後者の必要などない。


やるべきことはたった一つ。

ハンマーのように撓り、叩きつけられる拳を跳ね返し、たったの一撃でステインを倒さなくてはならない。しつこいようだが、目指すはただ一点、核であるー。


「シィイイイイイイイイいねェアアぁぁぁ!!!」


落下直前、左足の踏み込み、からの抜刀。

この間はわずか百分の一秒。


うねる炎を剣の刃に従え、イノシシのように真っ正面からぶつかってくるステインを突く。


回炎突(かいえんとつ)!!』


狙ったのは皮膚でも臓器でもない。

意志のある死体と化したステインの四肢を操る人工知能の核だった。


零矢はその様を、眉ひとつ動かさずに見守る。

期待でも圧迫でもない。

人間の呼吸や、川の流れを見守るかのような、さも当然の摂理を見る目。


自分に並び志島家の看板を貼っていた男が、この程度できなくてどうすると言う、冷笑とも取れる瞳だった。


大木が倒れるような音を立てて、崩れ落ちたステイン。

時を同じくして到着したのは、ギルドアンバーのリリィとジェラルド。


採掘場2階のデッキから、下階広場の様子を眺めていた。


「あれか?」


「ああ、間違いないね」


リリィの返答を確認したジェラルドは、無線の電源を入れた。


「こちら別働隊。頭領、救出対象者とあんたの言う内通者を確認したが、そっちはどうだ?」


地下交易港から離れ、随分と距離のある採掘場まで来てしまったせいでトランシーバーの調子が悪かった。

頭領からの返事を待たず、リリィは採掘場を見回す。


「第3層と第4層にも増援がいる。で、しかもこれは採掘場の管理要員でしかない。上に聳える城にはまだ何万の軍勢がいる」


「無理な戦って話か?そんなモン……!」


「いくらでも議論してきた。だから、ここが肝要」


リリィは、この如何ともし難い兵力差をリカバリーするための一手を探していた。

彼女とクレシアの違いはその汎用性。


クレシアが手の中のタロットカードから世界と自分自身の状況を推し量るのに対し、リリィはそこに物理的に現存する事実のみを拾い集めて次の一手を練る。


「急いだ方が良さそうだね……!!」


呟いたのは、第3層で待機する兵団達が二人に気づき、攻撃の陣形を取り始めたからである。

彼らが持っているのは機関銃だった。


「リリィよ、俺ももう動いていいんじゃねえか」


「まだ」


「おい!!」


ジェラルドが喚くのとほぼ同時に、リリィはマフラーの下から注射器を取り出し地面にかかんだ。


楯蔓(シールドツリー)


酸素に反応するように魔法改造された植物は、注射針から溶液と種子が同時に地面に注射されると、途端に蔓となって伸び上がり、降り注ぐ弾丸から二人を守り抜いた。


「使うなら最初から言え!あせったろうが!!」


「兵法のコツは出来る限り不意をつくこと……迂闊に次の手を声に出すわけないでしょ?」


「ちっ……魔女が」


「技術者にウィザードとウィッチは褒め言葉だよ」


「で、叩くのはどこだ」


現在地から右斜め上を指差すリリィ。

すり鉢状の採掘場を周回するように張り巡らされた配管の上に、それぞれ青いランプが光る正方形の機械がある。

最も天井に近い第4層の天井の真下に、大きなモノリスが設置されてあった。


「同じランプが囚人達の腕輪にもあるでしょう。彼らがこれだけの状況で微動だにしないのは、反乱分子の一員とみなされれば、あの親機が子機である腕輪を爆発するから」


「じゃあ頭領が言ってた増援のアテってのは」


「ここの奴隷囚人たちだよ。この場所は帝国に対する負の感情の坩堝……国とケリつけるにはあつらえ向きって事ね」


「委細承知だ。あれぶっ壊せばいいんだな」


楯蔓の中で金棒を構えなおしたジェラルドを諌めるように、リリィは短いため息をついた。


「この弾丸の雨が止んだらね、ここでリタイアはやめて。まだこの先に」


「死ぬほど楽しい戦が控えてんだからなぁ!!」


リリィは続けて頭を抱えた。

まったく、どうしてギルドアンバー(ウチ)の男共は、こうのバカしかいないのだろうかと。


もう好きにして、と口にしたかどうかよく覚えていない。


楯蔓の根を引き抜くと、次に襲ってきたのは突撃部隊だった。

帝国の長年にわたる研究テーマ、人造マジックアイテムの量産、その第一成果といえる。


属性を持たない魔力の第一原子、それが空間に発生する際の衝撃をそのまま物に宿らせる。

振るだけで基礎筋力の数倍の衝撃を産むことができる槍。


それが士気と怒号を挙げて集団で降ってくるのだから、並の人間にすれば絶望の絶と書いて絶景である。


ーそう、並みの人間ならば。


「死ねェェェェェェェ!!反逆者がァ!!!」


空中機動装置を背中に携え降ってくる兵隊。

機動力も火力も向こうが上、落下してきたその瞬間に二人の子は約束されたようなものだった。


ジェラルドは、金棒を薙いだ。


彼の金棒はマジックアイテムではない。

まして彼の内側に、そういった力は存在しない。

ただひたすら鬼神の如き膂力を以て薙いだ。


上から降ってくる衝撃を上乗せして、倍で返すほどの下からの衝撃。

凄まじい音を轟かせ、壁や天井に凄まじい勢いで亀裂を生んだ。


「ぁあ、大人しく死んでやるさ」


「え……」


驚いた顔をするリリィもどこ吹く風。第一層から二人を見守るジョーと目を合わせ、ジェラルドは笑った。


「てめェら、あと1万匹狩ったらなァ」

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