壊城
・皇帝は苛立っていた。
摘んだと思っていた反逆の芽が不穏な動きを見せ、同時期に奴隷たちを閉じ込めた採掘場と連絡が取れなくなったからだ。
「まだ取れんのか……地下に蠢くドブネズミどもの首は!!!」
兄弟を殺し、反乱分子を焼き尽くし、その中枢であった義理の姉を城の奥の塔にまで閉じ込めて、果ては六大陸を混乱の坩堝に叩き落すマフィアの力を得て尚、彼に安息の日々は訪れなかった。
「陛下、伝令によりますとやはり採掘場との連絡が取れず、監視していたギルドアンバーの者達もアジトから消息を絶ち……!!」
「煩い!!今日その報告は何度目だ!?余は奴らの首を取ってまいれと申しておる!次同じ報告してみろ、貴様の首をはねるぞ」
怒り狂って深い闇に染まった皇帝の瞳。
大臣は恐れおののき、玉座からさらに3歩後ろに下がった。
今の皇帝はに疑心に満ちていた。
こいつも、番兵も、真横で酒樽を担いでいる侍女も、肚の底では、俺を父や兄に及ばぬバカ王子と見下している。
まったく腹立たしい。
「陛下、お酒は……」
「いらぬ!さがれ!」
グラスを床に叩き割り、侍女や兵たちに当たり散らす。
半父王派であった戦士や、家臣達に神輿として担ぎ上げられ、見事その地位を奪い取ることができた。
自分に力などないことは分かっていた。
それが非道な行いだとわかっていた。
それでも止めることができなかった。
頂点に立った快感と、玉座の座り心地、日の出から日没まで味わい続ける酒池肉林を、一度知ってしまったのだから。
何を恐れることがある。
何を悔やみ、何をためらう?
所詮この世の全ては諸行無常。終わりを迎えるまでの時を、いかに遅くするかの駆け引きなのだ。それが全てだ。
なれば今に、全力を尽くすのみ。
(少しでも我が王政を長引かせるために、まだ国土を踏み荒らす虫を焼き殺し尽くせばいい。今日あの虫どもを消した後は、幽閉しているあの女も殺そう。あの予言の力は重宝したかったが、余の役に立たぬなら意味はない。)
「陛下……!?」
気休めの麻酔薬のように自らを慰め、奮い立たせる皇帝。
神輿とはいえ、亡き父や兄に代わりアルケミスを導くと信じられていた名君の姿は、もうそこには無かった。
「殺すんだ……そうだよ、とにかく一匹でも多く虫を殺せばいい。
なぁ、そうだろ……ヘルガファング」
玉座の後ろにいる男に声をかけた。
背中に重そうな刀を背負い、ぼろ布のような赤黒い服を纏う、左右の耳が金髪に隠れた、ネズミというより、猛獣ような戦士。
その表情は、暗い玉座の間では分かりかねるが、眼光だけは月のように鋭く光っている。
「ァ〜〜〜かったりぃ、そりゃ俺に出ろって事かよ」
「我が帝国が、貴様らにどれだけ資金提供したと思っている?」
超巨大マフィア組織【デッドナイト】の三大巨頭。
【三銃士】が一角、ヘルガファング・ハリケーン。
組織の首魁、ラグナロクに最も近い人物であるとされ、単騎戦闘における実力は実質ナンバー2。
そんな彼が、恐怖に縛られ半狂乱寸前の、脆弱な王などに縛られる理由はない。
彼の行動原理はカオス。
彼が忠誠を誓っている組織のボスの意向そのものである。
この国とボスが利害関係にある限り、たとえ自らの意向に反していようと、国の手となり足となって戦う。
そう、表向きは……。
「そんじゃ、ちょっと斬り殺してくるか。ついでに、反逆者の中で一番強いやつもなァ……!!」
「……!?ギルドアンバーの幹部か?」
「いいやァ?こんなやつは初めてだぜ。馬鹿みてーにギラギラした気配を垂れ流しやがる、マジックアイテムの使い手さ」
「何だそれは!!外部からまだ敵が来ているというのか?」
「うるせェな……」
玉座の間を出ようとして振り返った、ヘルガファングの笑み。
「全員殺せば一緒だろ?」
生まれついての戦闘狂として名高い、デッドナイト最強の歩く戦闘兵器。
そいつが思わず愉悦の笑みをこぼすほどの、より強い戦士とは一体誰か。
自信と恐怖に駆られている今の皇帝は、すぐにもその未知なる敵に対する恐怖に押しつぶされそうだった。
ちょうどその頃。採掘場の港に、ギルドアンバーの保有する巨大潜水艦が衝突したというニュースが、アルテミス城の情報大臣の耳に入ることとなった。




