開錠
・見張りの兵は呆然としていた。
当然だ。自軍にとって最大の戦力であった男が、その一部隊長を斬り殺したのだから。
「さて……」
零矢は次に、ステインの部屋を警備していた兵を睨んだ。
たったひと睨みで"殺すぞ"と脅していることと同義なのだ。
一般兵風情では逆らう気すら失せる。
そのままベランダから颯爽と広場へ飛び降りた。
「久々になるがな。思い切り暴れるとしようか。マジックアイテム、《スノーク》」
※※※※※
騒ぎはもうとっくに気がつき始めていた。
今しも処刑されようとしていた少女と、それを助けようとしたジョー。この二人を中心に、彼に感化され快方に向かって暴れる奴隷たち。
それを抑える兵隊達と、国に与する哀れな奴隷たち。
文字通りの大混戦である。
ジョーは、この場を切り抜ける事を考えていた。
ギルドアンバーのスパイである零矢。
その零矢から渡された情報によると、今の自分の行いは作戦の大きな部分をずらすことになってしまう。
ならば少しでも、この場の戦力を減らし、ギルドの本体が到着するまで生き延びなければ。
「くそっ……結構キツイぜ」
アルケミス帝国は武器の精度が良く、さらには一般兵に至るまでなかなかの強敵だ。
剣やボウガンなどといった個性豊かな武器を使いながら、完全な連携をとり、ジョーを完全に翻弄している。
「反逆者め!どこを見ている!」
ガキン!!
鈍い金属音が戦場に響く。ジョーの剣がいくらマジックアイテムといえど、これではいくら倒してもキリがない。
とはいえ、マジックアイテムの力は、国の本丸に乗り込むまで温存しておくべきである
「お兄ちゃん、大丈夫?」
今しがた処刑されかけた少女が、心配そうにジョーの顔を覗き込んだ。
「大丈夫!こう見えてもお兄ちゃんは、シード大陸ってところじゃ一番強いんだぜ!」
「本当!?」
「あぁいや、多分10番目ぐらいかも……」
本当はもう少し下かもしれない。サバを読んでしまった。
と思いつつも、まずは彼女に恐怖を与えないこと。そして彼女をより安全な、遠い場所へ送り届けることが先決である。
まずこいつらを、単純な剣さばきだけで何とかしなくては。
「ジョー!!」
地面を滑るようにこちらへ駆け寄ってきたのは、この採掘場では模範的奴隷として顔が通っている零矢だった。
「聞き捨てならんな。誰がシートで一番強いだと?」
ジョーと背中を合わせながら、軽く小突いた。
「いいじゃねえか、かっこつけたって」
「なぜその娘を助けた?作戦を知っているお前なら、どう考えても見捨てた方が得策だ。くだらん情でも湧いたか」
「そんなんじゃねーよ。ただ……」
「?」
「惚れた女の影を見ただけだ」
「ロリコンが」
「うるせーバーカ」
もう昔のジョーではない。強く、猛く、儚く、優しく、勇気に溢れたシード大陸の希望の光。
零矢にすら、否、この独裁国家にすら彼を縛ることはできない。
背後に愛する少女の影を背負い、背中をかつての宿敵に任せ、盟友となった剣を携え勇猛果敢に飛び出した。
全てはギルドの本隊の到着まで。
一瞬の瞬きすらも許さぬ壮絶な戦場の中、ジョーはただひたすらに拳を振るう。




