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転生ですか?ではどうぞ、ネズミの国へ  作者: 芭蕉桜の助
second year 秋前
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為政者

・柚木は桟橋を走る。かの邪知暴虐の王を討ち、国に熱く明るき光を灯さんと。

ジョーは採掘場を走る。理不尽にして冷徹な刃をはねのけ、幼気な奴隷の命一つを救わんがために。


それが仮に、『作戦』としてのたがいの理想を、ちぐはぐに崩すこととなっても。


採掘場の中央に設けられた鉄柵。形作るサークルの向こうには、丸太の十字架にかけられた少女と、その肉を食いちぎらんと迫る二頭の獣。そして……。


「あのバカ……」


零矢は模範囚の牢屋から様子をうかがっていた。

数分前のことだ。この獄内で行われている"見せしめ"により、一人の少女が看守長ステイン・レイに銃殺されることになった。


少女に罪はない。強いて言えば、ステインが今日の見せしめを選んでいるタイミングで、その視界に入ったことだろうか。

ステインは、この見せしめを月に一度選定する。他の任務と被るなどした月を除き、定例は第三金曜日。

朝は、グラスに、フローチア産の紅い葡萄で作ったワインをほんのちょびっと注ぎ、妾の女を連れて寝室からベランダに出る。

看守長宿舎は採掘場と併設しており、ステインが生活している2階のベランダからは、採掘場が一望できる。

奴隷のように労働させられている者たちを、高所から一望する為、ということらしい。


策に立てかけられたライフルを取り、朝早くから採掘場で作業している奴隷たちを嘗めるようにして見回す。

そして、横で震えながら見ている女の手を取ると、耳元で囁く。


「今日は、どれにしようか?」


おぞましくも静かな笑い声を、酒の匂いを孕んだ吐息と共に、女の耳に吹き付ける。

女は耳を疑ってステインの顔を見る。そこにいるのは、笑み。残酷にして冷酷無比の、人ならざる悪魔そのものだ。


「選ぶんだよ。お前が」


ステインは静かに、女を脅した。フランス人形のような、白くて細い腕を強引に取り、採掘場の中から一人を指さすように命じる。

選ばなければ殺されるのは女。


眼を固く閉ざし、顔を背け、ガタガタと震えながら指をさす。


「よおし、それでいい。お前が今『選択する』事から逃げれば、おれは採掘場の蛆虫どもを皆殺しにしていたところだ。犠牲を選ぶ勇気とは、偽善者どもが垂れる理想より大切にされるべきだ」


この二人のやり取りを、零矢は以前、間近で聞いたことがある。模範囚として、彼の部屋の警護を任された時だ。

彼は元々、この世界にやってきてまもなくギルドアンバーに助けられ、彼らに同行していた所をアルケミス憲兵隊に見られ、共謀の名目で捕まっていたが、ギルドアンバーにまつわる情報提供や、現場での活躍を買われ、あっという間に模範囚へと上り詰めた。

それも、全ては頭領からの指示であった事に、兵隊達は誰一人気づいていないのだろう。


「反吐が出る」


小さく毒づいた零矢は、改めて仮初めの主の愚鈍さに愕然とする。

圧倒的な力を見せつけ、選択肢を最後の一つまで削り取り、弱者がせざるを得ない選択を取れば「勇気」とそう呼ぶ。


それは単なる『萎縮』だ。


お前たちが委縮させているのだ。


彼らには『勇気』などない。


お前たちが摘み取ってしまったのだから。


そんな事も分からないのか?

そんな連中にこいつらは、おとなしく飼われているのか?


零矢は元来、"愚者"と"弱者”を徹底して嫌う節があった。志島家の教えは『生くるべくは猛者のみ』。

元の世界では時代錯誤も甚だしいが、零矢はこの教示について納得していた。

強くないやつが死ぬのは当然だ。戦えず、逃げられず、ただ弱い命が権利を主張して声高に叫ぶ。


なんだこの、いかれた世界は。


「あー……。つまらん」


場面は再び戻り、零矢は、十字架にかけられた少女を見ながら囁く。父を斬り殺した時と同じ、乾いた言葉を……。


油と鉄、そして鉄の匂いが充満する中に、今日は血に飢えた囚人たちの醜悪な雄たけびがこだまする。


「せめて跡形もなく死んでくれ」


祈りとも侮辱ともつかない言葉。その言葉に操られたように、いたいけな少女に迫る錆びた槍。

胴体を貫いた刃が紅の花を咲かせて、終わり。


……になるはずだった、ゴミのような短編映画は、一人の男の乱入によって起床転結の転を与えられた。


「あのバカ、いったい何を考えているんだ……!!」


驚き、ジョーを罵る零矢。

言葉とは裏腹に、冷たい瞳孔が、背筋が、魂が震えていた。

高揚による震えを感じたのは一体いつぶりだろう。


「私は……何を笑っているんだ?」


ジョーが乱入したことにより、奴隷の一部が暴動を起こし、処刑の広場は大パニックだ。

これだ。威張り腐った権力者たちの、秩序が瓦解していく様。


これをずっと待っていたとばかりに、零矢の魂は換気した今にも大笑いしたい気分だ。


「おい貴様、何をしている?早くその剣を抜かんか!」


「申し訳ありません、ステイン様。あの賊共より先に、叩き斬りたい相手ができました」


明らかにステインの機嫌を損ねたらしい。

それも彼にとっては想定内だった。なぜなら……。


「俺の命令に逆らってまで斬りたい相手がいるだと?面白い。言ってみろ」


「恐れながら申し上げます。私が斬り飛ばしたい相手は……」

 

指先一つ微動だにせず、広場を眺めたままこちらに話しかける、零矢の背中が、ステインが五体満足で見た最後の光景だった。


「貴様だ。為政者め」


次の瞬間、ステインの上半身と下半身は二つに分断されていた。

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