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転生ですか?ではどうぞ、ネズミの国へ  作者: 芭蕉桜の助
second year 秋前
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偵察

・最初のミッションの朝、オレはただ足を引っ張る結果になった。オーディンスの憲兵は、俺の首元にトミーガンを押し付ける。指一本でも動かせば、今にも撃ち殺されそうな雰囲気だ。


「まさかこんな紋を……まだぶら下げる奴がいようとはな……」


一番長身の憲兵(他の者たちに隊長と呼ばれていた)が、別の兵に羽交い締めにされた柚希の髪留めをいやらしい目で眺める。


魚の切り身をバーナーで炙るように、男の暑くねっとりした視線が柚希を刺す。アマリアを相手にあれほど勇敢に立ち回った柚希だが、よほど精神的に来ているらしい。


前の晩、ギルドに入るまでは生前のトラウマで、年上の男性があまり得意ではないと話してくれた。


この状況は、ある意味的確に彼女の弱点を突いているのかもしれない。


「何か答えろとは言わんよ、ヘタに拷問して死なれると厄介だ。 こういう輩は労働に回すのが決まりでね。」


「 私たちを……どうするつもり?」


「どうもこうも……デッドナイトの諸君はどうも君たちを警戒していたらしいが、 何のことはない。貴様らは所詮地下に蠢き、陛下の作った栄華を爪を噛んで妬むドブネズミだ。

何を企んでいようが、我が国の戦力を前には恐るるに足らん。」


こうなるはずではなかった。


今朝のことである頭領から命じられた初のミッションは、高町の偵察だった。



数年前から頭領はずっと、行政の改善を国王に促してきた。

中町以下の住民たちは重税と、長時間労働に苦しんでいて、彼らに最も近く、同時に国王と口をきくことのできる頭領は、彼らの希望だった。

頭領このギルドを王に謀反を起こすための手段として父から受け継いだが、 子供の頃の彼を良くしっている頭領は、なかなか彼と喧嘩がしづらかったのだ。


壮年の国王は、頭領の思いと裏腹に、民の負担を軽く見ていた。


彼は不満を押し殺して必死に国王に申し立てたが、先日ついには謁見を断られ、 あげく永久鎖国宣言を締結してしまった。


それ以降、頭領は国王とのアポイントメントを取り付けるのを止め、 ギルドアンバー高町本部を閉鎖。

国王に無断で工房を閉じた彼らは犯罪組織と認定され、地下でひっそりと革命の準備を進めてきたのだという。


頭領はいよいよ本格的に作戦の始動を考え始めていた。

デッドナイトと結託し、悪政を強いる彼に、鉄槌を下す日を待ち望んでいた。


俺は幹部たちと一緒に、そのほぼ全容を聞いたと言ってもいいかもしれない。こんなことは新入隊員では異例だという。その陰で俺が大陸の脱出を目論んでいたことは、恐らく誰も知らない。


いつもの通り隠し通路のテントを出て、迷路のような下水道の、細いパイプ通路を伝うところまでは良かった。


だが……。


繁華街の調査中運の悪いことに憲兵団に出くわした。

スラムの少年少女達にリンチを繰り返し、彼らの貴重な人影のパンを奪い取る兵たちの姿。俺はたまらず、前に出てしまったのだ。


「ジョー!待ちなよ!今は……!」


柚希が止める声も聞こえず、袖を掴んでくれた手を無意識に振り払うほどに、俺の怒りは煮え滾ってしまっていた。


結局二人ともとらえられ 今この有様である。


「とはいえお前等、折角だ……基地まで案内してくれよ。国王はともかく、 シャナルア王妃がうるさくてな。」


国王とは別に王妃がいたのか?

俺にとっては聞きなれない名だが、捨て置くわけにはいかなかった その名前が出た瞬間に柚希の顔色が変わったからである。


「 王妃様に……何をする気なの?!」


唇からは血が出てるし、声がガタガタと震えている。

涙目だったさっきとは違って焦点は合うが、よほど彼女にとっては危機的に見える。


真夏の砂漠で野ざらしにされていた旅人が、突然氷の大地に落とされたようだ。


「処刑だよ。 やりすぎな気もするが、まあ国王にしてみれば死んだ兄貴の嫁だ。 自分に口出しできるやつが城内に入られると邪魔なんだろう。」


「よくも……よくも……よくもそんなことを! お前たちがこの国がどれだけ あのお方に救われたと思って……!!」


「だとしても!!あの女の功績は、今の兵士たちが生まれる前のもの。とっくにカビが生えてるぜ。」


隊長格はパイプをふかしながら、柚希の怒号叫びを一蹴する。

彼女がさらに強く自分の唇を噛むと先ほど以上の勢いで赤い雫が垂れた。


俺はこの国の事情などまだ何も知らない。


けど客観的に見てこれはチャンスだ。

こいつはおそらく柚希が怒りのあまり何か口を滑らせるか、 俺に銃を突きつけて秘密基地の場所を吐くのを待っているんだろう。


長い目で見れば、チャンスなのだ。こいつらはギルドアンバーを舐め腐っている。

デッドナイトと共謀したこの国の軍隊が、果たしてどれくらいの力を持っているのかわからない。


ギルドアンバーは少数精鋭だが、俺が試練に当たった戦士以外にもたくさんのマジックアイテム使いがいた。

どんな兵器が出てきたとしても、おそらく惨敗ということにはならないだろう。


頭領の話が本当ならまだ増援が来るという。

この国の圧政に不満を抱いているのは、何もギルドのメンバーだけじゃない。


ギルドがいざ行動を起こした時、国民の何割かが味方についてくれることもあるかもしれない。


今ここで柚希と、引いてはギルドこいつらを引き離すことによって、不意打ちのチャンスが生まれるのだ。


これはおそらくシード大陸帰還には遠のくかもしれないが、 彼女の悲痛な叫びを聞いた俺は隠し玉を使うことにした。


「柚希……ごめん。 あの時俺が、お前に言われた通りちゃんと止まってれば……。」


「いいよ、もうそんな(こた)ァいいんだ!でもざ……ジョー……!あだじ……悔しいよ……!!」


「うん。」


「ごんな所で……終わりだぐない!」


暑い悔し涙も流れてきて、ろれつが回っていない柚希。

俺はそのボールを投げる前に、一言彼女に呟いた。


「合図したら速攻でその兵隊の腕を噛んで。後の事は……なんとかする!」


ポケットに入っていた催涙弾と煙幕が入った爆竹を投げる。


たちまちあたりは轟音とともに煙に包まれ、 俺達をなめ腐っていた周りの兵隊はバタバタと倒れる。

柚希は、俺の指示通りに兵隊の腕を噛んでするりと脱出し、マントで目と鼻を軽く塞いだ。


「 ジョー早く!!」


「ダメだ! 俺はこいつらに抵抗する!」


疑問の表情を浮かべる柚希に、俺は耳打ちした。


「ギルドの作戦は、まだ生きてる!この騒ぎは元はといえば俺の責任だし、今ここで二人とも逃げたら、最悪基地の場所が特定されてすべてがおじゃんだ。」


「けど……!!」


「俺は何も無駄死しようってんじゃない。ギルドアンバーの皆と君と自分を……全部生かす最善の策を考えた! 信じてくれる?」


黙って頷きながら走り去る柚希を見て、 俺はシードで待っている家族のことを思い出した。


「みんなにも……あんな思いさせてんのか。悪かった。」


ようやく立ち上がった兵隊が、槍を持って俺に突進してくる。

俺は振り向きざまに膝蹴りをぶちかまし、起き上がった隊長格を睨みつける。


「 かかってこいよ雑兵ども!俺はただの通りすがりだ!!!」

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