密航
・同日、午前11時30分。
あたふたしている姉貴を連れ、 俺は万事屋ミリオン7番裏倉庫の更に裏にある港に向かった。
この港は大きいが普段一般市民が入ることのない、囚人の護送や貿易、 表には出しづらいやり取りが行われている。
倉庫は十遠棟近くあり、中にはそんな倉庫の中で悪さを働く不良などもいる。
以前、兄貴達と共に戦ったデッドナイトのリディア。
そして彼にけしかけられたカシューのチンピラ、ジョニーもその一つ。
今思えば、あの事件が、劇的にこの組織と俺たちを近づけるきっかけになったと思う。
「ねぇルッキー、 私達こんなことしていいのかな……。」
「駄目に決まってんじゃん……見つかりゃ捕まる歳だよ?俺も姉貴もね……?」
「え〜〜!?」
「しっ! 見つかる!何を今更言ってんの?」
まったくびっくりさせられる。これだけ大それたことをしてるのに、 しくじっても無事に帰れると思っているのだ。
今やっていることは密航。 ヘタをすれば、大陸機密に触れた罪でしょっぴかれることもあながち大げさではない。
人がまばらになっている間に 大砲の弾丸を詰めるあの箱の中へ潜入する。
船に乗ってしまえば、あとは適当な場所に隠れればいい。
潜水艇と戦艦を設計したのが全て父さんで助かった。
おかげでた図面はとっくに俺の頭の中だ。
うまくくすねるのに苦労したが、クリスが手伝ってくれて本当によかった。
「ルッキー!あの箱! 今みんな視線が外れてるよ?」
「チャンスだ!入るよ姉貴?」
「嘘でしょ!?あんな狭いとこに……。」
「我慢しなって!ちょっとの間なんだから……。」
物陰をうまいこと隠れながら、 砲弾の入った木箱の中に隠れる。
「うぅ〜……火薬くさ〜い!!」
「鼻でも摘んどけば? それとも降りる?今ならまだ迷子になりましたで許してもらえるよ。」
「らめよ!あだしがお兄ちゃん迎えにいぐんだがら!」
我が姉ながら、文句が多いとはいえたいした根性だ。
またはこのまま変に騒がなければ、 無事に出向してくれるはず。
俺たちの入ってる箱や、周りに並んでいたたくさんの箱がカートに乗せられて動くのを感じる。
いよいよ出港の準備が整いつつあるらしい。
「ねぇルッキー。」
「ぁにさ。」
「この箱大砲の弾とか色々入ってるけど、こんなのいっぱい積んで戦争でもしに行くの……?」
「いや、あくまで兄貴の捜査訪問。名目上と言うか表向きは。」
俺とドライな言い方をしたせいか、暗いところなのに姉貴が不安な顔をしているのが分かる。
「 表向きって?」
「こっちの目的は兄貴の回収、だけど多分それじゃすまない。 少なくともシード大陸はそう思ってない。」
「……何が、起こるの?」
「 全くわからない。ていうか何が起きてもおかしくない。 兄貴を回収して無事に戻れるだけってのはまずありえない。
シード大陸の覇権戦争以降ある事件が原因で オーディンズは外との国交を完全に断絶してる。
うっかり業界に入っちまったフローチアの漁船が、粉々にされて沈められるレベルさ。」
「事件?」
「細かい説明は長くて難しいから省くけど、彼らは他の大陸を、とりわけシードのことはよく思ってない。場合によっては全面戦争にもなりかねない。それでもこの作戦を敢行したのは、デッドナイト撲滅のための最重要カードだからだよ。多分ね」
おそらく姉貴には、俺の言っていることの意味はわからないだろう。 それでも問題はなかった。俺自身話をうまくまとめられた自信はないから。
オーディンスは謎の多い大陸だ。
市民の生活水準はともかく、 派遣戦争後国交を断絶したのに、 工業的発達が目覚ましいと聞く。一体その技術はどこから入ってきたのか。
なぜそこまで執拗に外部からの来客を拒むのか。
様々な憶測があるが、どれも確信には遠い気がする。
何かとてつもない大きな陰謀が渦巻いて、 長いこと幾重にも渡る 渦が折り重なり、熟成して今この騒ぎに至ってる気がする。
だとしたら、この得体の知れない悪意の正体は何なのか。
その正体に兄貴は食い殺されていないのか。
不安に思っても仕方がない。 ひとまず俺は、俺の役目を果たす。 姉貴を守りながら兄貴を無事拾いに行く……。
と決心したその時。
俺は全身の毛が逆立つのを感じた。
突然砲弾入れが開いたからだ。
「あなた達……何してるの、こんな所で!?」
姉貴も俺も思わず凍りついた。 俺達の目と鼻の先に、ローズの姐さんの顔があったからだ。




