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転生ですか?ではどうぞ、ネズミの国へ  作者: 芭蕉桜の助
second year 秋前
72/86

司令

・ナツグミストリート。

シード大陸最大規模の娯楽の街であり、自治、行政など 大陸の中枢機関が集中している。 テレビ局やラジオ局や、野球ドームにライブハウス、遊園地なんかもあるが、私の職場はどれでもない。


テレビ局電波塔の東側、火消し組総本部に隣接する、 大陸会議事堂の総合通信司令室。

部屋の隅っこの埃臭い所に、半ば忘れられた様に置かれている、福祉相談課のデスク。


ここが私の仕事場だ。


若い頃はもっと、モチベーションに溢れていた。と言っても私はまだ、二十代後半なのだけど。

いや、今年ここに入ってきた子達からすれば、もう私は若くないだろう。


この大陸のために、身を粉にして働くんだ。

大好きなあの人と一緒に。

そんなふうに息巻いていたあの頃の自分はどこへやら。


マイケルはいなくなるわ、病気して長期休職にはなるわ、戻ってきたら戻ってきたで上司からのモラハラ、セクハラは半端じゃないわ……。


楽天家の父親のもとで育てられたせいか、ここまで現実が思い通りにいかないとは思わなかった。

学校ではそういう風に習ってきたけれど、 孤独に押しつぶされそうな夜に、一緒に戦ってくれた彼はもういない。


そんなこと、わかっていたはずなのにー。


戻ってきたと思ってしまった。彼に出会ったその時に、マイケルが……戻ってきたと思ってしまった。

彼を半ばマイケルの代わりにしていたのかと思うと、つくづく私は最低だ。


その彼も、ある日突然いなくなってしまった。

心に何とも言えない壁を残したまま、 彼に余計な選択を迫ったこと、一言も浴びることすらできないまま……。


ねぇ、ジョー君。

どこにいったの?


数日と経たないうちに、私も、もしかするとフローチアに戻されるかもしれない。

自業自得。これも神様の天罰なのだ。

許されないとは分かっているのに、どうしても願ってしまった。


もう一度……会いたい。会いたいよ……!ジョー君!


「ローズ君、ローズ君!ローズ・パフューム副課長!!」


ロンメル・グローマム課長の声で我に返る私。

恰幅がよく目のつり上がった課長は、 いつものように私を叱り飛ばすため、準備体制を万全にしてきた。


「勤務中、物思いにふけっていては困るね!仕事を何だと思っているのか!」


「すみません……!」


「いくらあの万事屋ミリオンと縁者だからといって、窓際業務は気楽でいいものだね!」


縁者と言うか師弟関係のようなものに近いのだが、それはこの際どうでもいい。要はこの人、私が六王とのパイプを持っているのが気に食わないようだ。


今日のは私が悪かったとは言え、毎日毎日なにかと因縁をつけられ、さすがに参っていた。


「それで……課長?」


まさかそんなことでいびりに、わざわざ終業時刻に来るはずもあるまいと思っていたのだ。

遠回しに本題を尋ねると、課長は咳払いを溢した。


「保安中央部からの指令でね。君は今晩からオーディンスの帝国へ向かってもらわねばならない。」


信じられない名前が課長の口から出て、目を丸くする私。


「ご冗談を……アルキミス帝国は、鎖国中のハズですよね!?」


「だから職員が散った後で司令に来たのだ。中央部の連中によると、六王直々の命令らしいからね。お、ちょうどミリオン氏じゃあないかね。」


懐から筒状に巻かれた書類を一枚取り出し、無雑作に私の方へ投げる。


確かにそれは、 今日の深夜零時に万事屋屋7番倉庫裏手の港にて火消し組の第ニ第三部隊と合流し、極秘で地下牢獄のある囚人を一時釈放、監視し、共にアルキミス帝国に向かえとの指令書だ。

詳細は万事屋へ連絡するようにとの締めくくりと一緒に、ミリオンさんのサインも添えてある。


(まぁた、何か事件の予感……)


子供の頃、一時期ミリオンさんに武道を習っていたが、その時期からあの人の周りは事件のニオイがプンプンだった。

そういう時、あの人はニヤリと笑って、『どうすれば良いと思うかぃ?』と聞いてくる。


私たち教え子を試そうとしたのもあるだろうが、もしかして本当にどうすれば良いのか分からなかったのかもしれない。


どちらにしても、どんな逆境にあってもあの悪戯っ子のような笑みを崩さない、掴み難いキャラクターに畏敬の念を覚えたのも確かだ。


「あの六王からのミッションとは……莫大な給料が出るんだろうなァ……窓際族が羨ましい。」


最後まで毒を吐くしか能がない豚鼠は、私の机を軽く蹴飛ばして退社した。

こんな風に心の中で毒づく力が残っていたが、真っ正面から喧嘩するほど あのバカ上司にかまってられる気力はなかった。


このなんだか仰々しい文章は、ともすれば最近の大事件、 私の心を捉えて離さない失踪事件につながっているかもしれない。


地下牢獄の最奥には、ニ種類の特殊な囚人が収容されている。


一つは死刑囚、終身刑の囚人。


もう一つは……治療期間が必要な囚人、あるいは、本人の希望により世間的に死亡している囚人。

指令書の第1条 世間的に死亡したある囚人を迎えに行くミッションの為、私は火消し組総本部地下の拘置所へ向かった。


目的の囚人は、シード中の悪人が集まるといわれるこの牢獄においても、異色の経歴の持ち主。

大人しく同行せず、抵抗してくる可能性も大いにある。

十分に警戒しながら、最奥の牢へと歩み寄る。


そこは、畳6畳分の簡素なコンクリ部屋で、電子医療機器につながれた囚人が寝るベッドが一つだけ。

彼は軽く状態だけを起こし、新聞を読んでいた。

彼は私に気付いたのか、メガネをグッと押し上げ視線を移す。


「元火消し組参謀総長、ライアン・デューダ殿ですね?」


元火消し組のナンバー3にして、火消し組発足以来初のデッドナイトのスパイ……だったのだが。


ナンバー2であるロランゼ副総長に敗北した後、どういう訳か逃亡も反抗もせず、デッドナイトの間者と、ジョー君にけしかけた放火魔について暴露。


あろうことか謝罪文を六王全員に提出し、自ら死刑を志願する異例の事態に。

困り果てた六王達は、ミリオンさんの提案で彼を『表向き』に処刑し戸籍を破棄。シード全戦力の監視対象となることを条件に死刑を免除した。


デッドナイトの動きが探れる絶好のチャンスにおいて、そう安々と彼を殺すわけにはいかない。


ある意味で死ぬより残酷なこの処遇は、ドランクさんを除いた全六王の総意だった。


「君は……福祉総務課副課長、シード最年少の"異武”黒帯……ローズ・パフューム君……だったかな?」


「なぜ、私の事を?!」


「時間を持て余していてね。新聞は毎日穴が開くほど読んでるんだ。シードの大陸役所の名簿の顔と名前、あと、表彰されたか何かで一度雑誌に載ったよね。」


彼の驚異的な頭脳。

六王が、なぜわざわざ犯罪者である彼を釈放してまで、手を借りることにしたのか、わかった気がした。


「それで?」


「へ?」


「いや、僕の記憶違いでなければ、まだ用件を伺っていないのだけど。」


うっかりしていた。慌ててポケットから、六王のサインが入った 書状を取り出す。


「コホン……失礼。六王の一角、万事屋ミリオン直々の命により、 あなたを監視つきで一時釈放します。」


彼は新聞をパタンと閉じると、改めてメガネを押し上げる。


「それはそれは……ミリオンさんとは懐かしい名前だね。 僕にどんな意地悪を仕掛けてくるんだろうか……。」


昔を懐かしむ子供のような目だ。デッドナイトと通じて、火消し組を分断しようとした悪党には、とても見えない。


「命令はオーディンス大陸、アルキミス帝国への同伴。並びに、作戦司令部への参加。現地で予想される戦闘への協力。」


「あーあー堅い堅い……。」


彼はため息をつくと、 私の方を指差して叱るような目をした。


「堅いですか?」


「堅いとも……そんな仰々しい説明はいらないよ。少なくとも、この僕にはね。」


「はぁ……。」


「もっと端的にかっこよく説明したまえ。漢の血肉が踊るくらいね。」


私は少しムッとした。牢屋の向こうにいる相手に説教されていることがではない。 彼の言葉に説得力を感じ、 彼より自分が劣っていると、自分が一番よく感じていることがだ。


「では、どのように?」


「君の、いや、ミリオンさんの命令は請け負ったと言っておこうか。 その上で一度だけ言うからよく聞きたまえ……(われわれ)はそれを『冒険』と呼ぶのさ。」


ライアンの釈放手続きを済ませ、集合時刻の12時までに一旦身支度を整えるために帰宅退所。


アパートに戻るなり、 急いで身支度を整えた。

書類の中華に書かれていた持ち物は、隊服と防護服、救急セットに警棒…… 詳細な内容を書いていない事と言い、いろんな意味で危なっかしい任務なのは間違いがない。


私はおそらく"異武"の達人ということで呼ばれたのだろうが、 今回はなかなかハードな山になりそうだ。

ミリオンさんは口外無用と最後に言付けてあるが、お義父さんも六王の一員である以上、遅かれ早かれロングライド家には話がもれるだろう。


女一人のボロアパートで黙々と身支度を整える最中、 何故か興奮を覚えていた。

ジョー君がいなくなった一報を聞いてからの数日間、 マイケルが死んだ直後の様に、彩りのない無気力な日々だった。


それがあの書類を見てから、課長のいびりすらスルーできるぐらい興奮していた。



理由など、根拠などなくても、徐々にそれは確信に変わっていた。




(待っててね、ジョー君。 すぐ迎えに行くから……!)


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