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転生ですか?ではどうぞ、ネズミの国へ  作者: 芭蕉桜の助
second year 秋前
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不屈

・何が起きたのか、一瞬分からなかった。


光にも追いつく炎の瞳がとらえたのは、敵の切っ先から放たれた極小の水の弾丸。

そんなものに自分がやられたというのか?否、断じてそんな筈はない。


認められるわけがない。


だが、右肩には風穴があき、ボタボタと血が出て激痛も走っている。敵の攻撃によって貫かれたと、認めざるを得ない。


「・・・・っ!!くっ!!」


「無理すんな大人しくしてろ。動けねえし、肩なんぞ振り回そうもんなら千切れて落ちるぜ?」


「一体……なにを……!!」


シャルルは面倒くさそうにため息をついた。


「そんなに驚くか?トリトンは渦潮、オーラリーは水鉄砲、ポセイドンは大波。」


何の話だ?トリトンの渦潮はさっき確かにこの目で見た。聞きなれない、水の妖精と海の神の名が並んで飛び出した。

オレは整理しようと再びシャルルを観察すると、なんと腰の部分に脇差しが、それも二本も刺さっていた。

鞘の波打つようなデザインからして、あれらはトリトンと同属性のマジックアイテムらしい。


だが……。


「アンタは一度も……その脇差しを抜いちゃいないはずだ!!」


兄妹刀(きょうだいとう)ってやつだ。この世にはそういうマジックアイテムが、数種類確認されてる。作り手や、所有者の家系が同じ、同じ属性の魔力を持つ武具達は呼び合い、惹かれあう。これも一例だ。

すでにデッドナイトの幹部共は殆ど、この力を持ったマジックアイテムをそろえてると聞くぜ。」


愛刀を眺めながら説明するシャルルの目は、どこか憎しみが宿って見える。


「手の内を明かさなかったことは、悪いと思ってるよ。だがな、坊主。この国は『今』オレたちの故郷じゃねえし、ギルドアンバー(ここ)は教習所じゃねえんだ。悪いな……。」


その時、初めて『死の恐怖』を覚えた。シャルルはオレに不信感こそあれ、思い入れなど何もない。

オレが実力を認められなければ、この密室で殺される事だって不思議じゃない。


彼らの行動は遊びではなく、暗い影を落とすこの国との、命がけの戦いなのだから。


「ユズキにゃァ(わり)ィが……あの世からオレたちの勝利でも祈っててくれや。」


再びトリトンの刃を水柱が包む。


もう終わった、勝てやしない!


オレがすべてを諦めたその時。


走馬灯ー。それに近い、あまりにも無意識に我が生涯を()()()()感覚。

たくさんの人からもらった言葉たちが、スライドショーのように頭をよぎる。


マイケルさんの、ジェームズさんの、ルシアナさんの、クリスの、ルッキーの、そして……ベルの声だ。


『私も一緒に背負っちゃダメ?』


ああ、背負ってくれたんだっけな。ベル……。

オレが何かを奪ったあの夜も、自分が奪われた無力さに泣いたあの夜も、ベルは、ずっと隣にいてくれたよな。


だから、負けない。負けられないんだ。


アイツに断りもなく、オレは。


死ねない!!!!












「お前……何だその姿!!?」


シャルルが困惑したのも無理のない話だ。オレの体からは灼熱の炎が吹き上がり、身体はネズミの姿に変形していた。

驚かなかったのは、鏡や窓ガラスに映ったその姿を、やっと最近見慣れ始めていたため。


さらに言えば、オレは直感していた。


この姿になった瞬間、オレは変異したわけじゃない。()()()()()()()()()()様に思えた。


何故そう思えたのかは分からない。それでも、瞳に映るその姿に、懐かしさのようなものを感じたのも事実だ。


「こりゃ冗談……じゃないよなァ!!?」


オレはそれに返答せず、目の前を薙ぎ払う。寸前にシャルルが放った水鉄砲も、トリトンを覆っていた水柱も蒸発する。


「……っ!!?」


左手に黄金の炎の球を宿し、前方に向けて光弾を放つ。


ドオン!!!


着弾する前に球を空中で斬り裂くが、さすがに水の魔力は圧し負けてしまったらしい。

なおもシャルルの手前に近付き、強烈な斬撃を無意識のうちに叩き込む。


「くっ……そがぁ!!」


身体に流れる水の魔力の使い方では、目の前の敵よりだいぶ上を行っている筈だ。


相手のあの状態は、タダの《暴走》。


(にも拘らず、オレは怯えているというのか!?つい昨日シード大陸(よそ)から来た得体の知れんガキに……!?)


「くそっ……クソ……ふざけるなァァァ!!」


刀身でのガードにも、もう限界が来ていた。本音を言うなら、まだこれはシャルルの実力とはいいがたい。

だが……。

頭領にだいぶ釘を刺されていたのだ。


『いいか、絶対に殺しちゃアならん。あの子はここで芽が出ずとも、もしかしたらデッドナイトの全体に対する楔になるかもしれないからな!!』


昨日会ったばかりのこのガキに、何を大層な夢を見ている。


頭領をそう心の中でなじった昨日の己を、心から恨むことになるとは。と、彼は後々苦虫を嚙み潰したように言った。


現に今、シャルルはオレに手も足も出ていないのだ。


「殺すなだァ?そいつァ残念じゃねーか頭領!!コレじゃ先に殺されんのはオレだよ!」


ここまでくるともう賭けだ。


最初の話をするなら、シャルルはオレに何の思い入れもなかった。ここで殺すことは、実力としても精神的にも容易い。


今は違う。よそ者の俺は未だ気に入らないが、そうは言っても、頭領がオレを殺すなと命じた理由が分かり始めていた。


「お前ほどのヤツなら……この程度で死にゃしねえだろ!?」


水の魔力。全身を駆け巡る激流のごとき力を、刀を握った右手に一点集中させる。

具象化しきれないほど巨大な水のエネルギーを宿した刀は、青くサファイア色に輝く。


それは、水の重圧と勢いがそのまま剣にのしかかり、下手をすれば腕ごと圧し潰される。

が、そうでもしなければシャルルでは止められないほどに、オレの力は膨れ上がっていたらしい。最も、この時すでにオレの意識は定まっていなかったのだが……。


『必中・深海底王撃!!』


それは、さながら水の大砲。


一本の巨大な水柱が、すさまじく燃える炎に身をゆだねたオレの体に襲い掛かる。


水、水、水……。


洗濯機の中をぐるぐるかき回されるかのように、上も下も分からず、身体をめちゃめちゃに振り回される。途方もない水の地獄が徐々に弱まり、意識がようやく戻った時、オレは再び小島の上に大の字で寝ころんでいた。


「ハア……ハァ……あれ?」


身体の重さ、だるさ、疲労、口の中の塩気……。色々あって到底起き上がれない。


「やっと起きたかクソガキ……。」


「あの……。オレ……。」


シャルルは、オレと同じ位びしょぬれだった。オレのすぐそばであぐらをかき、上着を脱いでいる。右肩に切り傷、背中にやけどのような跡があり、様々な戦いの経験を匂わせる。


「その様子じゃあ何も覚えてねえのかよ?こっちァ死に目に遭ったってェのによォ~……」


こっちを睨んでいるが、怒りというより何か、諦めのようなものを感じた。


「お前……なんだあのパワー……?」


意識ははっきりしていなかったが、『諦めなかった』事だけは薄っすらと覚えている。シャルルが言っているのは、多分その事かな。

呆れや関心のトーンに似ているその問いに、オレは少し間をおいてから答えた。


これは人により、様々な解釈があると思うが、オレの答えは……。


「愛、ですかね……。」


ベルへの、家族への、友達への。


シード大陸で帰りを待ってくれている人々への、様々な愛。


少なくとも、さっきオレを動かした力なんてのは、そんなアバウトで単純なものだと思う。


「お前それ、本気で言ってんのかよ?」


オレが黙って頷くと、なぜかシャルルは突然噴き出した。


「愛……愛ねェ。久しく忘れてたよそんなモン。」


右肩の切り傷に笑いながらシャルルの顔は、寂しげで、しかしどこかスッキリした笑い方をしている。


「その傷って……?」


聞いていいのか分からなかったが、シャルルはニヤッと口角を挙げて答えた。


「トリトンの、もう一本の兄弟刀を奪った男。オレの兄につけられた傷さ。」


「お兄……さん?」


「奴は今、デッドナイトの幹部……っていやあ、オレが団員の強さに固執する理由がわかるか?」


彼は、オレの想った以上に壮絶な人生を送って来たらしい。

オレが答えに困っていると、彼はオレのそばに何かを放り投げた。

ヘッドの部分が三日月形の、古ぼけたカギだ。


「いっけね。うっかり落としちまった。」


これが次の試練。『月』の試練につながる鍵である事は明白だった。


「シャルルさん……?」


「忘れんじゃねえぞ。テメエを認めた、まだ半分だ。あとの半分は……月の試練で生き残れ。」


オレは未だ動けなかったが、精一杯首を傾けて礼をした。

月の間。これまで以上に得体の知れない、何が待ち受けるか分からない試練。


何であろうがオレは、必ず成し遂げる。この国の突破口を開き、皆の待つシード大陸に帰るために。

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