砂嵐
・モハメドの猛攻に、オレは思った以上に苦戦を強いられている。
手にしている杖は、どうやらマジックアイテムらしい。
黄色い雲のようなオブジェが付いた、うねった杖。
ファンタジーに出てくるそれによく似たモハメドの愛杖は、『砂』を操る力があるようだ。
「くっ……!!」
モハメドが杖を一振りすれば、砂嵐の小さな渦が出来、杖の指す方へ激しく旋回する。
砂粒が目に入ると痛むし、心なしか体内の水分が抜け落ちる気がする。
「それァ!!!!砂で埋めちまうよォ~~!!」
砂で埋め尽くされたこの部屋において、砂を操るこの杖は最大の脅威。
さらに、小型の砂嵐はモハメドの支配下にはあっても、全く別の固体として動き、オレを襲ってくる。
いまモハメドが操る砂嵐は二つ。れっきとした敵と、1対3で戦っているようなものなのだ。
(くっそ!!これじゃ動きにくくてしょうがない!!)
「動きにくくって、しょうがないってかァ~~?」
心を読まれた?その理由や原理を考察する暇さえなく、黒い蔓や砂嵐を必死に避け続ける。
「不思議だろう?なぜ心を読まれるかァ。そりゃあおめえ、マジックアイテムの使い手同士だからよォ」
「心を読まれねえ方法?簡単さァ、オレよりうまく使いこなしゃあいい。その大層立派な剣を伝う魔力をなァ!!」
そんな事を言われても、その魔力とやらを制御する方法を一切学ばずにココへ来てしまった。
「どうすれば……一体どうすりゃいいんだ!!」
「砂塵じゃちと相性がわりィねェ。だがまあ、根源的な魔力を以てたおしゃいイイのよォ!」
「根源……?」
「分かるはずだぜ!!その剣はもうだいぶお前さんに馴染んでる!!その政権のうちなるモノ……お前さんもう何度も垣間見てんじゃねえのか!?」
アポロの、ウチなるモノ。
他人のものとさえ思える、火山の噴火のごとき激情。
デッドナイトとの戦いに赴くたびに垣間見た『あれ』を、自分の力として制御することができたなら……。
『ようやく会えたな。ジョーよ。』
エコーがかかった様な、良く響く声。気が付くとオレは、真っ白な空間にいた。
何とも抽象的な言い方だが、そういうほかにない。
上下左右、一ミリ残らず真っ白で、特徴とすべきものが何一つない。
声がする方、真後ろを振り向くと、初めての存在がいた。
全身を炎で包まれた、というよりまるで炎そのものを纏ったかのような特異な存在。
それが俺の前に現れたとき、不思議と、恐怖や焦りや警戒心はわくことがなかった。
その姿を見るのが初めてでも、俺はずっと昔からそいつを知っているような、 懐かしいような感覚を覚えた。
「アンタは、アポロなのか……。」
『この剣そのものかと聞かれると、そいつはちと間違いだ。このマジックアイテムは幾人もの勇者たちに引き継がれてきた。
祖国を誇りを夢を愛する者を護るため、強さと優しさと厳しさを兼ね備えるもの達。 俺はその最初の使い手よ。』
「なら今、何をしに現れた?」
『この状況で冷静だな。まぁお前は歴代の勇者以上に短い間に修羅場をくぐっている訳だ。その冷静さも頷ける。』
「お褒めに預かり光栄。」
『思ってないだろ、お前。』
相手は俺の思っていることなどお見通しなようだった。
『嬉しくないか?大陸に伝わる幻の剣の継承者だぞ?』
全く嬉しくないのかと聞かれれば、そりゃ嘘になる。
ただ……。
「今はその実感わかない名誉より、この場乗り越えて、最終的にシード大陸へ戻ることが最優先だから。」
気にくわないやつと切り捨てられるかと思ったが、火の魔神はミイラのようにやせ細った腹を抱えて、 凹凸のない顔で笑い始めた。
『なるほど……マジックアイテムそのものにも意思があると聞くが今度はずいぶん奇特なやつを選んだな。
本来、質問試験を課す予定だったが、お前なら不要だろう。 より強大な力を貸してやる。』
骨ばった燃える細い手を、俺の元へと伸ばす。
死体にその指先が触れた時、全身に広がる熱い炎。
赤と金色に輝く炎が、全身に波打ち広がり、鎧の形を成す。
長きに渡り地の底で眠っていた、神にも届く強大な力。
猛き、強き、優しき者の決意の強さを持って、錆つき傷んでいた剣の炎が、今再び産声を上げた。
ぼぉっ!!!
ガスコンロに点火した時のような、 瞬発力のある音と共に、 俺は再びモハメドの前に立った。
聖なる赤い魔神の力を宿した、炎の鎧をその身に纏って。
「なぁんだ〜?その姿ァよ〜!!」
砂塵の杖を振りかざすモハメド。杖の力で生成した、小さな砂嵐を加速させ、一斉にこちらに向ける。
挟み撃ちにし、俺の体を木っ端微塵に引き裂くつもりだろうか?
四方八方を砂嵐が囲み、今にも俺の身体を呑み込もうとした時。
ガッッ!!
俺は目を閉じたままアポロを引き抜いた。
まるでバーナーのように火柱を出現させ、砂嵐を焼き斬る。
剣を抜いた俺ですら目を細めるほど、眩しく輝く炎。
モハメドの杖の支配下にあった砂は、 一瞬で魔力の根源ごと焼き払われ、白く力無き灰になった。
「んん〜〜!いいねぇ!?」
「まだ手の内はあるでしょう?流砂を起こしたり、 あの例の地下植物とか……。」
「物覚えが良くて感心するが、 あれは俺の専売特許じゃねえ。
奥の部屋へ行きな。その怖さが分かるぜ。」
そう言ってモハメドは上着のポッケを弄ると、 日本の古びた鍵を出した。
「『砂』の試練合格。お前さんの勝ちだ。さあ次に行きな。」
話を聞くにどうやらモハメドの任務は、アポロの内なる力を引き出すこと。それだけだったらしい。
「ありがとうございます!」
「礼を言っている暇があったら、褌ィ引き締めな。次の部屋にももちろん課題はあるが、それ以前にあいつはお前さんを嫌ってる。 殺されんように用心しろよ?」




