試練
・地下組織、ギルド・アンバーの『青い旋風』と名高い剣客、シャルルを前に、オレは組織へ入団する為の試練に挑むこととなった。
メンバーに出迎えられた玄関から更に奥へ行き、薄暗い廊下の突き当たりに扉が現れる。
案内をしてくれたのは、ユズキだった。
「いい?『砂』、『海』、『月』と書かれた3つの扉の向こうに、別の通路から先回りして頭領が待ってるわ。頭領からマントとエンブレムを受け取ったら、あなたの勝ち。」
勝ち、というからには、ただ最奥の部屋へ行けばよいという訳ではないのも容易に想像がつく。
「最初は砂の部屋。各扉をギルドのメンバーが護っているから、それを倒して先に進んで。」
まるで、さっき作った新しい法律を、民の前で読み上げる若き王の様に、不安そうな顔で説明するユズキ。
「残念だけど、誰が待ち受けてるかは、アタシにも分らないんだ。ごめん……。」
「ハハ……何言ってんだよ。さっき出会ったばかりの、どこの誰ともわからないオレにここまでしてくれてさ。明日葉さんには、感謝しかないよ。」
「柚希、でいいよ……。」
一瞬、何と言ったのか聞こえなかったが、少なくとも彼女との距離感が縮まった事だけは、はっきりとわかった。
だからこそ、オレは何もいう事なく、精一杯の明るい笑顔で返した。
『砂』の扉を思いきり押し込み、試練の間・壱へと乗り込む。
そこは、直径十メートルほどの、コンパクトな円形の部屋だった。
無機質な灰色の壁で囲まれ、ムワッとした熱気が立ち込める、ひどく乾いたドーム状の部屋だ。
床一面に黄土色の砂が堆積し、狭い空間の中にいくつかの隆起が出来ている。
部屋のほぼ中央に、杖のようなものを支えにあぐらをかいて座っている者がいる。
そいつはフードを目深に被り、大きな数珠を首に下げている。
緑の袈裟のようなものを着、フードの上部分から三角の耳が突き出ている。
「ああ、来たかい。シードの少年よォ……。」
しわがれた声がした。風邪を引いた時に出すような、乾ききって力のない声だ。
「あなたは?」
「砂塵のモハメドだ。アンタを止める様に言われた。ま、宜しく頼むよ。」
モハメドといったその男は、縁側から老人が立ち上がるように、ゆっくりとオレの前に進み出る。
フードを取ったその顔はその顔は、赤茶色の肌に、胸元まで伸びる白髭。
右ほほの切り傷を除けば、s腕に戦士らしい風体とは言えない。
あまりにサラリとした宣戦布告(?)。
オレがどうしていいか迷っていると、ついに男はしかけてきた。
「ホレ。ボケ―っとしなさんなや。『寄越す』よォ。」
いや、既に仕掛けられていたらしい。オレがこの部屋に入った時には、既に。
オレの足元に現れたのは、蔓の様に伸びる黒い植物。足首に巻きついて、ガッチリとオレの動きを封じるそれは、オレの前に立ちはだかる敵の意思そのものだった。
やがてそれはひざまで登って来た。ゆくゆくはこうして全身を支配されるだろう。
「さア、ぼさっとすんなよォ~?身体中縛ってェ~……血が止まっちまうぜェ~?」
血管が疼き、汗がにじみ出る。徐々に上体の動きも鈍くなるが、黙ってやられるオレではない。
鞘から慌ててアポロを引き抜き、燃える刀身で蔓を切り裂く。
「だぁっ!!」
散り散りで、炭のように真っ黒になって辺りに散らばる蔓の破片。モハメドは、顔色を変えた。
野原を駆け巡っている最中に、新しい生き物を見つけてきた子供の様な目だ。
「ホオ~ぅ?噂にゃァ聞いてたがお前……そりゃマジックアイテムかァ~?」
「こんぐらいやらなきゃ、デッドナイトの幹部にゃ勝てませんよ!!」
構え直すオレ。モハメド戦の本番が、今まさに始まろうとしていた。




