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転生ですか?ではどうぞ、ネズミの国へ  作者: 芭蕉桜の助
First year 夏 お盆ぐらいちゃんと帰省しないと、 いつまでたっても親孝行できないぜ?
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繋ぎ目の時の狭間に

・結局俺は、数日の入院を経てロングライド家に戻る事が出来た。

必要ないといったのだが、血液検査の後、大事を取って一週間の入院。つまるところ、残り少ない夏休みのほぼ全てを、病室で使い果たしたことになる。


「はァ……全くついてねぇや。」


「仕方ないよ。お兄ちゃんはあのデッドナイトの幹部と直接戦ったんだもの。」


そう、デッドナイト化学班の班長にして、『静かなるマッドサイエンティスト』や『殺戮のドラッグマスター』の異名で知られる(この中二臭い通り名どっから来たんだ?)第七部隊隊長、イザベラ。


階段の脇の洞窟で、よりにもよってマフィアの幹部と、直接戦うはめになるとは……。


元々デッドナイトとの衝突を想定した旅行だったとはいえ、まさかオマケでついてきたオレが、敵の主戦力の一人であるデッドナイト隊長格にぶつかるとは想定外だった。


まして、国王様に面と向かって、『シード大陸はオレたちが護る』と宣言したりと、全て思いのままにやり遂げたとはいえ、想定外のオンパレードだった。


実感が湧かないのもそうだが、何より、傷の痛みと共に襲ってくる『敗北』の事実に、ただ衝撃と恐怖を覚えた。


あの時ローズさんが駆け付けてくれなければ、オレは確実に殺されていた。


それどころか、あの時オレの後ろに、もしベル達がいたら……。


考えるだけで、身ぶるいが止まらない。



「何、考えてた?」


持ってきていた文庫本を閉じ、オレの顔を覗き込むベル。


「いや……別に。」


「ホントに?」


ふわふわとした声で尋ねてくるが、その声の心配ぶりは、並大抵ではない。

やはり彼女には何でもお見通しなのだろう。


入院している間、毎日見舞いに来てくれている。

ルッキーや、 ルシアナさん達も何度も見舞いに来てくれたが、 特にベルは、学校帰りに欠かさずよってくれる。


おかげで、精神的に退屈しないで住んでいるのだ。


「ちょっと不安でさぁ。

俺はあの幹部にボコボコにされたけど、 もしあの時後ろにお前や大事な家族がいたらと思うと……。」


包帯でぐるぐる巻きになったっ手の甲を見つめる俺。


その俺の手を強く握り、ベルはまっすぐオレを見た。


「ねぇ……お兄ちゃん。おじ様との約束忘れてない?」


「覚えてるさ。 シード大陸はオレたちがこれからも守らなきゃ。

そのために俺は、まだまだ強くならなきゃ……」


「『オレたち』が、でしょ? お兄ちゃんが強くなろうとするのはそりゃ応援するよ? だけどお兄ちゃんは一人じゃないの。」


「……」


気を張ってた自分の心の糸が、徐々にほぐれていくのを感じた。


「強くなるなら私たちも一緒、お兄ちゃんに守られるだけじゃない。 私もルッキーも、お兄ちゃんを守りたい。だから……だからね……」


ベルが何か言う前に、オレは彼女を抱き寄せていた。


「お兄ちゃん……!?」


感極まり、安心、安らぎ…… いろんな感情がごちゃまぜになって、 気がつけば抱きついていた。


「ありがとな、ベル…… 元気出たよ。」


「そっか……よしよし。」


オレの頭を撫でるベル。 こういう状況は立場が逆のようで恥ずかしくもあり、 またいくらか安堵を感じることもあり、 不思議な気分ではあるが、どっちにしろ顔が赤くなってしまうらしい。


「また……お熱?」


「ち……ちげーよ!?ただ……」


「ただ……?」


こういう時のベルは妙に鋭い。 俺が脳裏に何か考えを押し殺していることが、すぐにわかったらしい。


「あのさ……ベル……。」


そう。オレはベルに、この前から言いたくて言えなかったことがあった。


それによってこの関係が壊れることを恐れたから。

それによる周囲の抵抗を恐れたから。


色々と計算しているつもりではあったが、実のところ俺はビビって言うだけだったのだ。

ルッキーに、ローズさんに、何度背中を押されたことか。

だがもうそれだけでは前に進めない気がする。

俺自身が腹をくくらなければ、いつまでもこの悶々とした状態が終わらないのだ。


「ベル……オレさ……ベルの事……。」


そこで言葉が途切れたのは、思いを告げる決心が揺らいだからではない。


ひっくり返した手のひらに、おびただしい量の鮮血がついていたからだ。


言葉の途中で襲ってきたのは、津波のような激痛。


体が痙攣する感覚。


自分の体が、まるで自分のものではないかのような錯覚。


「 お兄ちゃん……!?」


ベルが青ざめた顔をして心配そうに俺を見ている。


呼吸も視覚もしっかりとしているのに、 言葉を絞り出すことができない。


激痛の震源地はおそらく胃の辺りなのに、 うまく口が動かせず、そもそも声も出ない。空気を振動させる力が失われていたのだ。不可思議な魔法で、身体を突然鋼鉄に変えられたような感触だった。


「ベ……ル……」


ヒューヒューと息を吐くようにようやく絞り出した、愛する人の名前。


「お兄ちゃん!お兄ちゃん!」


今にも泣きそうな顔で、俺の名前を叫ぶベル。


その声が徐々に遠くなっていく。


負けてなるものか、魂をさらわれてなるものか、 ベルを絶対に、一人にしてなるものか。


自分を鼓舞し、奮い立たせ、意識を一瞬でも長く、この場に留まらせようとした。

その抵抗さえも虚しく、 俺の意識は深い暗闇の奥へと沈んでいった……。

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