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転生ですか?ではどうぞ、ネズミの国へ  作者: 芭蕉桜の助
First year 夏 お盆ぐらいちゃんと帰省しないと、 いつまでたっても親孝行できないぜ?
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女の言う「約束したでしょ」は 覚えがなくても成し遂げてあげようね

・「這い上がってくるかと思ったけど、案外脆いのね……。ジョーロングライド。」


硬い洞窟の地面に倒れた俺を上から見下ろし、ジューリオ博士は、何やら洞窟の壁に手を当てている。


「随分と手の込んだスパイですね。 何年かけて信頼を築いたのか知りませんが…… これがバレたらあなたのキャリアは崩壊だ。」


「 私のじゃなくて、ジューリオのキャリアがね……。」


何を言っているのかわからなかった。ジューリオはあんたじゃないか!

俺の方を見もせずにつぶやく博士。


「まさか……!!」


「ようやく気付いたワケ? ジューリオはちゃんと別にいるわよ。 このアジトの奥にね。」


「国王様等まで騙せるって事は、変装名人かなんかですか?」


「『変装』じゃなくて『擬態』よ、坊や……。」


俺が首をかしげていると、 突然博士の顔に、身体全体に、 亀裂が入り始めた。


「……!?」


やがて、 まるで大理石の彫刻が砕け散るように、皮膚が、髪の毛が、服が、ガラガラと崩れだし、その『下』から、見知らぬ女が現れた。


「んー…… やっぱり『被ってる』のは疲れるわね。 この新種の鉱石には、ゴムのように伸縮し自在に形を変えられる特性があるのだけど……ずっとかぶってるとさすがに息が詰まりそうだわ。」


博士よりよほど胸も大きく、身長が低い。


小豆色の髪の毛と瞳を持ったネズミ人間、 羽織ったグレーコートの、ジョリーロジャー思わせる物騒なマークには、見覚えがあった。


「 やっぱりデットナイトですか……!」


「 いかにも7番隊長兼・化学班総責任者……イザベラよ。

以後お見知りおきを。」


以前も、デッドナイトの幹部に遭遇したことはあった。


しかしながら、隊長格に一対一で遭遇するのは、おそらくこれが初めてだろう。


「まあ、いきなり、責任者が出てきてくれたなら……話は、早いかも、な……。」


体の痺れを我慢しながら、ふらふらと立ち上がる。


「雑魚相手には剣を抜く必要もない」、と虚勢を張っていたら、背後から幹部にやられる始末。


ミリオンさんからルイス経由で託された、名刀『アポロ』を抜く。


「あら、伝説級のマジックアイテムじゃない。どこで手に入れたのかしら?そんないいもの……。」


何となくわかっていた事だが、やはりすごいものだったらしい、と 改めて自覚した。


リディアとの戦いの時の事。


俺の意思に反して俺を動かしていた『漠然とした何か』、 それが放火魔との戦いの時に、より『はっきりした何か』に変わっていった気がしたのだ。


その『何か』が何なのかは俺にも分からない。


だが、俺がピンチに陥った時、『それ』は間違いなく俺の有利に働いていた。


(わりぃ…… 今度もまた頼らせてもらうぜ)


「いやに、自信たっぷりじゃないの。目つきも変わったわね……?あと……。」


イザベラは俺を観察していたらしかったが、 刀は、いや『もうひとりの俺』は、 彼女に向けて刀を振り下ろした。


「アタシ特製の神経毒食らって、あんた何で動けてんのよ……。」


とめどなき『アポロ』の猛攻を前に、 イザベラはまるで意にも介していないかのように涼しい顔をし、スイスイと避けていく。


「別の意識、あるいは人格……? 興味深いわね、アンタも是非サンプルにもらうとしましょう。」


首筋に当たりかけた刃は、 2本指で簡単に受け止められてしまった。


さらに、空いた左腕は注射器を持ち、 俺の腹のあたりに、深く、深く突き刺した。


ぐしゃっ、と嫌な音がしたと思えば、俺の体温が急激に上がるのを感じた。


「悪いけど今は遊んであげられないわ。 別のミッションの方が優先だもの。」




立ち去ろうとしたイザベラは、 突然何者かに行く手を阻まれた。


「 神妙にしろ!」


背後に警戒した時には、もう遅い。華奢で美しいながら、鋭利な輝きを放つレイピアの刀身。


少しでも動かせば、即座にイザベラの首を刎ね飛ばせるようになっていた。


「あ〜らお姫様、遅めのご到着ですの〜〜?」


「いや。まだ間に合うさ、貴様の首さえ取れればな。」


「ならお好きになさっては?早くしないと、私が彼を殺すかもしれませんわよ?」


いやに余裕たっぷりのイザベラの態度に少々不安を覚えているようだったが、 俺にはわかっていた。この人には人を殺せない。

だからこそ 洞窟の外にマイケルさんを待たせて、 万一にも姫が来れば、そこで足止めするように言っておいたのだ。


なんとなくそんな気はしてたけど、マイケルさんしくじったな。


「そいつなど早く殺すがいいさ。『帰ってきたら私にぶちのめされる』などと一方的に約束しておいて、 こんな所で殺されかけているやつなど知ったことではない。

私は、おば様を救いに……そして、 貴様らをぶちのめしに来ただけだ!!!」


土下座する、が思いきり飛躍していたが、敢えて突っ込まなかった。


「ずいぶん口のお悪いお姫様ですこと。」


「好きに言ってろ!我らのビーチは返してもらう!」


俺の自由を奪った注射器を、突き一発で破壊し、 イザベラの前髪を落とし、右ほほに切り傷を作った。


「にわか仕込みの兵隊など屁でもない剣術……惚れ惚れするわね。

でも……。」


違和感はすぐにやってきたらしい。


突如目を見開いたかと思えば、モア姫は急に鍵の動きを止めた。


「足……痺れてきた? 腕に力が入らなくなってきた?景色は?音はちゃんと聞こえる……? 汗もすごいわね……息荒いわよ。」


「貴様……何を!!!」


「ネオムスカリン……ベニテングダケっていう毒キノコに含まれる 有毒物質を少し改良してね。毒が回る速度と影響する器官がより早く、広範囲になったの。」


「卑怯な……!!」


「そうね。でも私が卑怯者ならあなたは世間知らずね。」


「何を……!」


「あなたがあの時私の首を落としていれば、すぐに決着がついてた。 王家に仕えている剣術の先生に、『殺しちゃダメ』とでも言われた?

でもそのせいで、ルシアナは死ぬ。あなたの甘さが、ルシアナを殺すのよ。」


「違う……!姫様耳を貸すな!」


動きづらい口で必死に声を絞り出すが、姫の表情はどんどん曇っていく。


「何が違うの? このままじゃルシアナ死ぬわよね?」


「私が……?」


「違う!!悪を許さないあなたの剣は……殺戮に走らないあなたの剣は……他者から、奪うことしかできない……こいつらよりよほど尊い! 全ての剣客が持つべき力だ!」


「理想結構。持ち帰ろうかと思ったけど、興醒めね。もうあんたはいいわ。そこで食い殺されてなさい、クソガキ……。」


洞窟の天井にぶら下がっていたコウモリに、一発注射を打った。

するとコウモリはみるみる膨張し、醜い化け物の姿に変異した。


「 まだ実験段階だけど、丁度活きのいい体が手に入ったわ。 まず少年の方から食い殺しなさい!」


巨大なコウモリは、 紫色の唾液を垂れ流しながら、徐々にこちらへ顎を近づけてくる。


俺が死ぬと確信したのか、モア姫は ガクガクと痺れる膝をつきながら涙を流している。


俺の方に一瞬振り向き、まるで富豪が貧民を見下すかのような目で、ニヤリと笑った。


「ルシアナの病を治す特効薬だけど……この洞窟にはないわよ〜? あの話はアタシがジジイをだまくらかしただけ。

面白かったわ〜!お姫様といいあんたといい、本気でルシアナを救えると思って、あーだこーだ画策したんでしょ〜?若いって、いいわね〜。」


悔しさと怒りで、声も出なくなった。


「覚えておきなさい。あなたの……理想論の綺麗事では、誰一人、何一つ守れない。」



半分は、己自身に。 もう半分は、 俺たちをここまでボロボロにしたイザベラに。

もう一つあえて言うならば、イザベラへの殺意に燃える俺の邪魔をする、 醜い獣への怒りだった。

後はもう何が起ころうが知った事じゃない。

諦めというより、本当に判別が不可能だった。睡眠と隔世の狭間。


微睡みの中、意識の胡乱な状態に近かった。


「邪魔だ……!」


自分でも驚くほど怒りに、憎しみに満ちて、目を見開いた俺は、刀を持った右手を何気なく振り上げた。

コウモリは血しぶきをあげてその場に倒れ、 俺はさっきより ずっと早く立ち上がり、 イザベラに向け 切りつけた。


「……ウソ! どこにこんな力が……!」


姫の時より深い傷をつけ、 腰、肩、首元を斬り付ける。驚異的な反射神経がイザベラになければ、確実に斬り殺していただろう。数秒後には、白衣が赤黒く、血だらけのボロボロになった。




「なによ……あり得ない……。」


「コロス……!」


「こんなガキに……!!」


「この私が……!!」


「コロス!!!!!」


その時だった。 まさに今一歩でイザベラを殺しかけていた時。


銃声と共に、俺は意識を失った。


背後にローズさんが立っていた事になど、気づくはずもない。


「驚いたわ。フローチア大陸の出身にして、 六大陸一の名女優がなぜこんなところに……。」


「悪いけどその子私の連れなの。引き取りに来たわ……。」


「だとしたら、今彼に発砲した理由がつかめないのだけど?」


「彼に人は殺させない。初めて会った時にそう決めていたのよ。どう?あなたの嘲った『綺麗事の理想論』に命を救われて、状況を覆された気分は……。」


「嫌な女ね、アンタ。 デッドナイトはあんたをマークしてたってのに、 ボスになんと言えば……」


「だと思ったから大人しくしてたけど、貴方達やりすぎたわね。 行方知らずの博士も保護させてもらうわ。

要求は三つ。一に、 洞窟からの撤退、アジトの放棄。

ニに、 海岸の封鎖の解除。

三に、 ルシアナロングライド救護のための薬剤の提出。 以上を無視した場合 私と万事屋ミリオンをはじめとするシード大陸全戦力が、 あなたがたを全力を以て粛清します。」


この声を最後に、オレは完全に意識を亡くした。



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