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転生ですか?ではどうぞ、ネズミの国へ  作者: 芭蕉桜の助
First year 夏 お盆ぐらいちゃんと帰省しないと、 いつまでたっても親孝行できないぜ?
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踏み越えてでも 刺し違えても

・モア姫の実力は、確かに予想以上のモノだった。


素早く、正確で、規則正しい。生半可な鍛錬では行きつけない領域である。レイピアの刃先の、危険ながらも美しい輝きを見れば、それがどれほど大切にされたか手に取るように分かる。


何より今の姫は、オレに対する殺意の塊が、プラチナの鎧と鋭利な剣を携えて向かってきている。


誰が相手にするより、圧倒的に不利な状況だ。


「オラオラァ!さっきまでの勢いはどうした!?マイケルはもっと楽しませてくれたぞ!」


たった一本持ってきていた愛刀で、 モア姫の攻撃を防ぐのが精一杯これじゃとても 船着場までなど行けやしない。


「本気を出せよ! やはり貴様は、マイケルの後釜にも、ルシアナおばさまの家族にもふさわしくないわ!」


無茶言ってくれるぜ。

女を、まして本気でルシアナさんを救おうとして必死で戦ってる人を相手に、 本気で切りつけられるワケなんてあるもんか。


「えーそーですよ!!オレは頑張ったってマイケルさんにはなれない!家族の希望になってずっと引っ張ってきた……あんな立派には、オレはなれない!」


「プライドもクソもないやつだ!いっそここで死ね…。」


ドン!


渾身の突きを放つ姫のみぞおちに、オレは重い拳を当てた。


「きさ……ま……!!」


彼女の弱点は、その剣の『目的』が相手の『捕獲』であるということである。


命のやり取りをしたことのない王族にとって、人を殺さなければならないほど、重大で過酷な戦場においては、それが大きな不利になってくる。


現に剣術の修行を真面目にやったことのない俺に、今倒れてしまった。彼女にとって、一体どれほどの屈辱だっただろう。


今日までの疲れもあってか、先ほどまでと同一人物とは思えない位、いとも簡単にその場に倒れ込んだ。


「オレにだって、 守りたいものある。あの人にはなれなくても、ルシアナさん達の息子には、あいつらの兄貴にはなれるんです。

それをこの戦いで証明してみせる。


……モア姫、帰ったらちゃんと土下座しますから城で待ってて下さいね。」


昼間ぶちのめされた腹いせなどでは決してない。


しかし、姫が出向いたら死ぬのは確実。冷静に見積もっても、誰に意見を求めてもきっとそう言うだろう。


オレなら圧勝できるなどと自惚れているわけではないが、それでも見過ごせなかったのだ。

奴らを倒すために、自分の命など明らかに軽んじている姫の行いを……。


林の陰から見守っていた執事さんに、気絶した姫を託したオレは、 そのまま、執事さんに口を聞いてもらった船守りのいる、 『月光の船着場』へと向かった。


「申し訳ありませんが、洞窟の手前の沖合で降りていただき、数M を泳いでいただくという形に……。」


「一向に構いませんよ。『マフィアの巣窟に船を出してくれ』と言っているんだ。そこまで贅沢なことは言えません。」


徐々に海面に岩が突き出てきた。程なく離れ島の洞窟が、まるで大きく口を開けて待ち構える怪物のように迫ってきた。


「おっしゃっていた鉱石はあの洞窟の奥にございますが……何分マフィアの支配下にあり、弾薬等の素材にも使われますので、到底 タダで渡してくれるとは……。」


「こっちも手段を選んでる暇がないのでね……渡さないなら、無理やり奪うのみですよ。」


船番の人にお礼を言うと 俺はシャツの下に着ていたラッシュガード一枚になって、 そのまま船から海に飛び込んだ。


「ロングライドの坊ちゃま、どうぞお気をつけて…… 地獄への旅路をな……。」


船場の人が何か不吉なことを言ったような気がしたが、確認しようとした時には、オレはすでに海の中へ飛び込んでしまっていた。


季節は夏場。海に飛び込むのもそれほど苦ではなかったが月光だけを頼りに海の中を泳ぐのは、なかなかに危険だ。


方向の間隔を失わないよう、慎重に腕をかき続ける。


泣きたくなるほど真っ暗ではあったが、それでも月光は大分頼りになる。


海中の危険生物や有毒生物に接触しないよう、気をつけながら進む。


昼間の疲れもあってか、水中にどんどん体力を吸われていく。


幸いオレは、そこまで目が悪くなかったので、暗闇の中であっても、目的地の洞窟の入り口はよく見えた。


(よし…… もう少しだ!)


正直デッドナイトの連中を、一人で叩き潰せる自信はなかった。

あのままでは、モア姫がたった一人で乗り込んでいたと思うと気が気ではなくて、ほぼ勢いで飛び出してきてしまったのだ。


とはいえもう時間がないのも事実。


何より、これまでの死線を越えてきた経験から、国王様が決断して周到な用意をして出兵させるより、いちかばちか、オレがたった一人で取引に出たほうが敵を油断させるという意味でももしかしたら有利かと思ったのだ。


それより気になるのが、船番のおじさんの違和感である。


『地獄への旅路』

もし本当にそう言ったのなら、考えようによっては、俺が死ぬと確信しているか、またはそう願っているとも考えられる。


すなわち、デッドナイトと内通している可能性だ


実に突飛な話だが、もし本当だとしたら 場合によっては城内にも内通者がいることになる。 ルシアナさんは 本当に大丈夫なのだろうか?


オレは既にあいつらに喧嘩を売ってるし、顔が割れているはず。


もし連中がオレを警戒しているとして、 内通者は今なら非常にルシアナさん殺しやすい状況のはずだ。


不安になったからか、泳ぐベースが徐々に落ちている気がする。



ダメだダメだ!考え出すと一気に風呂敷を広げてしまうのが俺の悪い癖だ。

側にはルッキー達だってついてる。そう簡単にルシアナさんを殺させるような真似はしないだろう。


どちらにしても、オレがやるべきことは今ひとつしかない。一刻も早く特効薬となる鉱石を手に入れて、城へ戻ることだ……。










砂浜に上がると、オレはまず呼吸を整えた。

ここはもうすでに敵陣だ……何事も迅速に。


左右に並んだ松明の下には石造りの階段があった。


いかにも分かりやすい RPG ダンジョン風だが、 奴らのアジトへと続いていることは疑いようがなかった。



ゆっくりと階段を下りる。トンカチのようなよく響く音で、何かを打っている音がする。




トーン!カーン!トーン!カーン!


階段の下では、黒いマントをまとったネズミたちが、鶴橋のようなもので地面から突出したその辺の岩を突いている。

採掘場としては 学校の教室二つどれくらいだろうか


オレは最大限に足音を殺して近づいたが やがてそばで作業していた団員に気付かれた。


「なんだァ!?テメェはァ!」


恐らく犯罪行為を行う為のアジトに、突然部外者が入ってきたのだから、 警戒するのもごく自然なこと。オレはあくまでも下手に出ることにした。


「身内が特殊な毒に侵されていて、ここで採れる鉱石がどうしても必要なんです……頼みます。どうか少し、分けてはもらえませんでしょうか!?」


「分けろってか!?」


隣で作業していた男が言った。


「……はい。」


「この鉱石をかよ!?」


「……はい。」


「ギャハハハハハハ!!」


マフィアたちは、突然狂ったように笑い出した。


「この洞窟の鉱石はなァ、シード大陸の裏社会の大物達と高値で取引されるんだよ!どこの田舎もんか知らねえが、渡すかってんだよバーカ!」


「ギャハハハハハハ、言い過ぎィ〜!」


その笑い声は数秒後、突如として止まることになる。


オレの膝蹴りが、目の前の男の顎に直撃し、男は泡を吹いて倒れたからである。


「それじゃあ 仕方ない。(こっち)に訴えて問題ないってことですよね……?」


「テメェ!何のつもりだガキィ!」


ようやく、オレが単なる一般市民と呼ぶには危険だと気付いたのか、 マフィア達は揃った動きで、腰に差したナイフを抜いた。


「構わねぇ殺せ!どのみち侵入者を生きて返しゃァ、オレたちがあの人に殺されちまう! 戻ってくる前に()っちまえ!」


「責任者出せって言った方が速いのかと思ったけど、 その言い分じゃここにいないらしいな。しょうがない……。」


オレはひとつ深呼吸して、今日一番、 本気の殺意を持って敵を睨みつけた。


「『石ころ』と『あんたらの命』だけ、貰って帰るとしようかね……!!!!」


中には萎縮した者もいたが、そうでない者の割合の方が多い。


「ナメんなや小僧ォォォ!!」


オレが素手で奴らを圧倒するのに、5分とかからなかった。


リディアの時と同じだ。俺の心に眠っている「何か」が、時に、オレの体力に反して動く。


こういう状況だからこそ有利に働いてくれているが、 これが日常生活で、突然目覚めたらと思うとぞっとする。


「さ〜て、 じゃあとっとと石だけ持って……。」


「帰ろうったって、そうは行かないわよ?」


「!?」


オレが振り向いた時にはもう遅かった。


ドスッ!


鈍くて重たい音と共に、オレの腹部をメスのように小さなナイフが貫通した。


よく見るとそれはネズミの指だった。


オレの腹部に空いた穴から血が滝のように吹き出て、そいつの指先はシューシューと煙を吹いている。


「あ……が……。」


「困るじゃない、ここを仕切ってるのは私なんだから、何かあったら ボスに殺されちゃうわ。」


薄れゆく意識の中、ゆっくりと顔を上げる。


「……!?アンタ……何で……!!」


その顔を、オレはよく知っていた。


オレの後ろに立っていたのは、城であったあの植物学者だった。

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