上の兄弟は駄目になりやすいけど、駄目になったら必ず下が優秀になる
・ サンセット大陸の王国『ココナッツ』。
どうもルシアナさん夫婦の話を聞く限りでは、ここの王族に用があるらしい。
豪華客船が停泊した港には、海の家やホテルが立ち並び各大陸からの格人たちを歓迎している。はずなのだが……。
マフィア『デッドナイト』の襲撃により、 近年治安が悪化、観光客が激減している。
「さびれてんなー。」
「豪華客船のお客も少なかったでしょ?デットナイトの仕業さ。奴らの犯罪が横行して、よそのお客はめっきり寄り付かないってワケ。」
「そりゃあ何とも……。」
絶句するオレとルッキーに対し、ルシアナさんはいたってプラス思考だ。
「大丈夫よ!この近くのアジトを潰せば、きっとマフィアは逃げて、お客さんも戻って来るわ。」
ルシアナさんの口からおかしな単語が聞こえた気がして、オレは首を傾げた。
「あの、ルシアナさん、『潰す』ってのは……。」
「マフィアに決まってるでしょう?」
数秒の沈黙の後、思わず俺は叫んだ。
「……ウソォおおおおおおおおおお!?」
ルッキーは、落ち着いてため息を吐いた。
「やっぱりね、おかしいと思った。母さんが急にバカンスとか言いだすときは、決まって面倒ごとのオマケが作って相場が決まってる。」
「面倒ごとのレベル越えてるって!!何ルシアナさんの里帰りついでにマフィア潰すって!どんな里帰りついでだよ!」
「兄貴、ツッコミくどい。」
「だってよー!!」
「安心なさい。あなた達はママの実家で遊んでていいわ。」
ルシアナさんは余裕しゃくしゃくと言った。
「イヤでも……流石に危な……。」
「兄貴、無駄無駄。だって……。」
ルッキーがため息をついて母を見つめている。
俺も視線を移す。その時、ルシアナさんの余裕の正体が分かった。
尻尾と全身の毛を逆立て、夕焼けに向かって冷笑を浮かべるルシアナさん。
彼女はもはや、主婦でも母でもない。一人の「破壊神」であった。
「危ない?そーねジョー君、確かに危ないわ。これから私になぶり殺される悪ガキ共がねェ!」
(怖ッッ!誰コレ!?)
人違いかと思うほど、今のルシアナさんの凶悪な匂いは尋常ではなかった。
大分後ろを歩いていたベルとローズさんも、思わず背筋を凍らせ立ち止まった程だ。
「言ったろ兄貴、無駄だって。地元じゃ負け知らずの第二王女は元ヤン。普段は見る影もないけど、あの人のしごきほど怖いものはないね。」
(あー、どっちにしろ波乱の予感だ。)
「お帰りなさいませ!!ルシアナ第二王女様!!」
「驚いた。2、3年空けてたのに、門番換わってないのね。」
「ハッ!おかげさまで息災であります、王女様!」
「ちょっと、今は只の主婦なんだから、そんなにかしこまらないで頂戴。」
門番が叫ぶと、厳かに城門が開く。
石造りの城壁は、ピカピカに磨き上げられ、正面に王族の家紋が付いた垂れ幕が飾られ、西の塔では国旗がはためいている。
「これが、実家……。」
話には聞かされたが、実際目の当たりにした時の驚きったらない。
「驚いたかい?」
ジェームズさんが、笑いながら言った。
「すごいっすね、実際に見ると、迫力が……。」
「僕も初めて見た時は驚いたよ。フラッシュスノーを家出して、出会って同居して、結婚を考えて、『実家に案内する』って城に呼ばれたときはもう……。」
苦笑いをしていたが、どこか懐かしそうに語るジェームズさん。
オレは、ふと疑問に思った。
「ルシアナさん、何も話さなかったんですか?自分の事……。」
「全く。まるで過去がない……いや、過去から離されたように振舞っていた。私の目にも、無言のうちに『自分の事を聞くな』と言ってるように見えた。今思えば、彼女は自由になりたかったんだろうね。」
王族であるが故に、様々なしきたりやルールに束縛され、周囲の人々よりロクに気の休まる時間もない。
恐らく、町内会のお偉方の息子とはいっても、身分の差が大きいジェームズさんと結婚する上で、周りの反発も並ではなかったハズだ。
そのしがらみと、ルシアナさんが長い事戦い続け、ようやく勝ち取った今の幸せ。
当たり前な事なんて、何処の世界にもありはしない。俺はしみじみ思った。
「国王陛下が、書斎でお待ちです。お荷物を……。」
大きなトランクを、小柄な大臣一人で運ぼうという。
流石に悪い気がしたので、荷物運びの手伝いを買って出た。
「イヤすみませんね、ジョー様。」
「いえいえ、この位は……。」
「しかし、お顔もマイケル様に生き写しというのに、お心もマイケル様と同じくお優しい。」
「それほどでも……。」
そのマイケルの霊が、直ぐ側で照れ笑いを浮かべていたことに、大臣は気付く由もない。
「国王様とルシアナさんの関係って……。」
「この国を出た経緯もあり、亡き先王、父君とはどうにも……。現王、弟君とはまあ、良好と言えますじゃろうな。」
「色々複雑なんですね。」
「執政者の家とはそのようなモノ。まあ、どちらにしても、この爺やめはルシアナ様とジェームズ殿、貴殿方の味方ですぞ。」
この、広いのにどこか狭苦しい城の中にもルシアナさんの味方がいたようで、オレは少し安心した。
「こっちですよね。トランクあとひとつ……。」
「いけません!そちらは……。」
何かを焦る大臣さん。
時すでに遅く、俺はその部屋のドアを開けてしまった。
「何奴!曲者かァ!」
出迎えたのは豪華なベッドでもアロマの香りでもなく、甲高い女性の怒鳴り声と、レイピアの冷たい刃だった。
「ウ……ソ……!?」
頬からの軽い出血ですんだが、一歩間違えれば斬り殺されていただろう。
そう思える程、彼女の殺気は強大でリアルだった。
顔立ちは整っており、黙っていればベルやローズさんに引けをとらず可愛い。
年の頃は20代前半くらいだろうか。
流れるようなボブカットの金髪と、全身を覆う重厚ながら美しいプラチナの鎧が似合う。
その風体から、オレはジャンヌダルクを連想した。
「早く名乗れ。このご時世だ。斬り殺しても言い訳は立つが、『名剣エリザベス』を不埒物の血で汚したくはなくてな。訓練中の私の部屋に、ノックもなく上がりこむとは、中々いい教育を受けたと見える。」
「いや、オレは……その……。」
「いけませぬモア姫!そのお方はルシアナ様の新しい家族で……。」
「笑えぬ冗談は止せ、大臣……。」
短く叱る、姫君モア。
レイピアを仕舞ってはくれたモノの、殺意は収まらないらしく、今度は重いブーツで腰を抜かすオレを踏みつけた。
「ルシアナ叔母様から頂いた手紙に書かれていた『新しい家族』……どこの馬の骨かと思いきや、ゴミムシじゃあないか。」
(この人ホントにお姫様!?初対面でゴミムシまで言うかフツー!!目ェ座りすぎだろ!)
ガタガタ震える俺に、姫君は容赦ない罵声を浴びせる。
「良いか?クソゴミ虫。叔母様にどう取り入ったか知らんが、貴様があそこの家族などと私は断固認めん!
ココでの行いに気を付けろ?悪くすれば明日の飯が食えなくなるぞ・・・・・!!」
オレは思った。
(今まで会った誰より怖え・・・・・!!)




