船上のエイプリルフール
・震災から三ヶ月が経とうとしていた頃、重機や人員の確保が整うと、ジェームズさんに一本の電話がかかって来た。
どうやらくるみの町にも一時混乱が起こったらしく、職場に至急戻ってほしいのだという。
「連絡船が出てる、お前らは向こう帰れ。」
ジンバさんは笑顔で、ジョージさんとジェームズさんに言った。
次男ロッキーさんは本人の意向で、家族とももうしばらく復興支援に臨むらしい。
「しかし父さん、いいんですか?ロッキー兄さんはあんなに……。」
「アイツは長年フラッシュスノーを嫌ってた……傍で見てりゃ分かる。だが今回、自ら家族総出の復興支援を買って出た。勝手ながら、アイツなりに想うところが出てきたと思うと嬉しくてな。」
「でも……。」
「父さんに従おうジョージ、なんせお前の兄二人……僕ら二人ともとんだ親不孝のドラ息子だ。
進歩しない反抗長男と違って、アイツが考えを変えてるのは、そりゃ父さんには嬉しかろうさ。」
「フン、かわいい孫たちと別嬪な嫁がいなきゃ、すぐにでも簀巻きにしてやるところを……。」
「上等さ。長生きしなよ、エロジジイ。」
「せいぜいくたばるな、こまめに孫連れて帰省しろバカ息子……。」
「兄さん、父さんも……帰る時までそんな……。」
遠巻きに三人のやり取りを見ながら、オレは思わず苦笑してしまった。
「やっぱり親子だな。」
連絡船の試験的再開は、実はもう一週間ほど前に完了していた。
今日から通常のシフトに戻るというのだから、改めて今度の被害の小ささと、フラッシュスノーの人々の強さを実感させられる。
船着き場までトナカイのそりで動き、出ていた船にトランクを積み込んでいると、ルッキーが呼びに来た。
「どうした……?」
「姉貴が、じゃなくて皆が呼んでる。」
訳が分からないまま、船着き場の食堂へと手を引っ張られる。
忙しさでなのか事には来ていなかったが、テーブルをどかした真ん中あたりに、ロングライド家のいとこたちが円になって集っていた。
「何?何の儀式……?」
「ルッキー兄。皆揃った?」
「多分。クリスもいる。」
戸惑っていると、ベルがオレとクリスに説明してくれた。
「フラッシュスノーのお婆ちゃんちには、なかなか来れないでしょ?来れても今日みたいに皆揃うのは年一度くらい。だから、別れるときはこうやって、家族みんなで必ず会おうって誓い合うって決めているの。」
「家族って…… 僕もそうなんですか!?」
恐る恐る尋ねたクリスを、ルッキーが軽くひっぱたいた。
「当たり前。 同じ釜の飯食って、同じ食卓囲んで、同じ屋根の下で風呂入って寝て……クリスやジョーの兄貴を『家族』と呼ぶのに、これ以上何がいるってのさ?」
「ルッキー兄さん……。」
クリスが目を潤ませ ベルはよしよしと彼の頭を撫でた。
ピーター君が口上を述べようとしたその時。
「ちょっと待って〜!」
息をハアハアときらしながら、生まれたばかりの長女、アーニアちゃんを抱えたデイジーさんが走ってきた。
「デイジーさん!?」
「……この子も、入れてあげてくれる?」
生まれたばかりの小さな命。やがて大きくなり、いろんなことを知り、外に出て誰かと誰かを、命をつなぐ小さな命。
どこへ行っても、始まりは同じ。アーニアも、ロングライド家の大切な家族である。無論、皆喜んで首を縦に振った。
「改めて揃ったね。ピーター、仕切り直し。口上述べな。」
ルッキーの合図に頷き、ピーター君は、咳払いを一つして口上を述べた。
『此度の災害はこの街に多大な影響を及ぼし、また立ち上がった。 俺たちのロングライド家の子供達はまたしてもジンバじいちゃんの凄さを思い知ったわけだが、世間がエイプリルフールで浮かれている昨今でも、今日この言葉だけは嘘じゃねえ。
俺たちは次の機会にまたみんなでここで集まる!
誓えるやつは俺に続いて叫んでくれ!約束だ!オー!!』
「「「「「「「「オー!!!!!!!!」」」」」」」」
久しぶりの晴天の下、嘘のない約束をし合ったオレたちを微笑ましく眺めるように、太陽は美しく輝いていた。
船が出た後も、桟橋でオレたちを見送ってくれた親戚の皆さん。
そして 家族でここに残ることを決めたロッキーさん一家、ピーター君たち兄弟を見送りながら、 オレたちはフラッシュスノー大陸を後にした。
船の上では、行きとは打って変わって、今度はローズさんがふてくされていた。
「ピーター君たちそういうのなんで私を呼んでくれないかなぁ。
私だって同じ釜の飯食ったじゃん、お風呂入ったのに〜!」
「あの子達にすると、ローズちゃんは私たちと同じランクのイメージがあるのよ。」
「そーそー、 姐さんマイケルの兄貴の嫁だよ? 俺ら甥っ子姪っ子でもおかしくない歳なんだからさぁ、そりゃ気使うでしょ。」
ルシアナさんが優しくなだめ、ルッキーは辛辣な言葉を浴びせる。
「ルッキー君〜〜!? 何よそれ!私がおばさんだって言いたいわけ!?」
「落ち着きなよ姉さん、要は母さんとか、デイジーおばさんと同じ立ち位置だってこと。それなら家族でしょ?」
「なんか釈然としないなーその後付感、肌ケア始めようかな?」
「これルッキー、失礼でしょ、ローズちゃんに謝りなさい。私達と同じ扱いなんかして!ずっと若いのローズちゃんは!」
「まあ、そういう母さんも年下にモテてるけどね。」
「何よそれ?なんの話?」
「ゴホンゴホン!!」
遠回しにルッキーにいじられ、咳払いをしながら彼を睨むクリスを見て、オレは思わず笑ってしまった。当のルッキーは面白そうに笑っている。
「ねーお兄ちゃん。」
「どうした……ベル。」
「色々、大変だったね。」
「まだまだこれからさ。復興に向けて課題は山積み、それでも皆が生きてることが、何よりの救いだよ。」
「あの時、全員が高台にのぼるまで、お兄ちゃん逃げようとしなかったでしょ?波に飲まれちゃうかと思って本気で怖かった。」
ベルの声は笑っていたものの、その瞳は影を落としたように暗くなっていた。
どう声をかけるべきか、答えはひとつだ。多少都合の良すぎる無責任な話であっても、今は明るくさせることが最優先、こうしようと思う、きっとこうできる、そういうことをベルに伝えるべきなのだ。
「大丈夫、 ベルが死なない限り、オレも死んだりしねーから。」
数秒間をおいてから、ベルは突然俺の首筋に抱きついてきた。
「お兄ちゃんだいっきらい!!」
一瞬焦ったが、すぐに思い出した。確か今日は、エイプリルフールだ。
「あぁ……オレも。」
「ウソー!!ウソだから!!キライにならないでぇ〜〜!」
「分かってる!ちょ……ホラ泣くな!あ、鼻水付いちゃう!ちょ……オ〜イ!」
緩やかなさざ波に揺られながら、数時間後、連絡船はシード大陸に到着した。




