立ち上がる俺達
・ 俺がこの世界に来る以前に、こういう出来事があったのか、なかったのかはわからない。
ただ、そんなことを聞いている余裕がない程にみんなの顔は青ざめ、 表情が消え失せていた。
血色は無くなりまるで無機質な岩を睨んでいるような、 こういうのを固まっているというのだろうか。
俺の記憶と時間軸が正しければ確か、もう7年も前に、俺の世界でもこんなことがあった。
地震から始まり、地方のいく地域にもわたって火事や津波などの二次災害を引き起こした未曾有の大災害。
詳しくは知らないが、原子力発電所の爆発もあったらしい。
俺は当時 小学生だっただろうか。
地震の揺れは大きかったものの、震源から離れていたり近くに発電所がなかったおかげでその手の災害からは逃れ、何も知らず、のうのうと平和を享受していたのだ。
計画停電などのイレギュラーはあったものの、数日もすれば、いつもの日常が戻ってきた。
今はどうだ?
目の前に広がる瓦礫の山を見て、訳もなく涙を流すベルがすぐ真横にいる。
いや、理由もなくなんかじゃない。
幼い頃から慣れ親しんできた父親の故郷。
思い出の詰まった公園や、父の実家の庭。
それらがたった一度地面が揺れただけのことで、すべて瓦礫の山になり 全てが跡形もなくなってしまったのだ。
「これが災害……。」
ただただ泣き崩れ、その場に膝をつくルシアナさんを、ジェームズさんが必死に肩で支える。
「畜生……。」
ルッキーが小さな声で呟いた。拳を握りしめ、唇を噛み、手首からも下唇からもかすかに血が出ている。
ルッキーは確かに怒っていたのだ。
だが、彼から故郷を奪い、大切なものを全て粉々に叩き壊したのは、悪意なき『自然』なのだ。
ここまで来ると、まるで誰かの悪意を感じるのも無理はない。
が、それは所詮自然の成す事。
誰を恨むこともできない。そんなことをしても何の意味もない。
だからせめて、それらを自然の猛威から守りきれなかった、自分自身を恨むことにしたのだろう。そうしなければ、怒りをどこに持って行けなかったのが、俺には分かった。
ここに来るまで、被災した街がどれだけ大変で、どれだけ過酷な運命をたどるのか、 16年生きてきた中で一度も考えたことがなかった それがどれだけ愚かなことであった顔を前の大切な人が 傷つくという 最も嫌な形で学ぶことになってしまった。
しばらく瓦礫の山と次第に静かになっていく、真冬の海を見つめていた時。
向こうの方から物音がした。
ロングライド家の住人だけじゃなく、あたりに立ちすくんでいた人々が ある一定の方向を目指して歩み始める。
オレは無意識に、ベルの手を取った。
「行こっか……。」
「うん。」
そこは、集会所のあった場所だった。
ジンバさんや街の皆が力を合わせ、瓦礫を退かし、粗末なテントを立て、キャンプファイヤーと鍋の用意をしていた。
ジンバさんとジャスミンさん夫婦に引き寄せられる様に、街の皆がテントに集結していく。
皆に毛布や、レトルトがゆを配っていたジンバさんと目があった。
「ジョー君、ベル!バカ息子どもを呼んで気きとくれ!人手が足りんわ。」
柔らかな一言だった。なのに、オレの身体は躍動し、ことを急ごうとしていた。
あの人はまだ、折れてない。それどころか、あの人なら立て直せる様な気さえした。
目に見えず、物も言えない自然がかき消した、皆の故郷を。
幸運にも、丘の上の学校の体育館が無事だったためか、関係者たちは緊急避難所の準備を整えていた。
オレとベルは、 崩れた家の前に佇んでいるジェームズさんたちを急いで呼びに行った。
「そうか…… やはり一番に動き出すのか、実にあの人らしいよ。」
そう言って、一筋の涙を頬に伝わせたジェームズさんを筆頭に、ロングライド家の人々が次々と体育館に集まり、キャンプファイヤーの準備を整え、物資が一か所に集まっていく。
山の向こうはそれほど被害が少なかったがために、次に逃げ遅れた人の救助が始まった。マイケルさんは物と物の間をすり抜けられるため、迅速に瓦礫に挟まっている人たちを発見。
それでも、オレたちに出来る事には限界がある。
「アニキ!」
「ジョー兄!!」
「ルッキー!ピーター君!」
駆け付けた二人や消防団員たちの協力もあって、夕方までにかなりの人命を救い出せた。
2時間後、フラッシュスノー西部の火消し組屯所から組員が救助に駆け付け、仮避難所を設置。
それから市役所と連携を取り、被害状況の確認がスタートされた。
数十年に一度の未曽有の大災害にも拘らず、驚くべき事に死者・行方不明者は出なかった。
仮設テントに備え付けられた露天風呂で夜空を仰ぎながら、オレは思った。
きっとジンバさんが、この大陸を自然の猛威から救ったのだろう……。




