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転生ですか?ではどうぞ、ネズミの国へ  作者: 芭蕉桜の助
Welcome to longride
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コンビニの冷凍パスタはバカにしちゃいけない

異世界転生を本格的にやるのは初めてなんですが それによる「矛盾」を徐々解消していきたいと思います。


今、おそらく読者の皆さんの心に浮き上がっているであろう矛盾の数々は下手くそな伏線程度に考えてくださって結構です。


それでは今後ともよろしくお願いします。

・大方予想はしていたが、 ベルの一家は、会って1日も経っていないオレを相手に、よかったら泊まって行けと言い出した。


本来なら断る所だが、この寒空の下野宿して、翌朝凍死体となって発見されるのもゴメンだし、ここはご好意に甘える事にした。


風呂は、床も天井も木でできており、樽型に丸く作られた湯船が 寒気で疲れきった俺の体を癒してくれた。


「ふぅ〜、極楽極楽……。」


「ジョー君、バスタオル、ここに置いておきますね。」


「あ!はい!!ありがとうございます!」


オレは思わずのぼせ上がったように顔を赤らめた。

親父臭いため息をベルの母に聞かれなかったか、心配で寿命が縮んだような気がしたのだ。


「ふぅ〜、危ない危ない。」


「極楽〜、なんてため息つくほど気持ちいい見たいね。よかったわ〜。」


聞いてたんかい!と 思わず大声で突っ込みそうになった。


娘のベルにも言えるが、この家族は優しくおっとりしていて、アットホームの究極点みたいな人達だ。

なんだか、こういうのは新鮮だった。


幼稚園の頃から、毎日嵐のように習い事やいろんな稽古をこなしてきた。父親からも祖父からも、将来志島家を背負って立つ男になると、期待やプレッシャーをかけられる毎日。

その曲、そういう大人たちは家族とか、子供とか、そういうの顧みない。

結局は外世間や職場とかで自慢するための要因が欲しいだけなんだ。

そういうのは俺じゃなくてもよかった。

だから俺が志島家を出て探検家になりたいと言った時、父親は、あの男はオレを勘当すると言って家からつまみ出し、下宿の名目で新宿のアパートに追いやった。

寂しいとか辛いとか、そういう感情はなかった。

あの頃はもう、大人とはそういう生き物なんだと、自分を教育することで、どこか自分を慰め、諦めていたような気がする。


食べ物にも英才教育にも不自由なく過ごしてきたんだから、これが人の幸せなんだと、自分に言って聞かせてきた。今日初めて気づいた。

俺が欲しかった幸せは、これだったんだ。諦めちゃいけなかったワガママは、これだった。

誰かに愛され、優しくされる事。金なんて、恵まれた英才教育なんていらない。こうやって、人の温もりを味わいたかったのだ。




またも、目からしょっぱい水が出てきた。








寝床は、ベルの父ジェームズさんの書斎に布団を敷いて貰った。

ふかふかの綿が入った布団は、これ以上ない程寝心地がよかった。

疲れていたせいか、電気を消してから寝るまでに、そう時間はかからなかった。







夢を見た。ベルにそっくりなネズミの青年が、目の前に立っている。だが、必死で聞き取ろうとしても、何を言ってるのか分からない。

やがて、彼の姿が霞み、徐々に見えなくなる……。




思わず目を覚ましてしまった。と、同時に、窓ガラスに写った自分の姿を見て、一つ、とんでもない事に気がついた。

夢に出て来たのとそっくりなネズミの青年だ。それは、『部屋にいた』わけではない。『オレ自身』がそのネズミの青年だった。


しかし、手も足も、顔の感触も元のまま。すなわち、鏡に映る自分の姿と、周りから見える自分の姿だけが、ネズミの青年の姿だったのだ。


「どうなってんだ……?そういや、ジェームズさんがオレが誰かに似てるとか……誰だ?オレは誰に似てるんだ?」


考えようとすればするほど、頭の痛みはひどくなる。


途方に暮れてベランダに出てみると、そこには先客がいた。


ベルだった。 月を見上げる彼女の横顔は、どこか寂しげなのに、それでいて何かを期待し、ワクワクしてるように見えた。


オレが声をかける前にベルはこちらに気づいたようだった。


「ジョーお兄ちゃん。どうしたの?」


「眠れなくてさ……。」


「じゃあ、少しお話する?」


言葉に甘え、オレは彼女の隣に座った。


ベルは、オレに優しく笑った。彼女は、この街においてもかなり可愛い顔をしている。小さな顔立ちは整っていて、毛並みは風になびき、流れるように美しい。


こうして並んでみると、オレより幾つか年下だろうが、 じっと見ていると思わずドキドキしてしまう自分がいる。


「ベル……ありがとう。」


「ん?」


「ベルが助けてくれなかったら、今頃凍え死んでたよ。」


大袈裟な話でもなかった。ベルの母、ルシアナさんが用意してくれた厚手の寝巻きのおかげで、ベランダに出てもストレスを感じる寒さではないが、あのボロボロジャージのままでうろついていたら、今頃どうなっていたかわからない。


「うふふ、良いの。私があそこで通りかかったのも、何かの縁だから。それに……。」


「それに……?」


「なぁ〜いしょ!」


年下の女にはぐらかされるのは、生まれて初めての経験だった。


「なんだよ……気になんだろ?」


「うん、その話はまた今度ね。ほら、もう寝た方が良いよ。パパが明日、大事な話があるって。」


「大事な話?なんだろう。」


「私も良く分からないけど……大事なんだって。」


それ以上詮索する事もなく、オレはベルにおやすみを言って寝床に戻った。ベルと話した事で、少し気が楽になったからだ。


まだ色々と分からない事もあるが、明日にでも考えれば良い。


とりあえず……今は……。


睡魔はオレを優しく包み、オレは静かに、穏やかに、意識の窓を閉じた。




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