大掃除と交錯する想い
・オレがこの世界に来て、間もなく三ヶ月。何だかんだで今年が終わる。年の瀬と言えば、どこの家庭でもそれぞれ行う年間行事がある。
ロングライド家の場合は、『大掃除』。元の世界の実家じゃ全て使用人がやってくれたから、こういうのは新鮮だった。
それも、今年の大掃除は本家で大人数でやっているから尚更だ。
「午後になったら出かけるから、それまでに済ませちゃいましょう。」
祖母、ジャスミンさんが言った。
男衆の担当は殆どが庭や雨戸、ソリの洗車だったが、オレは何故か、リビングの掃き掃除に回っていた。
「ごめんねジョー君、電球変えて貰えるかしら?」
「はい、ただいま。」
ルシアナさんの頼みとあらば、断るわけにもいかない。高いところはぶっちゃけ苦手だが、この世界に来てからの家事スキルが十分役に立った。
「ありがとうね。」
「いえいえ、この位。」
「お母さま、アルバムどうしましょうか。」
ジェームズさんの義妹、リエルさんが、分厚い本を大量に重ねて持ってきた。
「あらまあ、お父さん!屋根裏に仕舞ってと言ったのに……しょうがないわ、リエルちゃん、もう一回運んでくれる?」
「……オレ、行きましょうか?」
何の気なしに名乗り出た。ここで役に立っておくのも、これから好感度を示していく一つの手だろう。
それに、床からオレの膝まで届く量のアルバムだ。リエルさんは、目に見えて息切れしている。
「ありがとう、頼んだわ。」
階段を上がってすぐのクローゼットには、先客がいた。
桃色の長髪は、今この家に一人しかいない。
声をかける前に、ローズさんはオレに気付いて振り向いた。
「あれ、ジョー君、どうしたの?」
「アルバムを仕舞いに……ローズさんは?」
「工具箱を探しに来たんだけど、見当たらなくてね。」
上の段にアルバムを仕舞うと、ローズさんに代わってクローゼットを混ぜ返し始めた。
「ないっすね……。」
「そうか……ところでジョー君、ベルちゃんとは上手くいってる?」
思わず背筋がぴくっとなった。先日、どさくさ紛れにベルに告白されたのに、状況が状況で、どうにも『それ』についてリアクションするヒマがなかったのだ。
それどころか、先日この人に告白されたのにもはっきり返事ができていないままだ。
これは、試してるのか?それとも単に、オレの心情が知りたいのか?
いずれにしても、ここでウソをつくのは賢明じゃないな……。
「この前、告られました。」
「!?……それで!?へ、返事は?」
「まだ……でも……。」
OKしようと思います。そう言って、オレはとっさに口をつぐんだ。
なぜだろう、ベルを好きな気持ちは本物のハズなのに、この人にはっきりと伝えられない。
いや、本当は分かっている。オレは揺らいでるんだ。
認めたくはないけれど、オレは汚い。二人のうち、どちらの告白を受けるべきか、決められないんだ。
どう言えば良い?正直に?そんな事をしている人間に、どちらとも付き合う資格などないんじゃないか?
後ろめたさもあって、オレは黙りこくってしまった。
だが、ローズさんはそれでも尚、オレの見方でいてくれた。
「まあ、ゆっくり考えな。若い内は考えてナンボ。でもって、後悔しない選択が大切!お姉さんは、ジョー君が私を選んでも選ばなくても、ジョー君の見方だからね。お分かり?」
「……すいません。」
「謝らないの!この空の下で会えた以上、人は皆家族!細かい対人関係で縁が切れるほど、簡単なものじゃないわ!難しいことはじっくり悩んで考えて、自分の為の選択をするのよ。」
オレは、まだ何となく煮え切れない気分だったが、ただ頷くしかなかった。
死別した元婚約者の親戚と、何故ここまでの濃密な付き合いがあるのか、オレはずっと不思議だった。
それは、この人の人柄ゆえなのだと、今更ながら気付かされてしまった……。
数分後、一段目の奥の方から、工具箱は見つかった。
またあの人を見つめてしまった。いけないとわかっていても、同じ空間にいると、ついあの人を目で追ってしまう。ここまでくると、もう一種の病気だ。厄介な病気にかかってしまったものだ。
「クーリス!何見てんのぉ〜!?」
「ひゃぁあっ!」
ルッキー兄さん達のいとこ、ピーター君に背後から話しかけられ、思わず声が裏返ってしまう。
「何も見てませんよ!」
「ほんとにぃ〜?」
なぜか怪しく笑うピーター君。とは言え、ボクの思いを知られるワケにも行かず、ごまかそうとする。
「本当に!ほら、ジニーちゃんもサリーちゃんも、向こうで仲良く遊んでますよ!」
「あいつらガキと遊んでやるほど、俺は暇じゃないんだ。クリスのほうが、よっぽど面白い。さては、恋だな。」
ませガキのクセに、そう言うのが妙に鋭いピーター君。厄介な相手に目をつけられた。
困り果てていると、後ろからルッキー兄さんの淡白な声がした。
「ピーター、やること無いならハン叔父さんとこの赤ん坊見てきな。叔母さんが目離せなくて困ってたよ。」
「兄ちゃん、そんなことより面白いんだよ、クリスがな……」
「良いから、行け……!!」
何か反論しようとしたピーター君を、ルッキー兄さんが物凄い形相で睨んだ。これが、『殺意の波動』ってやつなのかな。初めて見た。
当然、ピーター君の言葉はかき消され、彼は黙って、室内に飛んで行った。
「すみません兄さん、助かりました。」
「良いよ。ピーターは昔からああだから。それで……?」
「ほぇ…?」
「誰なんだよ、好きな人って……!」
妖しく笑いながら耳打ちするルッキー兄さん、顔色は穏やかでも、口調はそのままだった。
「ルッキー兄さん、あなたもか。」
「どうせオレはブルータスだよ、で?誰?」
「こら、ルッキー、何か知らないけど、クリスちゃん虐めちゃダメでしょう?」
「へいへーい。」
彼女が立ち去るまで、ボクは顔を赤らめ、わかりやすく俯いてしまった。迂闊にも、隣にいたルッキー兄さんにそれを見られていたのだ。
「なんだ。好きな人って母さんかよ。」
「な!?なななんでそんな……。」
「なんでって……今のリアクション見て分かんない方が可笑しいって……。」
「いや……ですか?」
「別に?あの人も一応美人の部類に入ると思うし、クリスが年上好きだからって、オレがガタガタいうこともないと思うし、ただ……。」
ルッキー兄さんは僕の方を向き、先程とはまた違う意味の波動をかもしだしながらぼそっと言った。
「なりふり構わずやってみな、後悔するよかそれがいい。」




