Gift Of Winter ~2017 クリスマススペシャル~③
・クリスマスイブの夜八時。オレはロングライド本家の玄関で、スキー靴に履き替え始めた。
「ジョー君よせ!危険だ!」
マイケルさんが止め建てする声も、オレの耳には入らない。
「これから夜中は、吹雪で見通しも悪くなる。工場まで30キロはある!行っても朝までに戻れるかどうか……!」
「泣いてたんス。」
「え……?」
「ベルは、今日ここに来た事でサンタクロースに忘れられたらどうしよう、って泣いてたんス。
ルッキーとか、世間一般には、馬鹿馬鹿しいかも知れない。けど、オレは本気でベルを好きだから、そう言う所ともちゃんと好きでいたい、いや、好きでいなきゃダメなんス。」
クドクドと長ったらしい義弁を垂れても、今回ばかりは恥ずかしくなかった。これがオレの気持ち、隠すことも飾ることもない、紛うこと無きオレの意思だからー。
マイケルさんは、諦めた様にため息をついた。
「分かった。でも、条件がある。僕も連れて行ってくれ。」
やはり、山道を超えるのは安易ではなかった。
ウェアに着替える時間もなかったが、それ以前に今晩は寒すぎる。この世界に初めて来た晩も、ここまでではなかった。
さすがは、雪の大国と言った所か。
マイケルさんの予報通り、吹雪は突然降り始めた。
降り始める前に何とか山を越えたかったが、運悪く、これから下るというタイミングだった。
「ジョー君、どうしよう……!?」
「言わずもがな。そりゃもちろん……!」
「え!?まさか……!」
オレはそのまま山道を華麗に降り始めた。その衝撃は、当然オレに憑依していたマイケルさんにも伝わる。
「いやァアアアアアアアアア!!」
「もうすぐです!しっかり掴まってください!」
そう言ってはいたが、ゴーグルもしてないオレの顔に、吹雪は容赦なく叩きつけられる。
ゴンッ!!
「ぐぁあっ!」
突如襲った前方からの衝撃に、オレはマイケルさんごと吹き飛ばされる。
岩肌にぶつかったらしく、腹と背中、それに頭がガンガンと痛い。
「ジョー君!!」
マイケルさんが呼ぶ声がどんどん遠くなる。ダメだ。もう動けねーや。
家事炊事やパーティーの準備を手伝い続け、タダでさえ疲労の溜まった身体からも、雪は容赦なく体温と体力を奪っていく。
くそ……畜生!こんな所で……。ゴメンな、ベル。オレ、結局何も……。
どうやら雪は、オレから決断力すらも奪っていくらしい。
目的を諦め、目を閉じようとした時……。
モフ、モフ……。
空耳ではない。誰かが確かに、雪の中を歩いている。誰だ?
誰がこんな時間に、この天候の中を……?
モフ、モフ……。モフ、モフ……。
意識が遠のく直前に頭上に見えた人影は、一体誰なのかわからなかった。だが彼は確かにオレにこう言った。
ーメリークリスマス!
目が覚めると、オレはロングライド本家のリビングで寝ていた。
マイケルさんは、浮遊した状態で眠りこけている。
ストーブの上には、靴下とボードゲーム、それに一枚の手紙が添えられていた。
『 メリークリスマス! 子供たちの三つの夢は守られたのだ!
事の顛末を処理したのが私であっても、彼らにとって今年のサンタクロースは君の他にない! 君はこれを誇るべきである また来年会えることを祈って! bY 聖なるクロース』
ワケの分からないまま、辺りを見回すと、 ルシアナさんが台所に立ち、朝食の準備を始めていた。
「おはよう。昨日はごめんねジョー君、大変だったでしょう?」
「どうなったんスかね、オレ……。」
「運んできてくれたのよ、工場の頭目がね……。」
ルシアナさんの話によると 山の向こうの工房には 世界中の子供達に 贈り物をするため日夜ものづくりとその運送に励む 職人たちがいると言う。
彼らは 工房で働くにあたり、クロースの姓を持ち、世界中にプレゼントを配って回るという。
聖なるクロース……セント・クロース……なるほどな、子供の頃から憧れていた『彼』は、確かに雪の国からやってきていたのかもしれない。
「ねーねー見て!本当に 新しい絵の具とパレットが来た!」
「僕にも、立派な羽帽子が!」
「オレにはスケート靴……。」
2階からは、ベル、ルッキー、クリスを始め、本家に集まった子供たちの歓喜の叫びが聞こえてきた。
ひとまず、成功でいいんだよな……。
「ありがとう、サンタさん!大好き!」
自分に向けられているわけではないとわかっているはずの、ベルからのラブコールを聞いて、お茶を吹き出してしまった事は、ルシアナさんしかしらない……。
ともあれ、この世界、いや、全ての世界の子供たちに……メリー・クリスマス!




