Gift Of Winter ~2017 クリスマススペシャル~②
・連絡船は、ナツグミストリートの港から出た。
だが、旅行のトラブルというのは朝から襲ってくるもので、そのほとんどは娘の不機嫌だったりするものだ。
かくいうロングライド家の場合、ここで拗ねるのはベルだった。
家を出る前から不機嫌な顔はしていたが、電車に乗る時はあからさまなふくれっ面をし、ナツグミストリート駅に降りてからはついに泣きべそをかき始めた。
「いやあ、二年振りのおばあちゃん家だ。楽しみだな〜!」
「それどころじゃないっすよ。何か知んないけど泣いてんじゃないスカ、ベル……。」
「あー、アレは毎年恒例だから。」
マイケルさんは、特に珍しくもないように返した。
「毎年恒例って……?」
「んー、 本人に聞いた方が早いかもね。」
あまり気は進まなかったが、この重苦しい空気のまま旅行するのはもっとごめんこうむりたかった。
「ベル、どうした?さっきから気分悪そうだけど……。」
「……。」
「ほっときな兄貴、こりゃもう一種の病気だから。」
「うるさいな〜ルッキー!アンタにお姉ちゃんの気持ちは分かんないわよぉ〜!」
「えーえー、13歳にもなって未だにサンタクロースのためにストライキを起こす姉上のお気持ちなど、私めには分かりませんよ。」
再び泣き出しそうだったので、一時、ベルとルッキーを引き離した。
乗船後、まだグスグスと半べそかいているベルに、オレは船内の売店で買ったコーンポタージュ缶を渡した。
「……ありがとう。」
「サンタの為って、何が泣く程心配なんだ?」
「今日はイブでしょ?サンタさんが来るのに、私もルッキーも、クリス君もいなかったら、ロングライド家には人がいないんだって帰っちゃうよ。」
なるほど、ベルの不機嫌の理由はサンタクロースか……。
以外ではあっても、なるほど、『サンタクロース=雪国の魔法使い的なおっさん』のイメージが抜けなくても、なんら不思議はない。
とは言え、どう励ましたものか。
オレはまだ、『ロングライド家の』サンタクロースがどういうシステムなのかわからない。
いい加減な事を言うと、どう転んでも困らせるだろう。
苦肉の策としてオレは、なるべく非具体的に説明した。
「なァベル。確かにロングライド家に誰もいなかったら驚くだろうけど、サンタは一人じゃない。おばあちゃん家で楽しくやってりゃ、近くを通ったサンタがウチにプレゼントを届けてくれるって。」
「本当に?」
「本当に。だからもう、泣き止めって。」
「……分かった。」
なんだか年下の妹を諭してる様な気分だったが、そういえばオレは、そもそもベルのこういう所が好きなんだっけ。
いや待てよ、それってロリコン気質って事!?
オイオイ勘弁しろよ〜!連載開始から今更気付いちゃったよ〜!
「……何か言った?」
「ああいや!何でもねー。////」
フラッシュスノー大陸は、絵本にでも出て来そうな見渡す限りの銀世界だった。
連絡船がアンカーを引っ掛けると、続々と乗客が下船していく。
オレたちもそれに合わせ、下船する。と、 桟橋の近くに何かがいるのが見えた。よく見ると、2頭のトナカイだった。後ろにそりを引いているあたり、荷物を運ぶ輸送車か何かだろうか。
いずれにしても、ベルの気がかりを呼び戻してしまったことに違いはなく、間の悪いトナカイのそりを一瞬恨んだ。
「クリスを送り届けるのは明日。おばあちゃん家までは、これで行くよ。」
ジェームズさんが淡々と言った。
「トナカイのそり? レンタル料かなり高くつくはずだけど?」
「案ずるなルッキー、パパには色々コネがあるのだよ。」
それはいいのだが、ベルの機嫌の雲行きが怪しくなってきたので、そちらにツッコミを入れたかった。
ジェームズさんが手綱を取り、アスファルトで舗装された道路を進むこと30分。そりは森の中に入り、一軒の立派なログハウスの前に着いた。火消し組総長の邸よりはいくらか劣るが、 それでもロングライドよりいくらか広く ここいらの住人たちを呼んでホームパーティーでもできそうだった。
木材の屋根にくっつくように生えているレンガの煙突からは、もくもくとファンタジックな煙が出ている。料理でもしてるのか、それとも風呂でも沸かしているのか。
「さ、着いたよ。お入りなさい。」
ジェームズさんがそりから降り、トナカイの背中についた袋に金貨を、そしてトナカイの口の中に人参を加えさせ、一言お礼を言って中に入っていった。
続いてるルシアナさん、ローズさん、ルッキー、ベル、クリスの順に中に入ったのを確認してから、オレはトランクを抱え、中へお邪魔した。
玄関に上がると 正面から暖炉がお出迎えし その上には鹿や猪の剥製が壁から突き出している。高校の文化祭で部分的に凝った作りになっていたお化け屋敷を思い出した。
床には絨毯が敷き詰められ、壁にはレンガの模様がついている。
スキー客を相手にペンションが開けそうだな。と密かに思いながら、オレは荷物を引きずってリビングに入った。
老夫婦が一組、ルシアナさん達より若い夫婦が一組、俺たちより年下の子供達が約5人、女性がもう一人、赤ん坊が一人。
真っ先に話しかけてきたのは、ジェームズさんによく似たネズミのおじさんだった。
「おやおや、君が……?」
「はい!志島上……じゃなくて、ジョー・ロングライドです!」
「へぇ、あなたが? 長旅大変だったでしょう。さっ、荷物降ろして。こちらでお茶にしましょう。 色々お話聞かせてね。」
ベルの叔母と祖母らしき女性が、オレをテーブルに案内してくれた。
予想はしていたが、親戚の皆さんはルシアナさん夫婦以上に気さくな人たちだ。
昼食を取り、話し始めて、夕方になる頃にはすっかり打ち解けていた。
ここに来てからのオレの思い出や、ジェームズさんや弟のロッキーさんの昔話などなど……『話に花が咲く』ってのはこういうことなんだろうなってのを、実感し始めていた。
だが、時間が経ち、オレがロングライド家の親戚の皆さんと打ち解けるに連れて、クリスとベルの表情はどんどん曇ってゆく。
夕食は イブということでケーキと七面鳥の丸焼きが出た。
ロッキーさんはピアノを、ルッキーはアコーディオンを、ジェームズさんはチェロを演奏。さらに、ローズさんもアカペラを披露し、 クリスマスの食卓を七色に彩った。
Gift Of winter
作詞 芭蕉桜の助
歌 ロングライド・ボーイズ&ローズ・アインシティア
さぁ今 聖夜の鐘が鳴る あなたも私も雪の中
今宵は皆で踊りましょう 輝くもみの樹の下で
一年に一度 彼が来る トナカイのソリで やって来る
雪の降音とトナカイの鳴声形なきオーナメントにして
あなたの聖歌に身を委ね どうかこのまま歌わせて
さぁ今 聖夜の鐘が鳴る あなたも私も雪の中
今宵は皆で踊りましょう 輝くもみの樹の下で
煌めく笑顔のすぐそばで……!
「姉貴、下のパート歌っ……あれ?」
ルッキーが声をかけた時、ベルはその場にいなかった。
食事が始まった頃から泣きべそをかいていたようだったが、ついに抑えきれなくなったようで、クリスと二人先に床についてしまったらしい。
「しょうがねーな、後で見に行こ……。」
少し月を眺めに行こうと裏庭に出た時、ルシアナさんがひどく慌てた様子で、誰かと電話していた。
電話が切れると、青い顔をしてオレに話しかけてきた。
「どうしようジョー君! 私ベルにウソついちゃった!どうしよう!」
「落ち着いてルシアナさん!どうしたんですか!?」
事情を聞くと、どうやらロングライド家では 子供たちがサンタの手紙で要望を出し、それを万事屋ミリオンに予約、イブの夜まで預かってもらうシステムだったらしい。ところが、ルシアナさんの手違いで、 品物の予約がされていないらしい。
「ここから北に30km行った先に、ベルとルッキー、それにクリスちゃんが頼んでたものがあってね。でも、もう時間もないし、ソリのレンタルも……。」
ただでさえ無謀なオレだが、今頭に浮かんでいる解決法がどれだけ無謀かは、痛いほどよくわかった。
だが目の前でかわいい娘のために、慌てふためくルシアナさんを見て、俺の選択肢は二つから一つに変わった。
「じゃあオレ……ひとっ走り取って来ます。」




