Gift Of Winter ~2017 クリスマススペシャル~①
・放火魔事件からだいぶ日が経ち、ベルに叱咤されたり、ルシアナさんやジェームズさん達に励まされたり、色々あってようやく、普段の生活に戻ろうとしていた。
ある朝リビングに降りると、珍しくベルとルッキー、クリスが早起きし、テーブルで何かを始めていた。
「おはよう。何してんだ?」
「クッキー作り。明日父さんの実家に帰省するんだけど、その時のお土産。」
ルッキーが説明してくれた。なるほど、見れば、机の上には雪だるまやトナカイ、サンタクロースの形をした、焼く前のクッキーがたくさん並んでいる。
「できたー!どう?ルッキー、私の雪だるまクッキー!」
若干クオリティは低いが、キュートな雪だるまが出来上がっている。
「芸がないな姉貴、こんくらい凝った作りじゃないとさ。」
ベルの三倍はある、ルッキー特製『とぐろを巻いたドラゴン』クッキー。これちょっと凝り過ぎじゃあ……てかクリスマスクッキーだよねコレ!?
「わーん!ルッキーのイジワル〜〜!!」
「やめて下さい二人とも!ベル姉さん、僕だって大した事ありませんから……!」
そう言うクリスの作品も、『週刊グローアップ』で連載中の『機動勇者ビッグバン』のロボットクッキーって……プロの造形師かお前らは。
「うえええ〜ん!クリス君もイジワルぅ〜!」
「えぇ……。」
ベル、お前はお前でいちいちめんどくせー。
騒ぎを聞きつけたからか、ミトンをはめたルシアナさんがやって来た。
「何やってるの貴方たち。おじいちゃん家行くのは明日よ?あら、おはようジョー君。明日、ジェームズパパの実家に往くんだけど、大丈夫かしら?」
「分かりました。 何か準備しておく物ってありますか?」
「そうねぇ……。」
ルシアナさんは一瞬考えるような仕草をしてから、オレに部屋の外へ来るよう、ジェスチャーで促した。
「準備って程の話ではないのだけど……。」
廊下に出てから、ルシアナさんはオレに耳打ちした。(少しドキッとしたなんて死んでも言えねえ////)
「パパの出身、何処だか覚えてる?」
「フラッシュスノー、でしたっけ?……あ!」
「そう。クリスちゃんのご実家と同じなの。何しろ連絡船が高くついてね。帰省する時に、一緒に送り届けないといけなかったの。」
「じゃあ、クリスは……。」
イヤな予感はしていたが、渋々といった具合で、ルシアナさんは重い口を開いた。
「ええ、この旅でクリスちゃんは親元に返すわ。」
「……その話、ベル達にはもう?」
「ええ、二人とも寂しいみたいだけど、最後の一日を楽しもうと、あの子達なりに頑張ってるみたい。」
そう言いながら、どこか寂しそうなルシアナさんに、オレはただ頷くしかなかった。
昔からの付き合いで、明日同行するらしいローズさんがクッキーを焼いてる間、オレ達は商店街に向かった。
目的は、年に一度『万事屋ミリオン』で開かれるクリスマスセールだ。
「この日だけは、オタクの巣窟に色んな客が来っから。」
「へー、何を売ってんだ?」
「もう見えて来たよ?」
ルッキーはそう言って、前方を指さした。見渡す限り、木、木、木、木……森にでも浸食されたのかと思ったほどだ。
「これは……!」
「これがセールの目玉、『モミの木市』。クリスマスツリーの材料を、唯一仕入れるルートだよ。」
「さあさあ、いらっしゃいやせ!寄ってらっしゃい見てらっしゃい!今年も良いのが入ってやすぜ!」
ヤクザ口調のミリオンさんの宣伝文句が聞こえてきた。どうやら店は近いらしい。
店舗が見えてくると、ふてぶてしいサンタクロースがいた。
看板を掲げて不貞腐れた顔をしたボブが、オレを見て目を見開いた。
「ジョー!?何でテメエが!?」
「似合わねーな、何だそのサンタコス。」
「うるせー!帰れ帰れ!」
問答していると、ミリオンさんがやって来た。こちらはいつものコートと腹巻きに、緑のマフラーとサンタ帽が追加されていた。
「ボブ!おめェはまたお客様に。すいやせん志島さん、後でしばいときますので……今日は皆さんお揃いで。あ、あれですね。ジェームズさんがご予約なすったツリー。」
「そうそう。もう入ってる?父さんの予約分。」
「へい、ただいま!」
ミリオンさんがボブに何かを合図すると、彼はもみの木の群れを潜り、奥から台車を引っ張ってきた。
上には、一際目を引くもみの木があった。
大きさこそ並だが、形は良く、幹は立派で、枝も左右均一に末広がりしている。葉は生き生きした緑色で、聖夜を彩るに申し分ない。
「いやさすがはジェームズさん。毎年毎年、お目が高え。」
「毎年?」
「うん。もみの木は使い捨てだからね。」
ルッキーが答えてくれた。
「それより皆さん!あたしも商人、毎年同じことばかりしてちゃ、いつの日かお客様に飽きられちまうのが定石。あたしとしましても、かなり危惧してましてね?そこで!今年はもう一品、用意してみやした。」
テレビコマーシャルを彷彿とさせる宣伝の後、ミリオンさんは、再びボブに人差し指を向けた。
今度彼が持ってきたのは、金の松ぼっくりがたくさん入った小さな箱だった。
「さあさあお立ち会い!今、フラッシュスノー大陸で大ブレイク中の呪術師による、幸運を呼ぶ魔法がかけられた松ぼっくりでさあ。ツリーの飾りにいかがですかィ!?」
「またそんなモン作って……。」
当然客は寄り付かず、呆れ返るルッキー。
だが酔狂なことに、オレは財布の中にあった札を2枚出し、某イギリスの魔法使いよろしく、高らかに叫んだ。
「ぜ〜んぶ下さい!」
まさかの買い占めに、その場の全員が驚いて目を見開く。
だが、ちょっぴりブルジョアになれた気分で、ちょっぴり清々しかった。
「どうしたクリス、元気ねーな。」
帰り道、オレとルッキーでツリーを、ベルは松ぼっくりの入ったダンボールを持ち、露店で買ったココアを飲み歩いていた。
「いえ、何でも無いんです。」
とっさの作り笑顔で誤魔化したようだが、つい先日まで沈みきっていたオレにはわかる。
誘拐され、大陸を渡り、ここに来て、たった数ヶ月の間とはいえ、ロングライド家の皆と濃密に関わってきたクリスにとって、 家に帰れるというのは嬉しい話でもあり、反面、寂しくもあるのだろう。
「クリス、 悩んでるなら無理すんなよ?状況はどうあれ、どこに行こうと、お前がオレたちの家族なのは変わらないんだから……。」
「ありがとうございます。ちょっと元気でました。」
まだ少し引っかかってる部分はあるようだが、少なくともそれが作り笑顔ではないようだったので、特に言及はしなかった。
道を歩いていると、何度か知り合いに出くわした。
「おっ!相棒じゃねーか!久しぶりィ!」
「イザ、(読者にとっても)久しぶり。」
「フラッシュスノー大陸行くんだってなァ!土産頼んだぜぃ!」
「おうおう。分かった分かった。」
「先輩じゃないですか!お久しぶりです!」
今度は、放火魔事件で家に行ったきりだった、ルイス(と彼女の美季)に出くわした。
美季は気を使って、こっそりオレに耳打ちした。
(放火魔事件のこと、大丈夫だったんですか……!?)
(ありがと美季、まぁ、色々あって……大丈夫。)
そう言って俺は視線をベルに移すが、当の彼女はなぜか、不機嫌そうだった……。
家に戻ると、ローズさんがケーキを作りながら待っていた。
「あ、おかえり皆〜!」
「まぁ、素敵なケーキ!」
「えへへ〜、お褒めに預かり光栄です!」
「これなら実家に持っていけそう。ありがとうね、ローズちゃん。」
和やかな雰囲気に包まれるロングライド家。
まさかこの旅が、この連載始まって以来の、数奇で壮絶な旅になると、オレはまだ、知る由もない。




