表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生ですか?ではどうぞ、ネズミの国へ  作者: 芭蕉桜の助
FIRSTyear 冬 年の瀬に揺れるシード大陸
44/86

明けぬ夜がないように

・ 次に目が覚めた時は 今度こそロングライド家の天井がまず視界に入った。


エッグベネディクトも、クリスやベルのモーニングコールもなかったが、帰ってこれたという事実が、 俺の心を十分すぎるほどに安定させた。


安定させた、と言うと間違いかもしれない。恐怖のあまり、錯乱するのをかろうじて押さえ込めたのだ。


その手に握った刃の感触も、自分がつけた傷から溢れ出る鮮血の生臭さも、何一つ夢ではない。


呼吸が荒くなるのが、自分でも良く分かる。


「オレ……殺したんだな。放火魔(アイツ)を……。」






お兄ちゃんの異変は、家に戻ってからずっとだった。


「お兄ちゃん、おはよう!」


「おおベル、おはよう……。」


受け答えも、優しい笑顔も確かに元に戻った。

でも、その瞳には色がなかった。柔らかくて暖かい、話し相手に元気をくれる、その色が消えていたのだ。


「お兄ちゃん、大丈夫?」


「おお、大丈夫大丈夫……。」


精一杯明るく笑う彼を見ただけで、今の一言がウソだと分かる。


その笑顔も、感謝や感激も、なんだか空っぽのように思えて、まるで家族に心配をかけないように作り上げた、偽物の感情のように見えた。


ママが家事を一日休ませ、宿題を休む時間が与えられる様に学校に欠席の連絡を入れても、一日中窓際で外を見てボーっとしている。


ルッキーやクリス君が話しかけても、素っ気無く返すばかり。


「無理もないわ。正当防衛とは言え人を死なせてしまった。ただでさえ優しいジョー君には、よほどショックだったでしょうに。励ます事しか出来ない自分が憎いわ。」


ママはそう言って、歯痒そうにお兄ちゃんを見つめている。



事件の事は、昨夜遅くに第一屯所の所長、ロランゼさんが、お兄ちゃんを届けた時に教えてくれた。



第二屯所のライアン隊長は、どうやらマフィアの『デットナイト』と繋がってたみたいで、放火魔も団員の一人だったみたいだ。

二人の身柄は火消し組によって運ばれたらしい。


『放火魔の逮捕は君の手柄だ。ジョーが目覚めたら、そう伝えて貰いたい。』


ロランゼさんは誇らしげに言った。でも、私は思う。


そういう問題じゃない。誰のお陰とか手柄とかそれ以前に、一番ひどい目にあって、一番頑張ったハズのジョーお兄ちゃんが、一番落胆してるなんて不公平だ。


ちょっとしか会っていないとは言え、あの人は事件が解決した後(・・・・・)の配慮が足りてない気がする。


凶悪犯の命を奪ったジョーお兄ちゃんが、誇らしげに高笑いでもするとでも思ったのかな。



やるせない気持ちのまま、為す術なく一日が過ぎていく。




その晩は、やはり眠れなかった。長い事目を瞑ったり、ヤンバルクイナ(なんだろうその鳥)を数えたり、ジョーお兄ちゃんが教えてくれたやり方を試して見たけど、全部がダメだった。


「眠れない……。」


どうにもならなくなって、廊下からベランダに出ようとしたら、お兄ちゃんの部屋から物音がした。


(お兄ちゃんも眠れないのかな……。)


恐る恐る部屋の扉を開けてみる。窓からの冷たい風にゆれて、カーテンがたなびいている。

やっぱりまだ、起きてるみたいだ。


「お兄ちゃん……?」


お兄ちゃんはベランダに立っていた。でも、それは星を見てるワケじゃない。身を乗り出そうとしている格好だった。


私の背筋がぞわっとなって、気がつけばベランダに飛び出していた。


「お兄ちゃん!!」


どうやったのかよく覚えていない。お兄ちゃんを急いで手すりから引きはがし、その場に座らせた。


彼の目はやっぱり虚ろで、焦点が合わない。


「お兄ちゃん!?お兄ちゃん!!」


「……ベル。やっぱ止めてくれるんだ。優しいなお前は……。」


その虚ろな目を見て、言葉が出なかった。作り物の空元気を一枚めくった素顔は、ここまでボロボロに壊れていた。


何で、何でこうなるまで気付いてあげられなかったんだろう?


「なァベル、オレ、人殺しちゃったよ。」


「……うん。」


放火魔(アイツ)は死者を出さなかったけど、オレは殺しちゃった。」


「うん。」


「ダメかなァ、オレ、死んじゃ。」


パァン!


我ながら、良い音がしたと思う。気が付くと、思いっきりジョーお兄ちゃんに平手打ちをしていた。


「ダメに決まってるでしょ!?殺しちゃったね!命を奪ったね!でもだから何!?そりゃ誰かが悲しむかも知れない!恨まれるかも知れない!でも、あなたは頑張った!出来るだけの事をしたじゃない!

それを全部なかった事にして、あるかどうかも分からないあの世に逃げちゃうの!?

あなたを必要としてる家族や友達はどうなるの!?友達や後輩たちは!?町のみんなは!?何より……こんなにもあなたを好きな……私の気持ちはどうなるのよ!!」


言いたい事を言いたいだけ言って、息切れする私を見ながら、お兄ちゃんはしばらく呆然としていた。


「だよなぁ……自殺(それ)だって結局、オレのワガママだもんな……。」


お兄ちゃんは、ゆっくりと立ち上がり、月を見上げ、すぐに泣き出した。


「何でかなぁ……オレァいつも、自分の事ばっかで……。」



愛情とか、哀れみとか、言い表せない感情が次々と押し寄せて、私はお兄ちゃんに抱き着いていた。


でも、それは返ってお兄ちゃんの涙の水門を開けてしまったらしい。


「ベル……オレ……どうしたら……いいかな……?」


「亡くなった(モノ)は取り戻せない。だからあなたは、同じ分だけ救えば良いじゃない。その十字架、私も一緒に背負っちゃダメ?」


必死で涙と鼻水を抑えながら、それでも顔を上げて月を見上げるお兄ちゃん。


その瞳には光が灯り、ちゃんと前を、ううん、ちゃんとそこにある明日(みらい)を見据えていた。


「ありがとな、ベル。元気出たわ。」


「……良かった。」


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ