ホテルのお土産でもらった マッチって定期的に使わないとどんどん増える
・証拠品その1、マッチを手に、オレが向かったのは『カシュー』の町にあるドレイク夫妻の農園だった。マッチ箱に、農園のロゴマークが付いていたからだ。
ロランゼさんに言われた事は3つ。
一時間に一度、公衆電話からロランゼさんの屯所に連絡を入れる事。
なるべく騒ぎを起こさず、犯人を捉えたら『火消し組』ではなくロランゼさんに連絡を入れ、万が一『第一支部』以外の者に追われた時は、全力で逃げる事。
『火消し組総本部』がある港町ナツグミには、なるべく近寄らない事。
どれもハードな話だが、話が通じるのはロランゼさんだけだからしかたない。
「にしても、なんでオレを逃したんすかねあの人……。」
「彼は昔から、突飛な行動を取る男だった。入隊一年目で屯所を一つ任される程のエリートでね。
いずれにせよ、信頼に足る男なのは確かだ。」
「やっぱ、知ってたんすね。」
マイケルさんはまるで、振り返りたくないトラウマを思い出すように、苦笑いして言った。
「昔、色々あったからね。彼と、現『第二屯所長』と……ま、その話はまたいずれ。今は……。」
「ええ。一刻も早くヤロウの足取りを追わねーと……!」
その後、ドレイクさんからの情報で、 何日か前農園の前に倒れていた男を介抱したが、次の日、土産用に置かれたマッチと共に姿を消し、表に置いてあった薪が萌えていたという事が分かった。
「マッチはいくらでもあるが、薪は違ぇからなァ……ったく、人間不信になっちまうぜ……。」
「ウチは大陸管理局御用達だから、畑に燃え移りでもしたら品質がね……。」
オレは夫妻に例を言うと、証拠品その2を手に農園を後にした。
次に、ルイスと美季カップルが同棲(この言い方するとルイス怒るんだよね)してるジョナサン邸に向かった。
ドレイク農園で手に入れたのは情報だけではなく、男が寝ていた場所に落ちていた地図だった。
ドレイク農園にバツ印、ジョナサン邸とお隣さんの位置に星マークが付けられている。
オレは背筋が寒くなった。
(まさか……犯行現場に印を……!?)
次の目標に星、完了場所にバツ印をつけていると仮定した場合、次に狙われるのは、ジョナサン邸だった。
急いでチャイムを鳴らすと、ルイスが現れた。
「先輩どうしたんですか!?火消し組に捕まったって、ルシアナさんが……。」
「やっぱりか。ルイス!話がある。」
「はい、とりあえず中に……。」
ルイスの父は運送会社を経営しており、要は筋金入りの御坊っちゃんである。家の中は漫画のブルジョアみたいに広く、冗談抜きで迷子になりかけた。
「それで?何があったんですか?皆先輩が捕まったって大騒ぎでしたよ。」
オレはルイスに全てを説明した。昨日の火事の事。犯人を追っていたらハメられ、第一屯所のトップに助けられた事。
次はルイスの家を狙われるかも知れない事。
ルイスは驚いていたが、次の瞬間意外な事をクチにした。
「先輩、ここだけの話ですけど、ウチはもうヤられました。」
「え!?」
数日前の夕方、回覧板を回しに行った美季が、血相変えて戻って来た。庭の様子を見ると、怪しげな男が庭の古新聞に火をつけていた。ルイスの機転で火は消し止められたが、犯人は何処かへ逃げ去ってしまったらしい。
「どうもやつは、この大陸の運営等に関わる重要人物の居場所を狙っているらしいです。ウチは造船とか、他の大陸との交通の便を担ってるから狙われたのかも……。
でもだとすると、昨日の火事はお隣さんではなく、ロングライド家を狙った可能性がありますね。」
「え?……なんで??」
「なんでって……先輩、ジェームズさんは……。」
走りながら、オレはマイケルさんに尋ねた。
「本当なんスか?ルイスが言ってた事……ジェームズさんがまさかそんな……。」
「済まない。てっきり君も知ってるものだと……。」
もしルイスから聞いたのが本当なら、次に狙われる場所は二つに一つ。
昨日の火事があったのだから、ロングライド家には近づかなくなるだろう。
「だとしたら……あそこか……!
第一屯所長になって約二年。マイケルが死んだ。ライアンはオレに追いつき、屯所を一つ任された。
でも、オレは何も変わらない。
万事屋ミリオンの火事をあの時オレが一人で処理できていれば、あいつはローズと所帯を持って、幸せに暮らしただろうに。
第一屯所の隊士どもを引っ張る器なら、総長はこんなオレより、他の誰かを推すべきだっただろうに。
オレはなぜ今、ここにいる。
第一屯所の隊員たちを引っ張る資格なんて、オレにはないってのに……。
ひ弱で貧弱なのに、どこかマイケルとよく似ている。あの目かな。きっとそうかも知れない。
若く、熱い。なのにどこか冷静で、定めた目的を見逃さない眼は、マイケルにとてもよく似ている。
オレも、お前らみたいになれたらなァ……。
「どうしたロランゼ?ぼーっとしていたぞ。」
「ライアンか。すまん、どーも最近疲れがな……。」
「適度な休憩が、どんな鍛錬より大事だったりする。気をつけろ……。」
皮肉笑いを浮かべながら立ち去る友人に、オレは不本意ながら刃を向けた。
「……オレに背後取られるお前こそ、有給取った方が良さそうだが?」
「何のつもりだ?」
冷静さを保つライアン。だが、ほんの一瞬表情が変わったのを、オレは見逃さなかった。
「それはこっちのセリフだよ。今どこに行ってた?」
「は?」
「証拠品保管庫だろう……何を持ち去った?オレの予想が正しければ、現場で目撃された『真犯人』の目撃証言と写真のファイルだろ?」
「……。」
数秒の沈黙。オレは確信した。操作をかく乱した不正の出所は、こいつだ。
「ショックだったよ。鑑識があわくって探してた証拠品の一部が、お前が出入りする前後に無くなるらしいな。それも、決まって『真犯人』に迫る物ばかり……事情があるなら聞くが?」
ライアンは懐から煙草を一本取り出し、煙たい息を吐くと、何かを諦め、何かを決心した様に呟いた。
擦ったマッチには、『ドレイク農園』のロゴマークが付いていた。
「話をしよう。表に出てくれ……。」




