帰りたいから
・目が覚めた時、待っていたのはルシアナさんのエッグベネディクトでも、騒がしいベルやクリスのモーニングコールでもなく、マックス中央病院のものらしき天井だった。
夜はとうに明けたらしく、窓から朝焼けの白い光が差し込み、白いカーテンが揺れている。
「ここは……!?」
非常事態なのは一目瞭然だが、こうなると昨夜の出来事は夢じゃなかったらしい。
「目が覚めたか……。」
ベッドの前には、火消し組のはっぴを着た屈強なおっさん達が、怪訝そうな顔でオレを見ていた。
「オレ、一体……。」
「昨夜、火事現場から数キロ離れた路地裏で倒れていてね、我々で保護したんだよ。」
男の声は冷静だが、どこか警戒の念が混じっている。なんとなく危険を感じ、オレは恐る恐る口を開いた。
「すいませんでした。家の者が心配しますから、オレはこれで……。」
ズキズキとした頭の痛みに耐え、ゆっくりと立ち上がり、病室から出ようとしたとき、男は突然、警棒の様な物を突き付けた。
「……!?」
「残念ながら、君はココから出れない。」
「何でです!?オレが一体何を……!?」
男は警棒をしまうと、今度は懐から一枚の書状を出した。
何が書いてあるのか、すぐにはわからなかった。
いや、目を合わせたくなかったと言った方がいいかも知れない。
顔を上げたときに何が書いてあるかを、何となく悟ったからだろうか。
書状には、やはり英文でこう書かれていた。
【ジョー・ロングライド、連続放火事件の嫌疑により、一定期間消防団火消し組による身柄拘束司令状】
「どういう事です!オレは賊を追って……。」
「君は確かに路地裏で倒れていた。手にライターを、コートのポケットに大量のマッチを持ってね。」
「ハメられたんです!後ろから誰かに殴られて……。」
「目撃証言によれば、君は野次馬の間をくぐり突然走り出したらしいな。状況的には疑わしい事この上ない。仮に君がクロだったとしても、同じことを言うだろう。」
「そんな……。」
話は通じないらしく、火消し組の監視下に置かれる決定は覆らない様だ。
突如脱力感が襲い、おもわずその場に座り込んだ。
「調査が終わり、君がシロと分かればすぐに解放される。午後からの取り調べに備え、ゆっくりし給え。」
男は事務的に一言いうと、オレをにらみつける様に病室を出た。
(この状況で何がゆっくりしろだ!ふざけやがって!)
マッチやライター持って倒れてたところを裁判もなしにひっ捕らえられ、気が立っていたオレは、出ていく男に精一杯の悪態をついた。
「くそ……何とかここを出ねーと。」
マイケルさんが話しかけてきたが、目の前の事でいっぱいいっぱいなオレの耳には入らない。
思い立ったらすぐ行動に移れるのが、オレの長所でもある。窓から飛び降りてでもココから出て、みんなに身の潔白を訴えるんだ!
「今出るのは、やめたほうがいいと思うが?」
ふいに、背後から声がした。
心臓が飛び出て、冷や汗が噴き出た。火消し組のはっぴに、上からマゼンタのマントがついたコートを羽織った青年が立っていた。
以前、火消し組総長ドランクの屋敷からの帰り道で出会った彼だ。
体格はがっしりし、身長は高く、やはり左目は閉じている。
マントを羽織っている辺り、かなり位の高い人物と見える。
青年、と思ったのは、彼がマイケルさんと同じ位の年恰好だからだろうか。
以
「ロランゼ……!?」
マイケルさんがポツリと言った。彼の名前だろうか。そういえば、マイケルさんは生前火消し組だったような……。
いろいろ問い詰めたいのを我慢し、まずはマイケルさんがロランゼと呼んだ火消しに尋ねる。
「逃亡罪も追加ですか……?」
「そんなに逃げたいか?」
「そっすね、冗談抜きで無実なんで。この処置も不服以外のナニモンでもないっす。」
あくまで冷静に、しかしものをはっきり言う姿勢は崩さない。
「正直な奴だ。じゃあ……。」
彼は言葉を切り、腰に差していた細身剣を抜いた。
彼の右目が、刃の様にギラリと光る。
(斬られる……!!)
直感的にそう思ったとき、彼は細身剣の刃を、まっすぐ病室の扉へ向けた。
「出ろ……。」
「!?」
一瞬、何を言われたのか理解できなかった。
が、確かに彼は部屋から出てけと言ったらしい。
「聞こえなかったのか?出ろと言ったんだ。」
「なんでなんすか……?」
「無実なんだろうお前?正直オレも、いきなり担ぎ込まれた病人を、放火の嫌疑で取り調べなど納得できん。突飛な話だが、何か内部の不正の臭いがするんだ。」
「オレに、どうしろと?」
ロランゼさんは一瞬迷ったような顔をしたが、やがて腹をくくったように、オレに高難易度のミッションを告げた。
「風のうわさだが、『デットナイト』8番隊の副隊長リディアを退治したのは、ミリオンさんじゃなくお前だそうじゃないか。その腕を見込んで頼みがある。オレが火消し組内部を洗ってる間に、真犯人を捕まえちゃくれんか?」
というわけで、ロランゼさんが火消し組内部の不正を洗い直す間に、オレは真犯人を探す事にした。
無実の罪を着せられ、疑われた挙句、屯所のリーダーに利用される。何とも納得できない状況だが、このままでは家に戻れそうもないし、更なる犯行でロングライド家の皆やくるみの町の皆が危険にさらされる可能性もある。
オレは唯一、犯人と接触してるわけだし、放っておく訳にはいかない。
火消し組の黒ローブと、オレのポケットに入っていたという3つの証拠品を手に、誰にもバレないよう、オレは病院から抜け出した。
(待ってろよ放火魔!必ず見つけ出す!オレをハメた事、くるみの町を恐怖に陥れた事、必ず後悔させてやる!)




