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転生ですか?ではどうぞ、ネズミの国へ  作者: 芭蕉桜の助
FIRSTyear 冬 年の瀬に揺れるシード大陸
40/86

夜晴れのち火災

・くるみの町の夜が更けてからは、街の安全は、ネズミの自警団火消し組に委ねられる。

発足から三十数年。もう何年もの間、彼らは身を粉にして、街の安全を守ってきた。


くるみの町屯所の所長、ロランぜ・サラバイダーは、火打ち石を片手に警戒を張巡らせていた。

20代前半とは思えないカリスマ性を誇り、総帥ともう長い間火消し組を引っ張ってきた彼の背中は、マゼンタのマントが似合い、屈強な男たちがついてくるのに相応しいオーラが出ている。


「 警戒を怠るなよ!放火魔がいつ現れてもいいようにな!」


ここ数ヶ月、くるみの街は平和であったものの、得体の知れない放火魔の被害に、住人達は頭を悩ませていた。


「もうすぐクリスマスだってのに、オレたち休日返上で夜回りかよ。」


「バカ、隊長は普段でさえ俺たちより勤務時間長いのに、クリスマスまで彼女と可愛い弟ほっぽって仕事だぜ?

休みもらえる俺たちが、ガタガタぬかしちゃいけねえよ。」


「ま、それもそうだな。今回は、第二屯所も合同でパトロールしてるらしいし……。」


そう言う新人隊員の視線の先には、誰もが羨むエリートがいた。若くして第二屯所長を任される、ライアン・ホルダーだ。

銀縁メガネの奥で鋭く光る瞳は、町の平和を乱す因子をアリ一匹逃さない。


「オレもあの人みてぇになりてーなー。」


「バカ、集中しろ集中!」


数分後、一通りの見回りを終えた火消し組は、 一時屯所に戻って行った。







放火魔は、音程もリズムもめちゃくちゃな鼻歌を歌いながら、 ある住宅の納屋に火を放った。


タンクの中のガソリンを撒き、ライターを落とせば、簡単に火は広がる。簡単な話だ。本当に簡単な……。

だが、ボロを着たままで、黄疸が入った目を見開き、よだれがダラダラともれ、だらしなく開いた口元、顔中から溢れ出るその狂気は 彼がいかに異端の存在であるかを象徴していた。


手間数はそんなにない、実に単純な一連の動きには、長年の間に積もり積もった彼の憎しみが、火に変わって現れていた。


「夢〜は焦げ落ち 灰〜に変わる 皆〜皆、燃えちまえ〜!」


壁一面に炎が広がると、 男は満足そうにその場から立ち去った。


「希望と思いはす〜すだ〜らけ〜!お前の屍炭になる!


皆〜皆〜燃えちまえ〜!」


誰も悲鳴など上げていないのに、まるで町が叫ぶかの様に、 見るも無惨に納屋は崩れていった。








この世界に来てから、 眠れなくなったのは何度目だろう。


体調を崩した時、入院先で美季と再会した時、同じく入院先で、突然ベルが恋しくなった時、色々あったが、今夜のそれは、今までとはまるで違う、異質の違和感だった。


誰かが恋しいとか、何かがもどかしいとか煩わしいとか、そんな不確かなものじゃない。五感のどこかが感じているんだ。どこだろう。オレのどのセンサーが、その違和感を感じ取っているんだろう?


股間を確認してみるが、こちら(・・・)は反応していない。変な意味で安心してしまった。


上体を起こし、壁掛け時計を見る。時刻は午前二時。ここまで眠れなかった事は、今までただの一度もない。


途方に暮れていた時、誰かが部屋をノックした。


扉の向こうにいたのは、ベルだった。彼女もまた眠れなかったらしく、枕を持ったまま、眠そうに目をこすっている。


「どうした、こんな時間に…。」


「どうしても、眠れない。」


「オレもだよ。困ったな……。」


オレが頭を掻いていると、ベルは少し間をおいてうつむき、下を向いてボソリと言った。


「もし良かったら、一緒に寝ない?」


「!??」


オレは、無言のまま真っ赤になった。


え!?何!?オレまだろくにアプローチしてねーけど!?いきなりそこまでいっちゃう(・・・・・・・・・)!?


YESともNOとも言いかねていた時、ベルの方から先に顔を上げた。


「冗談だよ冗談!びっくりした!?」


「お前なぁ……。」


オレは苦笑いしながら、ベルの頭を軽く突いた。


ベルめ、ものすごい冗談言うようになったな。まだ汗と動悸(鼻血?出るわけねーだろ!)が止まらねー。


「ほれ、もう遅えから、天体観測でもして寝るぞ?」



実際、オレ自身も眠れなかった。星でも見ていれば、直に眠くなるだろうと思っていた。


だが、窓を開け、庭に出た事で、 一歩間違えれば死んでいたその危険に気づくことができたのだ。

庭に出てすぐ先ほどから感じていた違和感の正体に気がついた。


(焦げ臭え……!?)


ふと、オレの視界に灰色の煙が入る。


ロングライド家とお隣さんと隔てるへいの向こうを見て、オレは背筋が凍った。


塀の向こうからでもはっきり分かるほど勢い良く、お隣さんの物置が燃えていた。


ベルもそれに気づいた様で、みるみる顔色が変わる。



「ベル!ルシアナさんやルッキー達皆を起こしてくれ!

オレは火消し組に通報してお隣さんを助ける!」




部屋の階段を急いで駆け上がり、家族を叩き起こすベルの声が聞こえてくる。


急いで電話機を回しながら、オレは大変な事に気づいた。


(マイケルさんは……!?)


あの(ヒト)は今、オレの身体を依代にしてる。本人曰く、ココに来てから単なる浮遊霊ではなくなった様で、オレの半径5メートル圏内をついて回っていたのだが……まぁ、既に幽霊なワケだし、どんな目に会っても『死んじゃう』って事はないだろうけど……。


「何してるんだジョー君!早く逃げ給え!」



真後ろからマイケルさんが大声で言った。


「何してたんスか?姿が見えないから何処行ったのかと……。」


「君が起き上がった時火事に気づいてね。急いで一時的に分離し、お隣さんを目覚まし時計で叩き起こしたのさ。」


なんちゅー乱暴な……とはいえこんな状況では、手段を選んでいられないのも事実。オレは急いでダイヤルを回し、火消し組に連絡を入れた。



数分後、ご近所の連係プレーによるバケツリレーが功を奏し、火消し組が来るまでの間も、被害が広まることはなかった。


やがて消防車が到着すると、辺りには野次馬が集まった。


「皆さん、下がって下さい!危険です!」


くるみの町で稀に見る珍事に大騒ぎする野次馬を、火消し組のお偉いさんらしき人が必死に鎮める。が、その中に一人、明らかに異質なオーラが出ている者がいる。


人の家が燃えているというのに、虚ろな目を見開き、ケタケタと薄気味悪く笑っている。男がその手に持っているものを見て、オレは叫びそうになった。


男はそれ(・・)を、手の中でカチカチと鳴らしている。


(ライター……!?)


野次馬から犯人探しをしたいわけではないが、この状況でライターとは、 あまりに不自然すぎる。俺はゆっくりと男のもとに足を向かわせる。


男はオレに気付くと、余裕綽々と言った表情で笑い、突如背を向け走り出した。


「……!待てよ!!」


「ちょっと、お兄ちゃん!?」


「わりーベル!すぐ戻っから、ルシアナさんとかに謝っといてくれ!」


ベルが止めるのも聞かず、オレは目の前にいる男を追う。


やましい事がある証拠や確証はどこにもない。だが、『分かる』のだ。かつて、美季を助ける為にマフィア一派のアジトに乗り込んだ事がある。


そいつら独特の堅気の者と違う『感覚』を、オレはいつの間にか嗅ぎ分けられる様になっていたらしい。


「オイ!待てよ!!」


「み〜んなみんな〜、燃えちまえェェェェェ〜!」


自白をほのめかす様な、薄気味悪い歌が聞こえてきた。だが、なんだろう。この違和感。


捕まる事をまるで恐れてないような、オレとゲームでもしてるつもりな様な……すぐ手前にいる相手の行動が、まるで宇宙人と対話する様に難解で、全く読めない。


「待てよォ!!」


渾身の威嚇にも全く反応せず、ただただ走り続ける。


「ジョー君!右に曲がった!急げ!」


「マイケルさん!?なんでココに!?」


「ベルが泣いてキミのこと探してたから、どこかと思えば……あの男が犯人なのかい!?」


「ただの勘ですけど、とても無関係とは思えない!」




走りながら、マイケルさんのナビゲートに合わせ、オレたちは遂にくだんの男を追い込んだ。


後ろと左右はレンガの壁。もう逃げられない。


「ハァ……諦めろ。なんのつもりか……なんで逃げたのか答えろ!」


男は、相変わらずケタケタと笑っている。


その時。


「ジョー君!後ろだ!」


マイケルさんの叫びで後ろを振り向いた時、オレは背後にいた誰かに頭を殴られ、一言発す間もなく気絶してしまった。

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