寄せ鍋の白菜はクタクタになってから食せ
・ローズお義姉ちゃんの引っ越し手伝いが一段落し、今夜は引っ越し記念に、ロングライド家で夕食を取ることになった。
かくいう私は、お義姉ちゃんと会うのは二年ぶりなわけで、気持ちは昂っている……ハズなのに、なぜか今、一段とモヤモヤしている。
昼間、お義姉ちゃんがジョーお兄ちゃんに告白してる所を見ちゃったからかな。
パパやママは、元義娘が息子の死を乗り越えて立ち直り、ここに来て再会したのが戸惑いつつも嬉しいようで、下ごしらえの間、なぜかずっとそわそわしていた。
「ベル……肉取ってくれや。」
「……え!?」
「え?……いやだから、肉な。」
「あ、うん。ごめんね。」
「ちょっとベル、ぼーっとして。大丈夫?」
ママが心配そうにはなしかけてきた。
「うん、大丈夫。」
真っ赤なウソ。本当は全然大丈夫じゃない。自分の体温が異様に上がっているのが分かる。
昼間のあのシーンを目撃してしまってから、今の私はお兄ちゃんの顔を見るのがやっとだった。
「……ん?」
「ううん、何でもない!」
遂にジョーお兄ちゃんどころか、隣に座っているローズお義姉ちゃんの顔を見るのもギリギリだった。
お肉が煮立つ音が聞こえて来た。
「コラルッキー、肉から取れや。白菜はもっとクタクタになってから食わなきゃ。」
「分かってないな兄貴、ある程度固さが無いとさ。」
ローズお義姉ちゃんはクスクス笑っている。
こんなに賑やかなのは久しぶりなんだろうな。
マイケルお兄ちゃんが死んでから、お里にお母さんと二人で帰って、お父さんも兄弟もいない。
二人暮らしで細々と食事してたんだろうから……。こんなふうに憐れむのは、家族に囲まれて過ごしている私の傲慢かもしれない あるいは、じゃあお兄ちゃんに告白してしまったことに対する嫉妬だろうか。
いずれにしても、私はお義姉ちゃんと張り合っていい人間じゃないかもしれない。
「ベルちゃん、食べな。」
ローズお姉ちゃんはそう言って、私の取り皿に鶏肉をよそってくれた。
「ありがとう。」
「ふふっ……。」
ミステリアスなのに、清らかで淀みない。こういう大人の魅力はきっと私にはないのだろう。
「それにしても、またローズちゃんと食卓を囲むなんてね〜。」
ママがいつもの柔らかい口調で言った。
「私もびっくりです!でもお母さんも暖かい方なので、もう1回一緒にご飯食べたいなって……。」
パパは二人の会話を微笑ましそうに聞き取りながら、 マロニーをすすっている。
でも、次の瞬間爆弾を落としたのは、さっきまで黙ってつみれをほおばっていた能無し弟だった。
「姉貴さぁ……昼間兄貴に告ったって本当?」
ビシャンと雷が落ちて停電した後みたいに、一気に食卓が静まり返った。
このバカ!私が聞きたくて聞きたくてしょうがないけど黙ってた事をあっさり聞いたわね!?
ママは口に白身魚をくわえたまま呆然となり、パパは吸っていたマロニーを全て吐き出した。
数秒の沈黙の後、お姉ちゃんは何かをごまかすかのように笑って答えた。
「やだルッキー君、そんなわけないでしょ? 確かにこの子マイケルのアホに似てるけど 似てれば誰でもいいってわけじゃないからね。 変な噂立てちゃダメよ?」
「こりゃ失敬。」
そう言って、何事もなかったかのように餅巾着を食べ出す馬鹿弟。
失敬どころの騒ぎじゃないわよ!!今の反応絶対何かあったパターンじゃない。
なんでそれがわからないのこのKYの極み!!
「さ、色々あっただろうが、鍋が冷めるといけねーから、早めに
牡蠣入れるぞ?」
ビニール袋に入った牡蠣を、お兄ちゃんが器用な手つきで鍋に投入。
同時に白菜もくたくたに煮え、 本格的に良い香りがし出したはいいが、 弟への怒りとお姉ちゃんに対するモヤモヤが相まって、もう鍋どころではなかった。
「ほれ、冷めるぞ。」
ロッキーパパママローズお姉ちゃんの順にどんどん牡蠣がよそわれていく中、ジョーお兄ちゃんは、いの一番に私の分をよそってくれた。
ああもうなんて優しいの!?こういう所好き!大好き!!
「どうしたベル、ニヤニヤして……。」
「ううん、何でもない。」
お兄ちゃんがよそってくれたからなのか、素材本来の味なのかはわからないけど、フラッシュスノー大陸からパパが奮発して取り寄せてくれた牡蠣は、ここ数年で一番美味しかった。
「ごちそうさまでした。」
「またいらっしゃい、困った事があったら、いつでも言ってね。」
ローズお義姉ちゃんを見送りながら、私は改めて感服した。
ついおととい、ジョーお兄ちゃんに恋をして、 それを追いかけるためにわざわざこんなところまで引っ越しに来るなんて、誰にでもできることじゃない。
本当にお兄ちゃんを口説き落とすことだけが目的だったのかと、少し疑いたくなってしまうぐらいだ。
本当に、それだけだったんだよね……?
「ベルちゃん、ちょっと外出てくれる?」
突然呼ばれたせいか、反応するのに少し間を開けてしまった。
今夜も気温は低く、夜風が頬に当たって身震いした。
少し距離をとって私の前に立っているお姉ちゃんの姿が、月明かりに照らされて余計美しく見える。
「私がジョー君に告ったとこ、見てたよね?」
あまりにはっきりと、しかも流れる様に優しく言った。
「……うん。」
「イヤだった?」
正直私を試してるのか、それとも本音を探りたいのかはわからない。 ただ、ここで嘘をついてはいけないと直感的に思った私は、気がつけば正直な答えを返していた。
「うん。正直言って……。」
「そっか……ごめ……。」
「謝らないで!ジョーお兄ちゃんを好きになるお義姉ちゃんの気持ち、分かるから!あの人は、お兄ちゃんに似てる。
でも、それ以上に魅力的な人だから!だから私、負けない!」
気がつけば、本気でお義姉ちゃんに言い放っていた。瞬時に私の顔が真っ赤になり、お義姉ちゃんはクスクス笑い出す。
「ベルちゃんは、本気でジョー君を好きなんだね。分かった、じゃあお姉ちゃんも、負けない!」
「うん……!」
ライバルが増えた瞬間だったハズなのに、不思議と清々しい気分だった。
明日からが大変だ。でも負けない。
ローズお義姉ちゃんが言うように、私だって、ジョーお兄ちゃんが大好きだから……。




