観覧車は必ず二人ずつで乗れ
・ローズさんに手を引かれ、くるみの駅から電車で十二分ほど。このシード大陸第二の中心都市といわれる、『ナツグミストリート』に来ていた。電波塔に、テレビ、ラジオの放送局、果てはこの大陸にただ一つのテーマパークも立ち、集客率も人口もなかなかのものだ。
どこも、デザインはやや古臭いが、サブカルチャーに疎いオレが遊ぶには十分すぎる。
少々貰い過ぎなほどに貰っていたルシアナさんからの小遣いは、中に入るのに大いに役立ってくれた。
「ねーマイケル!まずアレ乗ろー!!」
そう言ってローズさんは、富〇急もびっくりの絶叫マシンを指さした。
「え、ウソ!あれ!?」
「そう。あれ。」
「あはは、大丈夫?あんまり恐いの乗ると心臓飛び出……。」
「いやァァァァァ!心臓飛び出るゥゥゥゥゥゥゥゥゥ!」
否応なしに絶叫マシンに乗る羽目になり、変に体力を消耗。
その後、コーヒーカップにトランポリン、遊園地の気持ち悪くなる乗り物を総なめにし、夕方ベンチで休憩する頃には、もう立っているのがやっとだった。
「もうバテたの?だらしないわね~。」
アンタに合わせてたんだよ!アンタに!と突っ込みたいのを我慢し、アイスクリームを奢る。
美味しそうに、だが上品に舐める姿は、どことなくルシアナさんに近いモノを感じる。
「変わらないよねー、アンタ……。」
「そう?そりゃ良かった。」
「良くないよ。私さー、死ぬほど寂しかったんだよ?アンタが居なくなってから、身体の一部が、魂がなくなったみたいでさ。
……もう、今まだ興奮してるよ。よほど死のうかと思ったけど、良かった、死ななくて。」
自分の事では無いのに、なぜか胸が痛んだ。
同時に、この人がどれだけマイケルさんを愛していたか、後でマイケルさんをどれだけ殴ってやろうか、色々考えては消えていった。
その後は、アーケードでプリクラを撮ったり、メリーゴーランドに乗ったり、正直言って楽しかったが、ローズさんがここにいて欲しいのはオレじゃなく、マイケルさんなんだ。
徐々に明るくなるとびっきりの笑顔を見て、とてつもなく申し訳なかった。
その間も、マイケルさんは物陰からジッと見守っていた。幽霊なんだから、物陰に隠れる必要なんてないだろうに……。
しっかし、目立つだろうなー。ジャージ姿と赤いドレスのカップル、か……。実際、周りのお客さんからは、不思議そうな視線を感じる。
ミントアイスを舐めながら、ふと考えた。
この後、どうしよう!?
ここまで来て実はマイケルさんじゃありませんなんて、とても口に出せない。
だが、このまま彼女について帰るわけにもいかない。第一、どこに帰るつもりかも分らないし……。
マイケルさんは遠くから見守っているが、あれからジェスチャーも何もしてこない。
途方に暮れていたら、正面の観覧車を指さした。
「最後にさぁ、アレ乗らない?」
「……いいよ。」
最後って、どういう意味だ?数秒の間に色々考えたが、あっという間に乗ってしまった。
登り始めるとすぐ、西側、シード大陸の港方面が一望出来た。
「小さいんだよね。この大陸……。」
「六大陸の中じゃ最小だからね……。」
やがて頂上に近づくと、屋根などに隠れた方面も、どんどん開けて見えてきた。
ローズさんは、泣くでも笑うでもなくジッと夕日を見ていたが、頂上に差し掛かった時、ゆっくりと呟いた。
「ねぇ。君の名前、何て言うの?」
一瞬の内に冷や汗が吹き出し、疑問と恐怖が嵐の様に押し寄せてくる。
「ロ、ローズ……?何言ってんだ?ボクだって……ボク……。」
「もう良いよ。分かってるから……。」
「なん……で……!?」
「商店街に行く前に、マイケルの墓に行ったの。そしたら公園ブラついてる暇人がいたから声かけたら、君だったんだ。」
「じゃあ、精神の病ってのは……!?」
「初めは、アイツが死んだって認めたくなくて、かなり苦しんだわ。徐々に心が落ち着いて、報告に墓参りに行ったんだけど、試しにちょっかいかけてみた若者が、思いの外あいつにそっくりで、びっくりしちゃったよ。でも、君はマイケルじゃないんだよね?」
そういうローズさんは笑っていたが、目がどこか寂しげだった。
「すみません……。」
「君が謝る事じゃないよ。驚かせたのも、巻き込んだのも私。見れば見るほどそっくりだから、『もしかしたら』とか思っちゃってさ。馬鹿よね私も。」
「そんな事ないと思います!」
気がつくと、オレは思い切り叫んでいた。
ローズさんが、少し驚いた顔をした。
ただ、ローズさんに言葉を返さずにいられなかったのだ。その時オレの胸中には、今誰より思いを寄せる、ベルの顔が浮かんでいたのだから……。
「ローズさんは、マイケルさんが好きだから立ち直れなかった。マイケルさんを諦めたくなかったからオレの事を確かめずにいられなかった。そういうのは弱さじゃない。馬鹿でもない。むしろ誇るべきですよ!」
数秒の沈黙の後、ローズさんは、突然笑いだした。
「プッ……アハハハハハハハハ!」
「……?」
「ほんと最後まで驚きっぱなし。昔ね、マイケルにも同じ事言われたんだ。つくづく、他人とは思えない。」
「……!」
「これはただの女のカンだけどね。もしかして、今もすぐ近くにマイケルが居たりするの?」
ドキッとした。以前ジェームズさんが、ルシアナさんの女の勘は驚異的だと言っていたが、この人もそれに匹敵するかもしれない。
「……すいません、それは言えないんです。『契約上』……。」
「……そっか。じゃあ、どこかでアイツに会えたら、伝えてくれる?『アンタと一緒に居られてスゴく楽しかった。来世でまた逢おうね。ありがとう。』って……。」
「オレが墓前で唱えるまでもなく、伝わってると思いますよ。」
それは、嘘や気休めではなかった。なぜなら、オレのすぐ横で、幽霊が一人泣きじゃくっていたからだ。
(何言ってんだよローズ……!礼を言うのも謝るのも、ボクの方だよ……!)
それから、港から出るフローチア大陸行きの連絡船に乗り、ローズさんは帰って行った。 パークで遊んだ金を返すと言ってくれたが正直オレも楽しかったので、受け取らないことにした。
帰り道、マイケルさんの顔はどこか寂しげで、それでいて清清しそうだった。
「良かったんスか。何も言わなくて……。」
「僕がいなくても、今の彼女は生きていける。何も言わなくても大丈夫さ……。」
こうやって割り切れることも、この人の強さなのかもしれない。
改めてオレは、この人の長所を感じた気がした。
その強さも、めちゃくちゃさも、マイペースさも、全てがローズさんを惹きつける魅力だったのかもしれない。
あんないい女を泣かせて、さっきまであれほど殴ってやろうと思っていたのに、隠れてコソコソと泣いているのが見え見えだったからか、もうそんな気は失せてしまっていた。
帰ってからは、 ベルやルッキーに色々聞かれたのを何とか誤魔化し、 そそくさと布団に入った。
もう二度と戻ることのない、仲睦まじい恋人たちを思い浮かべながら……。




