夢現の境界で
・夢の中、にしては生々しいが、少なくとも現実ではない様な気がする。突然砂漠の真ん中に立っていた訳で、それをとても現実とは思えない。
空は黄色く、大地は見渡す限り砂、砂、砂……。
人工物などまず見つからない。
「えーっと……どこだ、ココ。」
「境界線、かな。」
背後から若い男の声がした。若い男だというのはわかるが、不思議なことに、エコーがかかったかのように不自然に響いてくる。
振り返ると、火消し組の赤いハッピにオレンジのマントを羽織った青年が立っていた。
このファッション、どこかで見たことがあるような気もするが、それ以前に驚いたのは、俺が以前彼に会ったことがある。
ということだった。
「どっかで、会いましたっけ?」
「鏡を見れば、僕の顔が映るんだろう?」
ピンときた!いや、と言うか鏡を見て他人の顔が映るって、その他人はこの世に一人しかいない。
確信したオレは、目の前で佇む彼の名前を呼んだ。
「マイケル・ロングライドさん……?」
「ピンポンピンポーン!でもなぜにフルネーム……。」
「その前にツッコミどころが満載ですよ!アンタ……二年前に亡くなったって……。」
「だから、ここは『境界』なんだよ。」
マイケルさんは、なるべく分かりやすく説明するように努めているようだ。分からないこと、わかることが五分五分になってくると同時に、オレの脳内で嫌な予感が駆け巡る。
「オレ……死んだんすか?」
「そうとも言えるね。君はボクの代わりに、ベル達のお兄ちゃんをやってくれたね、もう充分な程に。そろそろ、開放されたくならないか?」
「それって……どういう……?」
「僕は、あの日確かに死んだ。もう一度、ある方法で生き返る為に、ボクの身体を預ける必要があった。条件が揃った今、君はもう別の何かに転生するも、元の世界に戻るも自由。どうする?」
そういや、色々あったしなー。ケンカしたり、支え合ったり、飯食ったり、笑ったり、泣いたり、怒ったり……。
でもやっぱり、ここに居るべきなのはオレじゃなくて、マイケルさんなんだろう。
だけど、だけど……。
数秒の沈黙。気が付くと、オレはとんでもない事を口走っていた。
「オレ、このままでいるワケにいきませんかね?」
驚くでも、不思議がるでもなく、ただただオレの目をじっと見ている。
「まだ続けるって事?あのクセの強い家族との生活を……。」
「オレ、確かに色々あったけど、この町が、こっちで知り合った皆が、ロングライド家が、ベルが大好きなんス。やっぱり、もうちょい、皆と一緒に居たいなって……。」
マイケルさんは、何も言わずに頷いている。
「すいません!でもやっぱり、マイケルさんは生き返らないと……。」
「いや、僕やっぱ生き返らないわ。」
「へ!?」
予想外の返答に、オレは目を見開いた。
「え、いやだって……。」
「みんなが喪に服しちゃってるんだったら、生き返って慰めなきゃとも思ったけど、その様子だと、みんな元気にやってるみたいだし、特に心配はいらないみたいだね。」
「はぁ……。」
突如空間に穴が空き、ものすごい勢いで俺を吸い込もうとした。
「慌ただしくてすいません!ベル達が呼んでるみたいなんで、これで失礼します!」
「構わないよ!……ひとつだけ、お願いしても良いかな?」
「……!?」
「ベルを……宜しく頼む!」
お任せ下さい!と叫ぶ代わりに、オレは右の親指をまっすぐ立てた。
目を覚ますと、額に冷えたおしぼりが乗り、布団の横でベルがうたた寝していた。
おそらく、一晩中変えてくれたのだろう。
やっぱ好きだわ、ベルのこう言う所。
ってか、やっぱりアレ、夢だったのかなぁ。
「そんなに好きなら、もっとグイグイ行けばいいのに。」
「!?」
ビクッとして振り向くと、絵本に書いたオバケのような、足は途切れ、煙のような姿になったマイケルさんが、不思議そうに俺を見ていた。
「……ええええええええええええええええ!?」
夢じゃなかった!いろんな疑問が波のように押し寄せ、ただただ腰を抜かす。
「どうした?オバケでも見た様な声出して……。」
「今のアンタがオバケそのものじゃないっすか!」
「僕が見るに、君はベルを好いているが、今ひとつ進展しない。
ここまで良くしてもらったワケだし、少し知恵を貸そうと思ってね。」
「はぁ……。」
複雑な心境だった。実の兄とはいえ、ベルは生前この人に思いを寄せていた。 本来なら恋敵になっていたはずのこの人が、今や頼れるアドバイザーとは……。
「でも、良いんですか?ベルは、アンタを……。」
「ん?なんの話?別にいいじゃない。ベルはブラコンだったけど
女の子はいずれお兄ちゃんから卒業するものだし……。」
ん!?
オレは雷に打たれたような衝撃を受けた。
ルッキーの話では、確かこの人のファーストキスはベルが奪ったと聞いていた。
それだけ仲睦まじい(意味違うな)兄ちゃんが、こんな軽いノリで……。
そこまで考えて オレの脳裏に一つの可能性がよぎった。
まさかこの人、気付いてないのか!?ベルが自分を男として見てた事に!?
ありえない話じゃないこの人が性格的にルシアナさんに似てるから、ちょっと抜けてるところを先ほども感じていた。
「と言う訳で、今日から宜しくね〜!」
人の気も知らず、陽気な返事をするマイケルさんに、俺はただただ苦々しい笑顔で頷くしかなかった。
「お兄ちゃん、起きたんだ。」
「ああ、おはようベル。」
怪我の功名、という言葉がある。
今回はその真逆、風邪を引くと同時に、波乱の予感を呼び寄せる幽霊までついてきてしまった。
はてさてこの先、どうなることやら……。
あの世って物があるんだったら そこは退屈なんでしょうか はたまた苦しいんでしょうか。
多くの人が持っているであろう疑問にさくらのすけなりの仮説を立ててみました。




