高い志を持つにはカッコ良い先輩が必要だ。
・紅葉公園を抜けた先、くるみの街の住人たちが、皆口を揃えて不思議がる青色の塔。
私は、それが何なのか知っている。
かつて、と言ってもつい20年前まで、この国を支配する権限を争い、何千何万もの人々が血を流した。
結局のところこの大陸の先住民たちは大陸を守り抜き、最後に残った6人の民が最強の称号とともに、この大陸を支配する権限を得た。
これを、『シード大陸覇権戦争』と呼ぶのだが、その影には多くの謎が残っている。
この塔もその七不思議の一つだが、その正体は意外と単純なもので、覇権戦争が終結する際、6人の王たちは王宮の代わりにと、6人で今後の方針を決めるための集会所を作り上げた。
その子たちの集会所こそ、この塔だったのだ。
最上階にある極秘会議室には、私の他にもう3人が集まっていた。
「遅いぞ、何をしていた。」
「いや、申し訳ない。 人件費と建設費のことで、クライアントともめてしまいましてね。」
「相変わらず、生粋の建設業バカだな。」
「匠と言ってくださいよ。まぁ、ビ○ォーア○ターの様には行きませんがね……ところで、まだ空席があるようですが?」
「アイツが、 真面目に参加するとは思っていまい。
悪いが、お前がヤツに連絡を頼む。」
「かしこまりました。」
席につき、4人が向かい合う形になると、まずは私の名前が呼ばれた。
「早速だが、議題の発表を頼むぞ。ジェームズ。」
「ハックション!」
今日起きてから、何度目のくしゃみだろうか?ここの所寒くはなってきていたが、特に最近は体の不調が著しい。
「兄貴、大丈夫?」
ルッキーがホットココアを持って来てくれた。こういう時、何かと気が利くのだ。
「サンキューな。」
「俺だって心配してんのよ。」
「ルッキー……!!お前って奴ァ……!!」
涙ぐむオレに、ルッキーがサラッと一言。
「兄貴がぶっ倒れたら、俺が家事炊事やんなきゃじゃん?ヤダよめんどくせぇ。」
「オレの涙を返せェェェェェェェェェェェェ!」
「あ、ツッコむ元気はあんだね。」
とはいえ、午後になるといよいよ冗談では済まなくなってきた。
熱は39℃まで上がり、咳とくしゃみが止まらない。足元がふらつき、つい先ほどに至っては、洗濯物を持ったまま階段で転びかけた。
ルシアナさんに支えられなければ、頭から真っ逆さまは避けられなかっただろう。
「顔真っ赤じゃない。少し休みましょう。」
「でもルシアナさん、洗濯物……!!」
「何言ってるの。洗濯物のためにジョー君死んじゃったらかなわないわ。」
言われた通り布団に入るが、やはり苦しいものは苦しい。
時々、 兄貴思いなベルがそれはもうこの世の終わりのような騒ぎで看病しにくるが、それはそれで体力を削られてしまうということを、オレはどうしても口に出せない。
「大丈夫?何か要る?」
「あぁいや、大丈夫……そんな事より、友達と遊びに行くとか言ってなかったっけ?」
「お兄ちゃんが寝込んでるのに、それどころじゃないよ……。」
多少騒がしいが、こういう時一番心配してくれるのも、励ましてくれるのもベルだ。なんだかんだ言って、それがどんな特効薬より癒されたりもする。
こういう所、好きだなァ……。
「なんか言った?」
「何でもね。ありがとな、ベル。」
そう言って頭を撫でるが、今日は反応が少し違った。いつもならテンションを高めて甘えてくるのに、今日は顔を真っ赤にして、
『お大事に。』とだけ言ってそそくさと部屋を出て行った。
……あれェェェェェェェ!?オレ何かした?風邪うつしたとか!?
そういや顔真っ赤だったし!
落胆していると、質の悪い見舞い客が押しかけてきた。
「あいぼぉぉぉぉぉぉぉう!アンタがいなくなったらオレァ、オレァ……アダパラマダミザパタラパァァァァ!」
何語だかわからない悲鳴を上げるイザに、水枕を投げつけた。
「うるさい。タダの風邪。」
「アンタの意思は、オレが引き継ぐぜ!遺産は、キレイな桜の木の下にでも……。」
「勝手に殺すな!何だ意思って!てかお前、オレの遺産(13000ラッド)パクる気だろ!」
そんなこんなで、見舞い品にレトルトカレーを置いて帰った。
「病人の見舞いにレトルトカレー置いてくかフツー……うぅ、見ただけで吐き気が……!」
苦悶していると、今度は廊下から異臭がした。
扉が開くと、大きなドリアンを抱えたミリオンさんが現れた。
「やぁ志島さん、ルシアナさんに急病と伺いやして……どうですかい、具合の方は……。」
「たった今悪化しました。」
「そいつァイケねぇ……あたしの見舞い品を……。」
見舞い品だよ!元凶! と即座にツッコミを入れたいところだが、ウイルスはオレの体力を、根こそぎうばって行ったようだ。
「ゲホゲホ!ウォーエ!」
「志島さん、大丈……志島さん!?」
ミリオンさんは目を見開いた。咳き込んでいた俺が、突然血を吐いて気絶したからだ。
「志島さん!しっかり!ルシアナさん、すぐに来て下せぇ!」
ミリオンさんが叫んでいるのが分かる。階段を駆け上がる足音と、息切れの音は、ルシアナさんのモノだろうか。
なのに、意識はどんどん暗闇に沈んでいく。流れに逆らう事など出来ないまま、どんどん感覚が薄れていく。
なぜか無性に悲しかった。
もう二度と、ここにいるみんなに会えないような、そんな気がした。
果たして俺はどこに向かっているのだろう?
そんなことを考えながら、ついにまぶたの上から聞こえる音は、完全になくなってしまった。




