旦那さん、奥さんがヤケにハイテンションだったら、記念日だと気付きましょう。③
・ 仕事が終わりくるみ駅まで戻ると、妻と同居人のクリス君が、駅まで迎えに来てくれていた
結婚して22年になるが、相変わらず彼女は天真爛漫で、それでいてどこか大人びている。そんな不思議な魅力に惹かれたのはいつの事だっただろうか……。
「おっかえり~!!」
こちらが『ただいま』を言う前に、思い切りハグをしてきた。さて、今日は何の日だったか……なんて、忘れるわけもないか。
「ただいまルシアナ。それにクリス君。」
「お帰りなさいおじさん。」
歩きながら、道に出ていた露店でカップのホットココアを買い、三人で飲み歩いた。
「もう、22年か。」
「あら、覚えてた?うれしー!」
「キミみたいな女性は、この世全てを探してもそう居るもんじゃない。そりゃ、忘れないよ。」
「おじさん達って、どこで出会ったんですか?」
ルシアナが、妖しく笑いながらこちらを見た。私も、困った様にうんうん唸る。
「行ってみる?折角だから……。」
「ちょっ……ルシアナ!?」
「今日はみんな遅い見たいだし、寄って行かない?」
まあいいか。一時的とは言え、クリス君とて家族同然。思い出作りも良いだろう。
私とルシアナが出会った場所。商店街の南アーケードを抜け、道をまっすぐ歩いた海岸の、バスの停留所だ。そこでうずくまっていた私に、彼女はココアを渡してくれた。
冬も近く、凍え死にそうだった私を下宿していたアパートに、黙って上げてくれた上、夕食まで振舞ってくれた。
得体の知れない男を、なぜ疑いもせず家にあげたのか。
後に本人は、『ラブコメの匂いがしたから』と語っている。全くの正解だ。我妻ながら、変わってるというか、恐ろしく鋭いというか……。
火消し組への加入を強制する両親と衝突し、フラッシュスノーから家出してきた私。
連絡船に金を使い果たした私にとって、彼女はどれほど救いであったか……結局、大工になる夢を叶えた後も厄介になり、いつの間にか婚約していた。
その年の11月11日に式を挙げ、マイケルが生まれ、ベルが、ルッキーが生まれ、マイケルを失い、泣き崩れながらも立ち上がり、ジョー君がやって来た。
色々あったけど、その度に海を見に来たのを覚えている。
海よ、何度あなたと向き合ったか……何度あなたに助けられたか。その度に一歩前に進み、今こうしてここにいる。
「キレイね……。」
今も十分キレイなルシアナ(け、決してのろけではないが!//////)が、若い頃のような、落ち着いた感動を漏らした。
「ああ、とてもキレイだ。」
感謝する。海よ。私とルシアナを巡り合わせてくれて、ありがとう……。
「さあ、帰ろうか。」
ルシアナさん夫婦とクリスがプチ散歩を始める三時間前。
ロングライド家に思わぬ客があった。
「ミリオンさん!ボブさんまで!」
万事屋ミリオンの二人が、スクーターに乗ってやって来たのだ。
「たった今、火消しの総長からお電話がありやして。フィリップ坊ちゃんはウチのボブのせいで花を持ち去ったとか。もう何と謝っていいやら……。」
二人は土下座し、オレたちが困惑していると、いかにも不機嫌顔なルッキーが出てきた。
「よりにもよって、姉貴が丹精込めたプレゼントを……これ、どう落とし前つけんのさ。」
「よせルッキー!二人は謝りに……。」
「謝って済むなら火消し組は要らないよ!どうする?オレに代わって姉貴の機嫌直して貰おうか?」
「ルッキー君の仰る通りで。代わりと言っちゃなんですが……今日の所はコイツを。」
そう言ってミリオンさんは、スクーターのケースから箱型のつぼみを取り出した。
そのつぼみを見て、全員が目を丸くした。
以前、貯金を始めたベルが熱心に読んでいたカタログ。そこに描かれていた『プレゼントの花』のつぼみ。これをゆっくり割ると、中から花束が出てくるという。
その現物が、ミリオンさんの手の中にあった。
本来、とても高価な花は、店にもベルの予約分一つしかなかったはずだが……。
「知人に植物学者がいやして、そいつに相談し、つぼみが出来る前に排出した種に『成長促進の水』をかけやした所、早くに育ちやした。もう一つも良好ですんで、恐らく……。」
「ありがとうミリオンさん!やった!これでプレゼントが!」
「相棒!中の準備できてんぞ!」
チラリとルッキーを見る。やはり機嫌は悪そうだが、怒りの熱は収まったようだ。
「ルッキー君……どうぞ、これに懲りず、また……。」
「次に買うガム、半額ね。」
「へい!是非とも!」
結局、最後にオレが扉を閉めるまで、二人は頭を下げっぱなしだった。
いよいよ最終ステップ、気合入れっか!
家の前に到着した私たちは、揃って首を傾げていた。
現在pm7時。いくら何でも誰か帰っているハズだ。ところが、窓からは一筋の光さえ見えない。
もう寝たのだろうか。にしては、鍵が開いているのが解せない。
「どうなってるんだ。」
「わ~、変ですね~!怖いので~、ちょっと見てきますぅ~!」
「クリス君、なぜそんなに棒読……。」
「気のせいですぅ~!」
しばらく待ったが、クリス君も戻ってこない。
「何かあったのかしら……。」
「心配だな。見に行こう。」
恐る恐る玄関に上がり、リビングの扉を開く。次の瞬間……!!
パアン!
クラッカーの爆音と共に、オレたちは盛大に叫ぶ。
「ルシアナさん、ジェームズさん!」
『結婚22周年、おめでとうございま~す!』
二人は目を丸くし、顔を見合わせ、照れ臭そうに笑った。
「なるほど。だからクリス君、今日ずっと張り付いてたのね。」
「へへへ。上手くやりました。」
「皆はオレが動かしてた。」
「司令塔いたのに、大変だったね調理場……。」
「私は先輩と一緒にクッキング、楽しかったな〜!」
「こっちも色々ありましたね、先輩。」
「ま、相棒の機転で乗り越えたけどな!」
「皆、本当にありがとうね。」
「感謝するよ。最高の気分だ。」
「よっしゃ、それじゃ開けようぜ。A級シャンメリー!」
『カンパ〜イ!』
LOVERS MEMORYs 作詞 芭蕉桜の助
唄ジェームズ&ルシアナ・ロングライド
ねぇ 覚えてる? あなたと会った日 ボロボロになって 独りの夜
私が 手渡したココア 美味しそうに飲み干した
そう 忘れない 君の優しさ 初めての卵焼き
君に会えたから 僕は今ここにいる
始まりの日から そう色々あった
だけど忘れないでしょう 海に馳せる想い
(LOVERS MEMORYs)
あなたといる幸せを 君に出会った奇跡を
そう一生かみしめましょう
辛いこともあるわ 泣く事もあるだろう
でも二人一緒なら……LOVERS MEMORY FOEVER
ドッキリもお祝い計画も大成功。そして、オレはこんなどんちゃん騒ぎの中で、この世界の皆との絆を再確認できた気がする。
二人とも、末永くお幸せに……。




