尾行する時は目立たない服装で
次回から新章です!
あんまり長くないので、気軽に読んで下さい。
・紅葉狩りから戻って数日がたった頃、オレはこの世界で初めて、『娯楽』に金を使った。
ルッキーについていった先(と言ってもいつもの万事屋ミリオン)で、『週刊 グローアップ』なる漫画雑誌を見つけた。
この世界の子供たちは、ほとんどが、外に出て昭和っぽい遊びをしているが、一部の少数派(例えばルッキーとオレみたいなの)の中には、年中部屋に籠もり、ちょっと古めのテレビゲームに耽る者もいる。
科学技術の発展は、元の世界より少々遅れ気味だが、生活には困らない。だからこその暖か味や懐かしさを感じられ、オレ的には結構住みやすく感じている。
最も、前の世界で幾つまで往生した所で、ここまで快適に過ごせないのは目に見えているが。
「月に千ラッド払っていただけりゃ、毎号ロングライド家にお届けしやしょうか?」
「うおっ!」
いつの間にか、ミリオンさんがオレの真横に立っていた。例のごとく、気配も足音も立てず、にこやかに笑っている。
相変わらず、いろんな意味で謎の多い人だ。
「良いんですか!じゃあ、お願いします!」
オレは財布から千ラッド札を取り出し、その場でミリオンさんに手渡した。
「それじゃ、今週号はどうぞお持ち下せえ。来週号からお届けいたしやす。」
ニコッと笑うミリオンさんを見て、オレは少し驚いた。左目が青、これはロングライド家の皆や、鏡に映るオレやミキも同じだ。ところが、彼は両方ではなく、左目だけが青、右目がオレンジだったのだ。
「双色瞳……!」
「残念ながら、ちょいと違いやす。」
すこし呟いただけなのに、ミリオンさんは聞き取ったようだ。
「すいません!珍しいんで、つい……。」
「無理もありやせんが、コイツァあたしにとって、恥ずべき『呪い』の様なモンでねえ……どうか一つ、忘れて下せぇ。」
少々はてなマークが付いたが、ミリオンさんの穏やかながらも寂しそうな瞳を見て、オレはもう何も言えなかった。
最後に、ミリオンさんから謎の香水を受け取って店を出た。
なんでも、すぐ必要になるそうだ。
「本当に不思議だよな、あの人……。」
「ミリオンさん?今に始まったこっちゃないよ。ジョー兄貴には何か気さくだけど、本当は初見の客あんまり好きじゃないんだ。
なんで兄貴には、ああなのかね……。」
と、二人でウンウン唸っていると、すぐ近くによく知る人を見かけた。ロングライド家の主婦、ルシアナさんだ。
「お〜い!ルシアナさ……ムガギ!」
叫ぼうとしたオレの口は、突如ルッキーに押さえつけられた。
「モガ!ムギ!」
「バカ兄貴!せっかくの計画が危うくパーになるとこだった。」
路地裏に連れ込まれ、オレはようやく口を開いた。
「はぁ!死ぬかと思った……。んで、計画って?」
「もうすぐ、ウチの両親は結婚記念日なんだけど、この時期になるといつも母さんがどっかへ出かけるんだ。オレたち姉弟の長年
の謎、今年こそは確かめないと……。」
「お前なぁ、主婦とは言えルシアナさんだって『大人のオンナ』だよ?家庭の外に秘密が在ってもいんじゃね?」
「どんな?」
「どんなって……。」
(家事を終えた主婦は、町外れのさびれたアパートに向かう。昼間にしか会えない彼に、会う為に……みたいな昼ドラ有ったけど、まさか、ルシアナさんに、というかあの円満夫婦に限って……。)
「なんか今ものすごく『黒い』妄想してなかった!?」
「気のせいだよ。それにルッキー、オレたちのルシアナさんが、昼間からそんなワケの分からん事、まさかしねーだろ?」
そうだよな……うん、まさか……な。
「で、結局、後付けるんだ。」
「あそこまで色々議論しちゃったら気になるじゃんか。今さら本人に聞くのも恥ずかしいしさ……。」
それにしても、どこへ行く気だろう。
商店街を西側に抜ければあとは何もなくなってしまう あるのは電波塔とも違う奇妙な塔と、火消し組の屯所がある位だ。
ルッキーも何だか知らないらしい、青い塔。前から思ってたけど、何なんだろうアレ……。
「どこ行く気だろうな……。」
「いつもこの辺りで撒かれちゃうんだよなぁ。あともう、母さんの両親、片方のジーちゃんバーちゃんの墓位かな……。」
「じゃあ、墓参りとかじゃ……。」
「それが、墓地を探してもどこにもいないんだ。どこ行くんだろ。」
墓場へ続く一本道を、ルシアナさんはテンポよく歩く。そういえば、まるで追っ手を撒こうとしている様にも見える。
ガサッ!!
事もあろうに、ルッキーが小枝を踏んでしまった。
「あら?」
ルシアナさんが振り向くタッチの差で、オレたちは茂みに隠れた。
「……気のせいかしら?」
(あっぶねぇぇぇ……!)
息も切れ切れ、どうにかルシアナさんをマークし直す。歩いている途中、ルッキーがさっきよろず屋でおまけしてくれた香水を吹き始めた。
「兄貴も吹きな。何かの役に立つかも。」
オレも軽く体に吹き付け、妙な冷や汗を拭った。
墓地に着くと、ルシアナさんは受付で、赤いぶとうの花を二束と、線香を買い、英語で『ロングライド』と書かれている墓地の前にひざまずき、手を合わせた。
「ほら、やっぱりおじいちゃん達の墓参りだよ。」
「なぁんだ。5年も尾行してちっとも掴めなかったのに……。」
ルシアナさんは2秒間手を合わせおもむろに立ち上がると、ふぅ。と一息はき、まるで夕食の献立を発表するように言った。
「もういいわ。二人とも出てらっしゃい。」
「……!」
ルッキーの顔色が変わる。それは明らかにオレたちに向けての言葉だった。
観念して、苦笑いで茂みから出る。
「いつから気付いてたワケ?」
「愚問ねルッキー、 お墓についてからですでも今回はミリオン君の香水が聞いてて半信半疑だったわね。いずれにしても、ママを尾行しようだなんて100年早い!参ったか!」
「参りました。」
「同じく。」
オレが手を挙げ、ルッキーも悔しげに呟いた。
「宜しい!じゃ、お夕飯の買い物に行きましょうか。」
商店街で買い物をしながら、オレは1つ、気になることを思い出した。
「そういえば、なんで墓参りの事、内緒にしてたんすか?」
「え?別に……結婚記念日が近づくと、毎年お参りするけど、家族みんなではまた別に行くから、何も言わなかっただけよ?」
「何それ!色々勘ぐって、オレバカみたいじゃん!」
「そうね、あなたはバカよルッキー。」
「ムッかつく〜!」
騒がしくも微笑ましい親子げんかを見ながら、オレは一つ、違和感に気が付いた。
ルシアナさんが買った赤ぶどうの花束は二つ。ところが、おじいちゃん達の墓に供えられたのは一束。
あと一束は、どこに行ったのだろう……?
……ダメだな、最近細かい事が気になっちまう。
そう自分を納得させたせいか、オレは気付かなかった。
ルシアナさんの買い物かごの中に、もう一つ、赤ぶどうの花が入っていた事に……。
その次の日の朝八時。ぶどうの花束を携えて、私は、青い塔の裏手にある、『ある人』のお墓に向かった。
……危うく、『彼』の存在を息子たちに気付かれる所だった。
あの子達も、我が子ながら怖いくらい頭がいい。でも、彼の存在をあの子達に知らせるには、まだ時期が早い。
彼の事を話すと言うことは、同時に、あのあまりに悲惨な覇権戦争について話さなければならない。
まだ、あの子達に苦役を課す覚悟が、私には無い。
「それでも、今はまだ、世界は平和だわ。貴方のおかげね、Mr.志島……。」
一際大きな、六角形の墓の下に眠る彼に、私は感謝と、平和への願いを込めて祈った……。




