誰かのために動く奴は、泥まみれでもカッコいい
長編ってほど長編じゃありませんでしたが、これにて紅葉狩り編、終了です。
まさか三編で終わっちゃうとは。ホントはこうなるまでに、もっと色々あったんですが……。
書ききれなかった分は、いずれ小話にでも。
・翌朝、ベルはオレより先に起きた様だが、食堂ではやはりオレの顔を見ようとはしなかった。明日の朝帰るというのに、この険悪な雰囲気を放置するわけにはいかない。
なんとかベルに話しかけようと試みるが、そういう時に限ってルイスや美季が話しかけてくる。
そうこうしているうちに、あっという間に正午を回ってしまった。今日は夕食まで自由散策で、ベルは先程出掛けてしまった。恐らく当分戻らないだろう。
こんなムードのまま帰ったりして、ルシアナさんに何て言おう。
そんな不安を抱えながら、仕方なく荷造りしていると、心配そうなルイスが入ってきた。
「どうした?美季とデートは?」
「先輩の方こそどうしたんですか!?昨日の夜から、ベルちゃん様子がおかしいじゃないですか!」
「ちょっと……な?」
隠していても、心が痛むばかりだ。オレはルイスに、事を全て説明した。
「確かにベルちゃんワガママ言ったかもしれないですけど、先輩ソレ……どう考えてもやきもちっすよ。」
「え?」
「先輩、怒鳴ったはいいけど怒鳴りたくはなかったんでしょ?ベルちゃんも、友達とか関係なく先輩にかまって欲しかったんじゃ……。」
「でも、折角出来た友達んとこ割って入ったら、オレ邪魔じゃね?」
「その気遣いで、逆にベルちゃん不安になったとか……僕やミキといる方が、先輩は楽しいのかなって。ベルちゃん先輩にべったりだったし、寂しかったのかもしれません。」
「オレ、どうしたらいいかな……。」
「訴え続ける事っすかね。ウザがられても、聞く耳持たなくても、先輩がベルちゃんと仲直りすんなら、プライドとか全部捨てて、丸裸になんのが早いかなって……すいません、偉そうに。」
オレは立ち上がり、ルイスの頭をさすった。
「サンキューな、ルイス。大分参考になったよ。」
事件は、オレが早めに風呂を上がり、食堂で夕食を待っていた時に起こった。
ベルと散策に出かけていた子達が、青い顔をして戻ってきた。よく見れば、一緒に出掛けたハズのベルがいない。
「何かございましたか!?」
宿の主人が駆けつけると、二人の少女は泣き崩れた。オレは、イヤな予感を覚えた。
「山の中で、ベルちゃんとはぐれちゃって……。」
「えぇ!?」
「急にちょっと一人で歩きたいって……だけど、どんなに待っても来なくて……それで!」
「お嬢ちゃん、ベルと別れたのはどの辺りだい?」
「昨日バーベキューしたところ……。」
オレは少女に礼を言い、玄関へ出た。雨具と長靴を身に着け外に出ようとすると、当然ながら主人と参加した大人たちに止められた。
「止しなさい君!直に大雨が降る!」
「夜には獣も出るし、危険だわ!」
他にもウダウダ言ってくる人達を振りほどき、オレは外へ出た。
「二時間経って戻らなかったら、火消し組を呼んで下さい!今、山は危ない。だからこそ、ベルを一人にはしておけないでしょう!」
天気予報は確かに、五時からの降水確率80%を予報していた。見通しも悪く、獣も出るだろう。
だが、オレの知ったことではない。だからこそ、ベルを探しに飛び出さない理由など、どこにも見当たらなかった。
雨の中、暗い山中に独り、ベルが泣いているかと思うと気が気でなかったのだ。
「ベル!どこだ!ベル!」
畜生!どこ行っちまったんだ?アレが最後の会話だなんて、シャレんなんねえぞ!?
「ベル!ベル!」
昨日バーベキューをしたキャンプ場からも、ペンションからも大分離れた。
「ベル~~!!どこだ~~~!!」
ハイキングコースとはいえ、山は結構広い。下手にウロウロすれば、右も左も分からなくなる。
やがて、雨が降り出した。日が短くなり、日はとっぷり暮れ、寒さが体にこたえるだろう。
(ベル……寒いよな。待ってろ、オレ、もう少しで行くから。)
寒い。暗い。さっきから、どこかの木に居るフクロウの鳴き声が、ずっとこだましている。
とっても、怖い。
「弱気になってちゃダメ私!帰らなきゃ、帰って、ジョー兄ちゃんに謝らなきゃ。」
頬を叩いて、無理に立ち上がる。その時、足がガタガタ震えているのに初めて気付いた。
一歩歩こうとすると、前に思い切り転んでしまった。
「いった〜い!!」
ただ転んだだけなのに、それだけで涙が出て来る。
疲れと、寒さと、不安と、恐怖と……色々重なって、再び座り込んでしまった。
ジョー兄ちゃんにワガママ言って困らせたから、神様が怒ってるに違いない。
あのお兄ちゃんが怒ってる所見たのなんて、昨日が初めてだ。
私は、あんな事言いたかった訳じゃない。もっと私を見て欲しかった。私に気兼ねしないで欲しかっただけなのに、なんであんな事言ってしまったんだろう。
(神様……反省するし、なんでもするから、せめてもう一度だけ、ジョー兄ちゃんに会わせて下さい……!)
ゴロゴロ!ドカーン!
遠くで雷が鳴った。思わず膝に顔をうずめると、頭上から、大好きな人の声がした。
「ここにいたか……。」
「!?」
会いたくて、会いたくてしょうがなかったジョーお兄ちゃんが、心配そうな顔で私を見下ろしていた。
自然と、我慢していた涙が溢れだした。
「どうして?私、酷いこと散々言ったし、困らせて、傷つけたのに……。」
「バカだな。どんだけケンカしたってさ……オレ、ベルの事大好きだからに決まってんじゃん。」
透き通って、淀みない声。もう怒ってないと分かる、いつもの優しいジョー兄ちゃんが、そこにいる。
私は、もう無我夢中で飛びついた。
「ジョー兄ちゃぁぁぁぁぁぁん!」
「うぉっ!おいどうした……急に甘えて……。」
「ごめんなさぁぁぁい!ミキ先輩にヤキモチ焼いて、ひどいこと言ってごめんなさぁぁぁい!」
「あ〜よしよし、もう怒ってねーから。良かった〜、ケガとかなくて本当に……。」
ジョー兄ちゃんの腕の中で、もう本当に、泣くだけ泣いた。
良かった、ここに戻れて、本当に良かった……。
「さ!帰るか……。」
「……うん。」
帰りは背中にベルを背負い、ペンションに戻った。
大人たちは、泥まみれのオレを見てひどく驚いていたが、ベルが無事なのを見ると、ひとまず安心していた。
なんでも、今しがた火消し組を呼ぼうとしていたらしい。
今回の旅行は色々あったけど、なんだかんだ言って楽しかった。
これもベルのおかげかな。ベルと一緒にいると、新しい発見が沢山ある。それは、何も自分の事ばっかりじゃないんだと、今回また学べた気がする。
「……ありがとな。」
すうすう寝息を立てるベルの頭を撫でてから、昨日よりぐっすりと眠ることができた……。




