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転生ですか?ではどうぞ、ネズミの国へ  作者: 芭蕉桜の助
3ad event 秋の嵐と新しい家族
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のれんの色だけで男湯、女湯は判断できない

・くるみ町内会主催の紅葉狩りに参加したオレは、早速波乱を感じていた。


周囲を見れば、どの参加者もくせ者らしさが半端じゃない。


町内会長の挨拶も、まるで耳に入らなかった。


「では、この後部屋に戻っていただき、散歩の準備が出来たら玄関にお集まり下さい。」


渡されたカギは3号室。なんとベルと相部屋だ。


「あの〜……男女分かれてないんスか?」


「申し訳ない。部屋割の都合上、家族ごとという事で……。」


言われてみれば、周りは皆親子の様だ。そういえば、こういう特殊な組み合わせは、ウチとルイスたち位のモンなんだ。


仕方なく部屋にはいると、さらに唖然とした。


キングサイズベッドに枕が二つ。どう頑張っても、俗にいう添い寝の形になってしまう。


「ベル……オレ、部屋変えて貰うよ。さすがにヤダもんな。」


ベルは、驚いてこそいたが、若干目を逸らしながらも、意外な返事をした。


「私は……別に、イヤじゃないよ?」


「え!?イヤ……でも……。」


「ほ、ほら。ジョー兄ちゃん紳士だし、なんだかんだで頼りになるから。私、旅先でよく寝付けないから、安心するって言うか……。」


マジか!?今時の女の子ってそんなおおらかなのか!?幾ら何でもサバサバしすぎって言うか……。


そういえば……。


最近うやむやになってたけど……ベルはオレのこと、どう思ってんだろう……。いや、やっぱりお兄ちゃんなんだろう。

でなきゃ、この年で一緒に寝るとか無理だよ普通……。


でも、じゃあ、あの時の(・・・・)は……?


『私の彼氏!』 『冗談じゃなかったら、怒らない?』


ドレイクさんの農園で、ベルが冗談めかして言った言葉が、未だに心に突き刺さっている


少なくともあの時、ベルの目自体はふざけていなかった。


もしあれが、本気だったとしたら……。


そうだったら、オレはどうするんだろう?


「ジョー兄ちゃん?どうしたの?」


「あぁいや、何でもねーよ……。」


考えていても仕方がない。ひとまず、この旅行で、出来るだけベルを知る事にしよう。

それがどんな結果でも、どんな事態につながるとしても、オレは、自分の思うまま、正直に受け止めよう。











天候はやや曇り気味だったが、どこの国も、紅葉は風情がある。


『紅葉狩り』の狩りには、愛でるの意味があると聞くが、山は一面彩られ、愛でるには十二分だ。


主催者や他の参加者とはぐれない様に気を付けながら歩く。気が付くと、ベルがオレの手を握っていた。

表情は硬く、まるで固定したように、まっすぐ前を向いたまま動かない。

そういや、友達来れなくて心細かったんだもんな。緊張しても仕方ねーか……。


「大丈夫、皆良い人そうだったろ?」


ベルは黙って頷いた。これが功を奏した様で、頂上でバーベキューをする頃には、一つ下の女の子と並んで食事を摂っていた。

ベルなりに頑張ったと思うし、冗談抜きで褒めてやりたかった。


ひとまず安心して肉をつついていたら、ひどくおどおどしたルイスが話しかけてきた。


「先輩、どうしましょう!会話が……会話が弾まない!」


「エスコートすんじゃなかったのか?」


「そうですけど!ミキを前にすると、彼女の可愛さでつい、心臓がバクバクと……!『脱・のれん男子』を掲げてこのザマですよ……。」


「ま、分からんでもねえけど。別にのれんでもいーんじゃん?ミキはさ、お前のそういう面も嫌いではねぇと思うよ?」


ルイスの想像以上の純情さに、思わず苦笑いしてしまった。コイツもなかなかに、難儀な奴だねえ……。















宿に戻ってからは、五時からの風呂開放、六時からの夕食まで自由時間だった。


部屋に戻ってからオレは、ベッドの左端にごろりと寝転んだ。


そのまますっかり眠りこけ、起きたらもう五時半だった。


「やっべぇ、飯まで30分じゃねーか。先に風呂入るか……。」


一階の露天風呂前には、フルーツ牛乳やコーヒー牛乳が、 少し大きめな冷蔵庫の中に所狭しと並んでいた。


オレが元いた世界では、風呂屋に行ってもあゆレトロな景色は見られなかったので、なんだか懐かしいような、新鮮なような気がした。


(上がったら、一杯飲んでみるかな。)


そう言ってオレは、迷うことなく青いのれん(・・・・・)の風呂場に入った。

のれんに書かれた『WOMEN』の文字に気づく事なく……。


「キャアアアアア!」


裸のタオル一枚、今まさに風呂に入ろうとしていたベルの飛び膝蹴りを喰らい、弁解や言い訳するヒマも、まして悲鳴を上げるヒマもなく、鼻血を噴いたままで風呂場から吹っ飛ばされた。




目が覚めたとき、ペンションの主人がうちわを仰いでくれていた。

体を起こすより前に、オレは主人に尋ねた。


「なんで……女湯ののれん、青なんスか……!?」


「すいませんね〜、ウチちょっと特殊で……じいさんの代に発注したのれんが書き間違えで……。」


「あぁ、そうなん……スね……。」


じゃあさっさと付け替えろよ……。


そんな風に主人にツッコミ入れる気力さえ、今のオレには残っていなかった……。









食堂では、既に参加者のほとんど(つーかオレ以外全員)が食事を始めていた。


栗ご飯にかぼちゃのポタージュスープ、焼サンマにトマトのサラダ、牛肉のしぐれ煮と、かなり豪華だ。


中央に盛られたキノコ類は、網で焼いて食べるらしい。


ベルの向かい席に座ったが、あくまでオレの顔を見ない様にそっぽを向いている。

まぁ、それもしかたねーか。添い寝もギリギリ、ましてほぼ裸を見られたとあっちゃ、さすがにキレるよな……。


仕方なくルイスと美季の隣に座らせてもらったが、なぜかさらにベルの怒りを煽ってしまった様で、ベルはすごい形相で美季を睨んでいた。

栗ご飯も、焼サンマも、網焼きキノコも、その晩は何一つ、味がわからなかった。


(あ〜あ、やっちまった。)







結局、消灯時間まで、オレとベルは一言も会話を交さなかった。


「あのさ、ベル……ごめんな、さっきは。」


返事はない。そうだろうとは思っていたが、普段が普段だけにやはり精神的にキツイものがある。


「別に……見られちゃった(・・・・・・・)事は、怒ってないもん。」


「え?」


「お兄ちゃん、私といるよりミキ先輩たちといた方が楽しいんでしょ?」


「いや別に……。」


「いいよ、気を使わなくて。学校でも、ミキ先輩に会った時と、私に会った時じゃ、リアクション違うじゃん。」


「いや、それはさ……。」


「それは仕方ないと思うけど、ならせめて言って欲しかった。私と二人で旅行なんかつまんないって。」


「ベル、違うよ、オレはさ……。」


珍しく、自分が焦っているのが分かる。ベルが言ってることは、間違いじゃない。でも正解でもない。


ベルといてつまらないなんて、オレは微塵も思っちゃいない。


「私が巻き込んだんだし、もう先帰ってもいいよ。」


「違うって!オレは……。」


うまく伝わらない迷いと焦り、そして不安は、やがて苛立ちに変わっていく。


クソ!どういえば分かってくれる!?違う、違う、違う違う違う違う……。


「良いじゃん別に。私ミキ先輩と違って可愛くないし、困らせるし、もうどうでも……。」


「いい加減にしろ!お前がオレの何を知ってんだよ!何も知らねえのに、勝手ばっか言うな!」


気が付くと、オレは初めてベルに怒鳴っていた。


数秒の沈黙。そして気づいた。


これも、違う。


オレが言いたかったのは、こんな事じゃない。伝えたかった事は、これじゃない。


「……ごめん。ちょっと外出てくる。」


相変わらず背を向けたままのベルを残し、オレは部屋を出た。シトシトと小雨が降りだしても、オレは屋根には入らなかった。


(なぁ、雨よ。どうせ降るならもっと盛大に、オレの心も洗い流しちゃくれねえか?)


願いも空しく、雨は止まず、強まらず。代わりにオレの目から、しょぱい雨が降ってきた。


まったく、お天道様に、神や仏ってのがいるなら、なんでオレには意地悪なんだ。


畜生、なんで、何もかも上手くいかねえんだ……!


オレの目の雨と天からの雨、両方が治まったのは、日付が変わってまもなくだった……。


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