苦手な食い物への恐怖は舌で除去させろ
・本日から、ロングライド家の食卓には、6つ目の椅子が置かれている。昨夜のハロウィンフェスティバルで出会った少年、クリスの席だ。
彼は、オレと初めて会った時よりよく喋り、感情も表情も豊かになった。ロングライド家の皆とも打ち解けている様で、ひとまず安心している。
「ごちそうさまでした。」
「おう。じゃあオレが食器洗うから、流しに出しといてくれ。」
クリスは、コクリと頭を下げ、食器一式を運んだ。
始末が悪かったのは、ベルの方だった。
皿に残したプチトマトとにらめっこする事約5分。当の本人は、もはや半泣き寸前だ。
「ベル。オレが食うから、無理しなくて良いよ。」
「ダメよジョー君。この子のお皿に盛られたものは、この子が食べなくちゃ。」
いつになくスパルタなルシアナさん、それもそのハズ、大胆にも、ハロウィンフェスティバルの最中、ベルは苦手克服宣言していたのだ。
「母さんの言う通り。姉貴は生まれてこのかた、トマトの類が食べられなくてね……華の中1だよ?恥ずかしくないの?」
「うるさいな〜ルッキー〜!食べれない人の気持ちが食べれる人に分かるの!?」
「なんでトマトが食えないのか、私めには分かりません姉上。」
「でも、ボクもセロリ食べられないなぁ……。」
弁護したのはクリス一人だ。
「悔しいよ〜!ジョー兄ちゃ〜ん!」
泣き喚き、オレの膝にすがりつくベル。こういう所も、可愛い。
……じゃなくて!コイツはかなり手こずるぞ!どーしよっかな。
「じゃあルシアナさん、こういうのはどうでしょう。このトマトはオレが貰います。」
「本当!?」
「た・だ・し!ベルにはオレのトマト克服メニューをクリアして貰う!……で、良いっすかね?ルシアナさん。」
「面白そう!許可します!」
ニコッと笑って手を合わせるルシアナさん。あぁ、こりゃ相当乗り気だな……。
克服メニュー作りは、その日の昼食分からだった。
ベルが苦手とするのは、エグい酸味。それをかき消せば、食えるハズ……克服メニューの肝、『レベル1は好きなものから』、ベルの好きなチャーハンに、湯剥きして刻んだトマトを混ぜてみる。
チャーシューを少し大きめに刻み、マー油と味覇の味付けは濃く、間違ってもトマトを際立たせない事……と。
「うわ!コレ本当にトマト入ってる!?美味しっ!!」
まずはクリア。続いておかず。
トマトの液状の果実が苦手な子用の秘密兵器、中をくり抜き、円柱小型ハンバーグを詰めた、ピーマンならぬトマトの肉詰め。
皮の部分はオリーブで炒め、えぐみを抑える。ソースはデミグラスで攻めてみよう……。
「とてもボリュームある。ジョーさんスゴイです。」
クリスにも好評か……ヤバイな克服メニュー、クセになりそう……!
締めにデザート二つ。一つは夕食までお預けかな。
糖度の高いトマトをミキサーで刻み、シロップを少々、ゼラチンを加えて、冷蔵庫で冷やせば出来上がり。
「ゼリー甘〜い!エグくも酸っぱくもな〜い!」
「本当。今日のお昼ごはん全部ジョー君に任せちゃったし、ベルもすっかり苦手克服したみたいだし……。」
「うん!トマトって、こんなに美味しかったんだ。」
「そいつァ何より。んじゃベル、最終試験。」
「ほえ……?」
オレはテーブルの上に、大きめの魔法瓶を置いた。
中身は、 果汁100%、砂糖ゼロのトマトジュースだ。
コップに注ぐが、以前と違い、ベルは堂々としている。
「飲んでみ。」
「克服メニューをクリアしたもの、怖いものなんか……。」
一気に飲み干すベル。だが直後、顔を青くした。
「ブゥゥゥゥウッ!」
まるで噴水の様に、飲んだトマトジュースを一気に口から噴き出した。
「オェェエ!ゲホゲホ!」
作者イチオシのヒロインらしからぬリアクション。こりゃ作者は文字打ちながら泣いてんなきっと。
「やっぱ無理か、 トマトを克服しようとする子供が最初に当たる試練なんだよ、トマトジュース……。」
「ごべん……ジョー兄ぢゃん!やっば無理……!」
「泣くな泣くな、頑張ったよお前……一度仕掛け料理送ったぐらいで食わず嫌いが克服できりゃ、苦労はねェ。ゆっくり克服してけばいいから。」
「だらしねー。兄貴のご配慮も虚しくか……。」
「これルッキー!お姉ちゃんなりに頑張ってたのよ?そんな言い方しないの!」
「こりゃ失敬……。」
結局、たった一日ではトマト克服は叶わなかった。だが、 翌日からベルは、何時間かかってでも皿に盛られたトマトをどうにか食べるようになった。
身内だから甘くしているわけではなく、これは成長だと思う。
本人にも言ったがオレとしてはゆっくりじっくり克服していけばいいし、克服するまでの道筋をオレも一緒にいた取りたい。
なんて、ちょっとかっこつけてみた、食欲の秋でした。
皆も、 好き嫌いなくもりもり食べよう(あれ?皆って?)




