高い塔ほど安定しない
・一斉に畳み掛ける不良グループ『デッドナイト』の兵隊たち、この倉庫にいる総勢50名を相手に、オレとイザとルッキーは、これ以上ないほど敢闘していた。
三人皆、各々の武器を全力で振り回し、一瞬の隙も見せずに前へ突き進む。
目指すはただ一つ。奥に鎮座する副団長、リディアの真横、鎖で吊り下げられた美季のみ……!
「なぁにしてんだテメェらぁぁ!たかだか三人相手に!」
「副団長!コイツらマジ強え!ただの中坊じゃねぇ!」
自分たちのどこにこんな力が隠されていたのか、何がここまで自分たちを突き動かすのか、問われれば答えるのは難しいだろう。そこに理由などないのだから。
失いたくないものを、たったの二つ取り返す。
今三人が戦う理由は、ただそれだけで十分だった。
「動くなロングライドォ!」
叫び声のする方を見て、オレは唖然とした。
先日のカツアゲのリーダー格、ジョニー・ウィルソンがルイスを人質にとっていた。
首元にナイフを突きつけられているルイスは、すでにボロボロで 全身傷だらけ。気を失っているようだ。
「それ以上動いたら……コイツ殺すぞ!」
「なるほど、金払えば二人とも解放するなんて、信じなくて良かったよ。」
「つーかルイス……なんであんなボコボコに……!?」
ルイスを人質に取るジョニーを見て、副団長のリディアが叫んだ。
「でかしたジョニー!……いやぁ、オレは金払えば解放するつもりだったよ?だがこの坊ちゃんは、オレたちに払う金なんかないって怒っちゃってさぁ……しかたねーから大人しくして貰ったのよ……ククク……!」
「カツアゲおにーさんも大概だけど、副団長、アンタ……腐ってんね。」
「ひでえ……なんてことを!」
ルッキーとイザが呆れ帰るように言った。 だが、オレの視線は別の方向を向いていた。
気絶しているルイスの両目の下に、明らかな涙の跡がある。
「しかしこの坊ちゃんも頑張ってたよ。何度も命乞いするチャンスをやったのに、『僕は間違っていない』『ミキを返せ〜!』って、鼻水まみれで喚いてやがった……!」
「アハハハ……みっともねえ……鼻水まみれだぜ!?大の男が!」
だからか。泣いてたのは。
この人数を相手に、武器も持たず、言葉で勝負しようとしていたのだ。こともあろうに自分ではなく、たった一人の、愛する女のために……。
どれだけ恐ろしかっただろう。どれだけ悔しかっただろう。
それでも、ルイスは逃げなかったのだ。
どれだけ痛い目にあわされても、決して一人で逃げようとはしなかった。
だが今オレの前に広がる景色はどうだ?あいつは報われたのか?
死に目にあってもボロボロになっても頑張って、ミキを救おうとしていたあいつの思いは果たされたのか?
否、断じて否。
オレの目の前にいるのは ゲスな高笑いを浮かべる不良どもと、それに与する卑怯なカツアゲ犯だけだ。
オレは、一人で全てを背負いこもうとしていたルイスの思いに、気づいてやれなかった。そんなことで、いま自分を責めていても仕方がない。
ならせめて、可愛い後輩のためにしてやれることは何だろう。
大切な二人の男女の未来を閉ざす、悪党どもを、オレの手にあるこの木刀でたたっ斬る!
それはロングライド家の人間としてやっていいことなのか分からない。
だが、これは自分のためでもあった。はちきれんばかりの怒りを鎮めるために、一刻も早くこの気色の悪い高笑いを止める。
そのために……!
そのために……!!
オレは、オレたちはこいつを許さない!
己の過ぎた力ゆえに押さえ込んでいた、『怒り』という名の火山が爆発する音が、はっきりと聞こえた。
「離せよ……その手……。」
「はぁあ!?聞こえねぇよ!?」
「その汚え手……離せっつってんだぁぁぁあ!」
気が付くと俺は 自分を取り囲んでいた不良どもを蹴散らし、前方にいた、ルイスの首根っこを掴み、ナイフを向けているジョニーの頬のすぐ真横に剣を突き立てた。
刃はジョニーの頬をかすめ、頬に切り傷を作り微量の血が出た。
壁には 大穴が開き ジョニーの顔色は真っ青になった。
「動くなっつったろ!オイジョニー!今すぐ殺せ!もうソイツ要らねえ!」
「え……!?え……!?でも……!?」
「早く殺せ!オレの言う事が聞けねーのか!」
オレは愕然としたと言うか、目の前に居る小悪党にほとほと呆れてしまった。
人一人殺す覚悟もないクセに、マフィアの子分気取りになって、優越感に浸り、自分より弱いものを傷つける。
なんて愚かで、なんて哀れなんだろう。
コイツはルイスを虫けらか何かだと思ってたろうが、オレにしてみれば、コイツの方こそ同情するほど弱っちい虫けらだ。
「もういい!あの人に売れるかと思ったが仕方ねぇ!女の方から始末する。」
「っ……!」
しまった!ルイスに夢中で、ミキを確保し損ねていた!
奪い取る様にルイスを確保し、無我夢中で走り、もう何を叫んだか分からないまま、ミキの元へ急いだ。他の二人も、多分そんな感じだったと思う。
オレたちの疾走も虚しく、ミキの首元に刃が当たる……その瞬間……。
ドォン!
銃声と共に、リディアの肩に穴が空いた。穴からは血が出、彼は低く唸ってその場に倒れた。
「おイタはイケやせんねェ、大将……ココは子供がドンバチする所じゃありやせんぜ?」
入り口を見たリディアと不良たち、そしてオレたち三人は、悠然と扉にもたれかかり、長銃を構えた人物の名を呼んだ。
「「「ミリオン!!!」」」
そう、この倉庫の持ち主にして、よろず屋の店主、ミリオンさんが立っていた。
「アンタらがとっ捕まえてる皆さんは、ウチのお得意さんでさぁ……早いとこ解放しなせぇ。でなきゃ……法的手段、取らせて貰いますぜ?」
「な……何を……!」
「怖いんで?副団長さん。じゃあ二度とあたしの倉庫に、汚え秘密基地構えねぇでくだせえ。」
「くっ……!テメェら、撤退だ!覚えとけミリオン!」
肩を押さえながら立ち上がるミリオンに続き、団員たちは一目散に逃げ出す。
「覚えとけ?副団長さん、勘違いされちゃ困りまさぁ。あたしゃ次はねぇぞと申したつもりですが?」
「……!」
ガランとなった倉庫に、疲れ切った一同の、荒い息づかいがこだまする。
鎖からミキを下ろし、ミリオンさんが二人を肩に担いでくれた。
「皆さん方、おかげ様で連中にお灸を据えられやした。さっ、参りやしょう。お家の皆々様がお待ちでさぁ……。」
疲れ、耐えしのいだ一日だった。だからなのか、家路に着くまでの間、オレは清々しく、自分をめいっぱい誇りたかった……。




