うっとうしい見舞い客もいなくなると寂しい
新ヒロイン参戦を歌いながらちっとも出てこねーじゃねーかこの野郎!って思ってるそこのあなた大丈夫、でます!もう少し待ってください……。
・マックス中央病院の院長先生は、第一印象がネズミよりトドだった。
「そんじゃあれかい?兄ちゃん、階段からころがり落ちたってかい?災難だったなそいつァ……。」
文末にアクセントのつく、ミリオンさんより独特の喋り方で、院長は笑いながら言った。
このジジイ、他人事だと思って……!
目の前にいるのが医師でなければ、胸ぐら掴んで殴りかかっていたところだ。
「まぁ、三週間の入院だな。安静にしとけ、ロングライド家の知り合いってぇなら、安くしとくよ……。」
トド医者、ブラウン・マックス先生の話では俺は尾てい骨にヒビを入れちまったらしい。
おかげでベッドに寝転んだら起き上がれもしない。
「ここにナースコールがあります。ご飯は日に三回お運びしますから、ご安静になさって下さい。」
ネズミのナースは事務的に言った。向かいにも誰か入院中の様だが、二人部屋でも別段気にならない。
何にしても、転生して一年も経たないうちに入院だなんて、ついてないもいいところだ。
「……起き上がれないのは、辛いですよね。」
向かいのベッドのカーテンの向こうから、透き通った少女の声がした。どこかで聞いた声だが、何処だったか思い出せない。
起き上がれもせず、壁と天井しか見られない。
そんな数分間に嫌気がさしたのもあり、いつになくアットホームに、顔も見ていない初対面の少女と話を始めてしまった。
「全くだよ。いま世話になってる家に来て、ひと月も経ってないのに、迷惑かけちゃったし、心配かけちゃったし……もう散々。」
「奇遇ですね!私も昔実家を出て、今この街でお世話になっているんです!」
「うぉ〜!何だろうこのマッチング!」
そうこう話している内に、年配の看護主任らしきネズミのナースがやってきた。
どうやら彼女に面会がいるらしく、彼女をロビーに移動させるらしい。
「ごめんなさい。続きはまた今度……。」
「おう。ゆっくりな。」
彼女を見送ってから、病室は一気に静かになった。
どデーンと大の字寝に移る。寝返りは尻の骨に響くから、止めとけとトド……もといマックス先生に言われたっけ。
「ジョォォォォォォォお兄ちゃァァァァァァァァァァァァん!」
どこかで聞いたことのある声がした。
滝のような涙と、キャンプにでも行くようなデカいリュックサックを携えて、ベルが病室に駆け込んで来た。
廊下のナースに短く叱られていたが、当の本人の耳には入っていない。
「お、おうベル。わざわざわりーな……。」
「そんな事より、大丈夫なの!?落ちたって!?階段からころがり落ちたってぇぇぇぇぇぇ!?」
これほど母音を伸ばしテンション高くしゃべる少女に、オレはこれまで会ったことがない
「大丈夫大丈夫。まだ起き上がれないけど、骨は元に戻るからよ……。」
「……本当に!?」
必死こいてオレにすがりつくベル。本人には悪いが、こうしてみるといろんな意味で可愛い。
「本当に。心配かけたな……。」
ベルの頭を優しく撫でた。落ち着いたようで、ゆっくりとベッドから降りた。
と、思いきやカバンからブルーシートを取り出し、床にしき始めた。
「ちょっ……ベル!?何を……!?」
「うん。ジョーお兄ちゃん退院するまで、私も一緒にいようかと思って……。」
「駄目ェェェェェェ!ナースに怒られるって!てかお前……何入ってんのそのリュックサック!中身見るのが怖えんだけど!」
「うん。ミリオン店長からお見舞い。」
「その質量って事は……かなりデカい?」
答える事なく、ベルはリュックから4冊の本を取り出した。
いかにも頭の固い秀才が読みそうな分厚い本だった。
『WORLD DICTIONARY』、『MAGIC ITEM』、『TIME & SKY』
『Fountain of life』。表紙だけでは、何の本だか検討もつかない。
「起き上がれないんじゃ、ヒマだろうからって……店長さん、案外優しいんだね。」
何かの思わくを感じたが、 あえてベルにツッコミはしなかった。
「じゃ、リンゴ剥いてくね。」
思った以上に、綺麗にうさぎりんごを切り上げ、渋々(ものすごく渋々)ベルは帰っていった。
いくらブラコンとはいっても、華の中学1年生があそこまで年上の男に固執するものだろうか。普通逆じゃねぇのか?
あいつ、死んだマイケルさんにもそうだったのかな……。
とは言え、あそこまで派手に励まして(騒いで?)くれた奴が急に帰っちまうと、当然のように病室も急に静かになり、どうしても寂しさの波が押し寄せてきた。
「邪魔するよ……。」
前言撤回。 間髪入れずにルッキーが見舞いに来てくれた。
部活帰りらしく、ユニフォーム姿で顔は泥だらけだ。
「今いじけた顔の姉貴とすれ違ったけど、見舞いに来てたんだ?」
「あいつが一番だよ。めっちゃ渋々帰ってった……それよりお前、部活で疲れてんのに悪いな。」
「ま、半分オレのせいだし……このうさぎりんご、一個貰っていい?」
二人でうさぎりんごを分け合いながら、 ルッキーは一つ気になることを言った。
「兄貴さぁ、姉貴に変な事されてないよね?」
「変な事って……?」
「ここ数日で気づいたかもだけど……姉貴のブラコンは世間一般のそれを逸脱してる……マイケルの兄貴がちょっと死ぬ前、あの人のファーストキス奪ったからね……。」
世間のソレから逸脱したブラコンぶりというのは、薄々感づいていたが、まさかそこまでやるとは……少々驚き、思わず絶句してしまった。
「兄貴は怒ってなかったけど、正直、あの人の執念深さにある種感服したね。 アンタも寝首、もとい寝唇奪われないように、気をつけなよ?」
ルッキーのしゃべり方には少し警戒を感じたが、不思議とベルに対しての嫌悪感など微塵も開かなかった。
なぜだろう?オレには純潔もクソもなかったのだろうか?
いや、なんとなくそうじゃない気がする。何なんだろう?この感覚は……。
果たして自分の中の疑問との戦いなのか、それとも脳内のルッキーがずっと放ち続ける、警告の言葉との戦いなのか、少なくとも俺は、何かしらと戦い続け、その晩もまた、眠れなかった……。




