自作キャラクターのフィギュア化狙いたいんだったら、ヒロインは最低二人必要
・オレは、新宿のアパートにいた。
オレはちゃぶ台で新聞を読みふけり、嫁さんが晩飯を運んでくるのを待ちわびる。
「あなた〜、ご飯にしましょう。」
「お〜う。」
オレは上の空な返事をしつつ、ちゃぶ台に運ばれる飯と嫁さんに向けて両手を合わせる。
「いただきます!」
「召し上がれ!」
肉じゃが、味噌汁、サラダ……。どれも美味い。
結婚して5年。料理も家事炊事も良く出来る、最高の女性が、まさかオレなんかの所に……。
「美味しい?」
「うん!お前と一緒になれて、オレホント幸せだよ……。」
「もう……オーバーなんだから。」
「大好きだよ……美季。」
「ジョーお兄ちゃん!だぁれ!?ミキって……。」
「んぁ……?」
夢か……。
起こしに来たベルの声で、俺は目を覚ましてしまった。重たい体を起こすと、ベルはいきなり飛び付いて来た。
「ねぇ!だぁれ、ミキって!」
「ん?オレそんな事言ってた?」
「言ってたよ。ちゃんと聞いてたもん。」
全く覚えがない。夢ってのは、時に深酒より恐ろしいモンだ……。
深酒、した事ないんだけど……。
転生してこの世界に来て、約1週間。ようやくこの家と、この世界にも慣れてきた。もとの世界に、未練など欠片もないが、こうしてこの世界に馴染んでいる時、たった一人、元の世界の懐かしい人を思い出す。
大道美季。オレのじいさまの古い友達の孫娘。
向こうも旧家だが、オレと同じく周囲からのプレッシャーを疎ましく思っていた。
そんなオレたちが、じいさん同士の約束で結婚するハズだった事を知ったのは、彼女が交通事故で亡くなったすぐ後だった。
彼女に想いが有ったかといえば、正直微妙だが、同じ立場で同じ思いをした彼女を放っておけなかった。
彼女はオレにない優しさを持ち、オレにない才能が有った。
オレなんかより、余程この世界に生まれ変わるべきだっただろうに……。
だからだろうか。ガラにもなくあんな夢を見たのは……。
「それでね、コンバットベーカリーのトーマスおじさんから、もう死ぬほどお礼言われて……ジョー君、大丈夫?」
ルシアナさんに声を掛けられて、オレは我に返った。
なんと、箸で掴んだ唐揚げを鼻に突っ込んでいたのだ。
「うわ!すいません、大丈夫、大丈夫ッス!」
「鼻で唐揚げ食おうとする人間を、大丈夫とは言えないんじゃないの……?」
ルッキーからご最もなツッコミが飛んだ。ルシアナさん夫婦は、オレの顔をまじまじと見ている。
オレは、笑ってごまかすしかなかった。
にしても、今朝からのオレは何かがおかしい。力が出ないというか、ぼーっとしていると言うか、五月病にかかった時ってこんな感じだよな……。
完全に、時期外れだけど……。
自覚はあるのに、どうしてもやる気が出ない。
何でだろう。
とまぁ、色々考えながら、二階に洗濯物を運ぶ途中、ルッキーに声を掛けられた。
「ジョー兄貴、朝からおかしいけど、何かあったの?」
「いやぁ……何でもねーよ。」
「ほんとに?姉貴が、『ジョー兄貴が女の夢見てた』って騒いでたけど……?」
鋭い。そして用意周到だ。先にベルに聞いてからオレんとこ来るとは……。
「本当だよ。大丈夫。オレの事は心配しないで良……。」
なぜ自分の言葉が途切れたのか、分かったのは次の瞬間だった。
ツルリと足が滑り、オレは階段を踏み外していた。そのままグルリと一回転し、階段から転げ落ちた。
尻と頭に稲妻のような痛みが走り、意識が徐々に沈んで行く。
落とした洗濯物が、ほんの数秒宙を舞う光景と、階段を降り、血相変えたルッキーがオレに駆け寄る光景。その直後、オレの意識は完全に沈んだ……。