政吉とマサヨシ
俺は、この毎日が嫌になる。
そんな感情を抱いている小崎政吉。彼は、今年で15になる中学生だ。彼は学力が低く、ルックスも普通だ。
だが彼はいじめられていた。毎日のように。
彼の同級生は、いじめを楽しんでいた。いじめればいじめるほど、それが快感だったのだ。
政吉に味方はいない。親や先生に相談しても相手にしてくれない。
友達はいない。
持とうとも思わない。
一人で生きるしかない。だけど、周りは敵だらけ。 そんな政吉であったが、ある日、転機が訪れた。
その日は雨が降っていた。昼休みに政吉は、相談室に向かっていた。そこは職員室の隣にあって、彼をいじめる同級生もあまり寄りつかない所だ。なので政吉は、そこで昼休みを過ごしていた。
だがこの日だけは違っていた。
中に隣のクラスの市川美恵がいたのだ。一瞬、戸惑う政吉であったが、彼女は優しく話しかけくれた。
「何か用があるの?」
「あ、えーと・・・・・・」
政吉は女の子と話すのが苦手であった。それを見て彼女はこう言った。
「あなたもいじめられているんでしょ?」
当てずっぽで言ったのだろうか。それとも知ってて言ったのか。
「じゃあ君も?」
美恵は頷いた。
「そうか・・・・・・」
「お互いさまでしょ?」
まさか、彼女もいじめの被害者とは、思いもしなかった。
なぜなら、顔は童顔でスタイルがよく、長い髪型がきれいであったからだ。決していじめられているように見えなかったのだ。
そんな彼女が政吉に訪ねた。
「教室にいて楽しい?」
政吉は答える。
「いや、全然」
「じゃあ、何で教室にいるの?」
「それは・・・・・・」
「誰か、好きな子でもいるの?」
それを聞いて政吉は笑い出した。久し振りに彼は笑っていた。彼女も笑う。
2人は笑い合った。
その時から、2人の間に絆が出来た。
2人は毎日のように、昼休みに相談室で会話を交わした。
それが二週間続いたある日。
「美恵が好きだ」
相談室の中で政吉は彼女に告白した。最初は振られると思っていたが、彼女は笑顔を浮かべた。
「ありがとね」
そして美恵も政吉に告白した。2人は恋人関係となった。
2人は幸せであった。限られた時間と場所での付き合いであったが、2人にとって至福の一時だった。
しかし幸せな時間は長くは続かなかった。2人にいじめの魔の手が襲いかかったのだ。
2人が付き合っていると、学校中でうわさになったのだ。それを確かめに来る生徒が現れたため、相談室でもいじめられるようになった。
そのため美恵は自宅に引きこもるようになった。連絡も取れなくなった。
その数日後、美恵は自殺した。自宅のトイレで首を吊っていた。
政吉は悲しみに暮れていた。
彼女が死んでから5日が過ぎた。政吉のいじめはエスカレートしていくばかりだった。いつ自殺してもおかしくなかった。
この日もいじめを耐え、自宅に帰っていった。自宅のリビングに入ると、母が作った料理がラップに覆われている。彼の両親は共働きで、帰りが遅かった。彼はそのまま自分の部屋に入る。が、部屋の中の様子が違っていた。
それは中に男がいたからだ。男は政吉に背中を向け、床に座って漫画を読んでいた。
「お前、誰だよ!」
男は政吉の声を聞いて、立ち上がる。そしてゆっくりと政吉に振り向いた。
政吉は驚愕した。
「嘘だろ・・・・・・」
何と男の顔が政吉と同じだったのだ。体型も。ただ違うのは、政吉が学校の制服に対し、男は全身黒ずくめであった。
「よう、政吉」
声まで同じだった。
「何者?」
政吉が訊く。男は答えた。
「俺はマサヨシだ」
マサヨシと名乗った男は不気味に笑みを浮かべた。 政吉は動揺した。
一体、どうなっているんだ?
マサヨシが政吉を落ち着かせる。
「大丈夫だ。俺の話を聞いてくれたら納得するはずだ」
政吉は言葉が出なかった。マサヨシの話は続いた。「まあいい。俺のもとの姿は、人間には見せられないからな」
政吉はマサヨシの言葉に疑問を感じた。
「つまり、お前は人間ではないのか?」
「ああ、そうさ。俺は人間ではない。俺の姿は、自由自在に変えることができるんだ。お前が来るまでは女の子の姿だったぜ」
「あのさ、訊くけど、お前はなぜここにいるんだ?」 マサヨシは思いもよらない答えを言った。
「今から、お前の願い事を叶えさせてやろう」
政吉はそこでも驚いた。「嬉しくないのか?」
「本当に願いが叶うのか?」
マサヨシは頷いた。
果たして、本当なのか?「騙されたと思って俺に言えよ」
なら、俺の願いは一つ。「俺の願いは」
「あ、待て。死んだ人間を甦らせるのは不可能だ」
「え」
美恵には会えない。ならば、敵討ちだ。
「じゃあ、俺と美恵をいじめた奴全員を殺して欲しい」
「やっぱりな。それでいいのか?」
政吉は頷いた。
「よし、わかった。明日になれば、そいつら全員死んでいるからな。じゃあ、またな!」
そこで目が覚めた。
夢か・・・・・・。
政吉はパジャマから制服に着替えながらテレビをつける。
『昨夜、A県のC中学校に通う生徒たちが謎の死を遂げました』
「え」
C中学校は政吉が通っている学校だ。
あいつ、本当にやったのか。じゃあ、あれは夢ではない。
「やった」
彼は歓喜の声を上げる。「美恵、敵をとったよ」
だが、突然彼の目の前が真っ暗になった。
何だ?
自分の部屋が真っ暗な空間に変わっていた。
一体、ここはどこなんだ?
すると政吉の前にマサヨシが現れた。
「どこなんだ? ここは?」
「牢獄さ。お前の」
「牢獄だと? 何で?」
マサヨシは怒りを込めて言った。
「お前は、何人もの人間を殺すよう俺に要求した。よってお前は牢獄行きだ」
「お前一体何者なんだ?」「俺は裁判官だ。お前の」 マサヨシは政吉に真実を告げる。
「俺の役目は、お前のような人間にテストをさせて裁きをすることだ。俺はお前と同じような人間を探し出し、なんでも願いが叶うことを話す。そして、それを聞いた奴がどんな反応を示すかを調査をしていた。今までの調査だと、つまらない願い事をした者が多かったが、お前のように誰かを殺して欲しいという人間もいた。俺はそんな奴を裁いているんだ」
政吉の頭の中は混乱していた。
マサヨシはさらに衝撃的な事実を言った。
「実はお前は死んでいるんだ」
「なんだと?」
マサヨシは政吉の周りをぐるぐると歩く。
「死んだのは、昨夜だ。死因は自殺。裁きの対象になった者は、ごく自然な死に方をする」
自殺なら、妥当ということなのか。
「それにお前をいじめた奴は死んではいない。さっきまでは全て幻覚だ」
俺は死んでいるのか。
「ああ、そうさ。お前は死んでいる」
政吉は心をよまれていた。
マサヨシは丁度政吉の前に止まった。そして、こう尋ねた。
「お前がなぜ、いじめを受けるのか考えたことがあるか?」
政吉は答えない。ショックが大きく何も言えなかった。
「それはお前が人に対する思いやりがないからだ。ようは、お前は自己中なんだよ」
「!」
「お前は今まで人に優しくした事がないだろう? お前は他人に対して冷たかったからな」
「そんな・・・・・・。俺って、そんな人間なのか?」
「そうだ。お前は、そういう人間なんだ。だから、いじめらるんだよ、お前は」 そんな・・・・・・。
政吉はその場に座り込んだ。
「お前は、人を死んで欲しいと思った。お前は、その時点で人に思いやりがないんだよ」
「いや、違う」
政吉は立ち上がった。
「俺は人に思いやりがある。俺は彼女を愛していた」「たった、1人だけな」
「・・・・・・」
政吉はこれ以上何も言えなかった。
「さよなら」
そう言って、マサヨシは消えた。
政吉は空間の中に1人ぼっちになった。
寂しい。
その一言しか思わなかった。
「美恵! 俺は君に会いたい! 1人になりたくない! 美恵ぇぇぇぇぇぇ!」
政吉は冷たい床に横向けになる。そして、泣き叫んだ。
「美恵・・・・・・」
すると、どこからか声が聞こえてきた。
「政吉くん!」
「美恵?」
彼は立ち上がって彼女を探した。
「美恵! どこだ!」
また声が聞こえてきた。政吉は声が聞こえてきた方向に走る。
政吉の姿は暗闇の中に消えていった。
一方、マサヨシは遠くから2人の男女を見ていた。
政吉と美恵を。
美恵がなぜ政吉と同じ場所にいるのか。
それは、彼女も裁かれたからだ。マサヨシはミエに変身して、美恵に政吉と同じことをさせたのだ。
同様に美恵も幻覚を見る。自分が自殺していた事に気がつかないまま。
そして牢獄。だが今回はラッキーだ。ルームメイトがいるから。
「いつか会えるといいな」 マサヨシは本来の姿に戻った。その後、彼はどこかへ去っていった。
終わり