適応力
「大丈夫ですか?」
身体を起こし、声を辿る。
俺でも180cm近くある
だとしたらこいつは
190cm近くあるんじゃないか?
爽やかな顔をした男は
長い髪を後で束ねている。
俺は男の差し伸べる手を無視し立ち上がった。
ここは、どこだ。
一面に広がる緑。
「ようこそ。バーチャルワールドへ」
バーチャルワールド?
「ここは空想世界。申し遅れました、私はプラント・ヴィレッジです。どちらでも呼びやすい方でお呼びください。私はいわば新様のサポート役でございます。」
正直、初対面のこいつが
言っていることは全て疑問だらけだ。
教室にいた俺はなんでここにいるのか。
なにがあったのか。
みんなはどこにいるのか。
そもそもこいつは何者だ。
何故、俺の名前を知っている。
サポートとはなんなのか。
でも全てがめんどくさくて
とりあえず状況だけを聞くことにした。
「つまりこの世界はなんなの?バーチャルとか言ってるけど、夢やゲームでもあるまいし。さっきまで見ていた景色と人物はどうなっている?」
「質問はそれだけ?」
「とりあえずは。」
「驚きました。ここまで適応力に優れているとは。」
「それが特技ですから。」
「それでは簡単に説明しますね。この世界は先程言った通り空想世界。まぁ、つまりゲームの中の世界です。今の技術では視界でのみ、ゲームの世界に入り込むことは出来ても、5感を感じ取り本体そのものがゲームの世界に入り込むことは難しい。しかし世界には数人、ゲームの世界に入り込める適応力を持っているものがいる。そのうちの1人が貴方、浜松 新くん。」
つまり、クラスのやつが貸してくれた
VRによって俺はこの世界に飛び込んだ?
そしてこいつ、プラントは初心者の
俺のサポート役であってだからこそ
名前を知っている?
そんなマンガみたいな世界
ありえないと思った。
でもどこか夢だと思いながら
つまらない毎日に解放された気がした。
「わかった、プラント。現実世界に戻る方法は?」
飲み込みが早い俺に対し
一瞬驚いた顔をしたプラントだが
またすぐ笑顔に戻った。