プロローグ
吹き付ける向かい風を正面に受け、リアキャリアに女の子を乗せて、真新しい自転車のペダルを全力で漕ぐ。
少し息が切れ始めたところで、後ろから声がする。
「頑張って下さい。もう少しで頂上です」
それを聞いた僕は、さらにペダルを漕ぐ速度を速めて、言う。
「ちょっと速くするよ。しっかり捕まっててね」
「...はい」
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息は切れていたが、不思議と悪い気分はしなかった。
急な坂はない、とてつもなく長い道のりというわけでもないが、山を自転車で登り切った達成感。
そんなに綺麗なわけではないが、中の上くらいの感動を与えてくれる景色。
そして何より、生まれて初めて、女の子と一緒にプライベートを過ごしたという事実。これは達成感を感じざるを得ない。
しかし、僕に達成感を与えた当人は、全く高揚していない様子だった。彼女は普段から余り感情を表に出す方ではないが、それは僕でもわかった。
彼女はふぅ、とため息を吐くと。僕を見て、次に自転車を見て、街を俯瞰した後、僕に視線を戻して呟いた。
「こんなもんなんですね、所詮」
僕は苦笑する。
「所詮、って。楽しくなかったの?これ」
語りかけると、彼女は残念そうな目で僕の方を見て言った。
「別に、楽しくなかった訳ではないです」
「じゃあどうしたのさ」
「『青春』って、こんなチープな物なんだな、って思って」
「...そう。それは残念だね」
「...帰りましょう。帰りはゆっくりで良いですから」
どこか儚げに笑う彼女を見て、僕は思った。
そんなの、当たり前じゃないか、と。
そんなチープな『青春』というやつに、アンチテーゼを唱える為に、僕らはこんな事をしているんじゃないか、と。
...僕と彼女の間には、二つの『約束』がある。
・絶対に青春しないこと
・青春を許さないこと




